君を知りたい

「あー、一刻も早く、ルリの秘密を解いてやりたい! そしたら彼女は人間の女の子に……こんなすごいことあるか!?

 でも、どうしたらいいか……ルリは自分からは大事な秘密は絶対に喋ってくれないし。いつもクライマックスに差し掛かったところで10分だからな。彼女の心にもっと接近できる何かいい方法は……。

 そうだ! 女子の好きそうな食べ物とかをいっぱい買い込んで、彼女が喜ぶシチュエーションを作るってのはどうだろう?

 けど、ルリの好きな食べ物ってなんだ? 猫だから、魚とか鼠とかなのか? それとも女子だからケーキやチョコレートとかスイーツ系なのか……

 んー、わかんないからとりあえずルリのお気に入りの猫缶と、ちょっと高めのチョコ&クッキー詰め合わせと苺ショートでも買っとくか……ってかめっちゃ経費かかるじゃんか! ビンボー大学生なめんなよ! いや、この出費はやむを得ない。ルリの秘密を掴むためだ……!」


「にゃあん」

「ただいま、ルリ」

「……」

「えっ、何その目?……あ、買い込んで来た荷物が気になるのか? いやこれは何でもないんだ、気にしないでくれ。別に何かを企んでるとかじゃないから……!」

「……にゃ」

「ふうー、警戒の眼差しは引っ込めてくれたか。ほら、ついでに新しい猫じゃらしグッズ買ってきた。いくぞぉーっ!」

「にゃっ!」

「ほれほれこっちー」

「にゃっ、にゃにゃっ!!」

「あー、そんなガブガブ噛むなって。またすぐ壊れちゃうだろー」

「うにゃ、うにゃんっ」

「はは、めっちゃ楽しそうだなー。

 君が女子でも猫でも、君の楽しそうな顔見るのは俺も最高に嬉しいよ、ルリ」





「こんばんは」

「いらっしゃい、ルリ」

「……って、なにこれ!?」

「ん、今夜はちょっと女子会風にしてみた。女子になったルリの好きな物が今ひとつわかんなかったから、いろいろ買ってきてみたんだけど」

「さっきの荷物、これだったの?」

「うん。ちょっとサプライズっぽいのも楽しいだろ?」

「……可愛いクッキー。ケーキの上のイチゴが艶々で……こんな風にいっぱいのお菓子やケーキに囲まれるの、憧れてたんだ。ありがとう、タカヤ。すごく嬉しい!」

「そんなに嬉しいか?……なら良かった」

「じゃあ、まずこのゴージャスなイチゴショートから、いただきまーす」

「どう?」

「ん、おいひい!!」

「……っておい、なんで俺の膝に移動してくる!?」

「ここ、私の一番お気に入りの席だって知ってるでしょ?」

「だからヤバいってー!! 俺はもうほぼ成人男子だっつの!!」

「いちいち騒がないの。私が食べてる間は、どこに触ってもいーよ」

「え……ほんと?」

「うん」

「でっでも、どこでもって……じ、じゃ、髪、ちょっとだけ……

 わ、めっちゃ細くてサラサラだな……いつもすごくいい匂いするし……」

「うふふっ、私も髪触られるのすごく気持ちいい。

 それにしても、私がいちごショート大好物なの、よくわかったね?」

「ん、いや、何となく勘が当たったってかさ」

「幸せだなー。なんと言っても、ショートケーキの上のキラキラな苺を食べる瞬間が人生で一番幸せだよね〜」

「……ん……?

 ルリ……今の言葉、もう一回言ってくれる?」

「……どうして?」

「いいから」

「……なんと言っても、ショートケーキの上のキラキラな苺を食べる瞬間が人生で一番幸せだよね」

「……ええっと……

 なんだろう。その言葉、なんかどこかで聞いたことあったような……」

「……」

「んーー、どこだったっけ? 思い出せないな。気のせいか?

 まあいいか。ルリ、コーヒーとか紅茶とか、何か飲み物は?」

「……オレンジジュースって、ある?」

「あーごめん、オレンジジュースはないや。じゃ今度買っとくよ。オレンジジュースとケーキやお菓子が好きって、ガチな女の子だな」

「私のこと、ちょっとわかった?」

「うん、少しずつな」

「ねえ、もっとあちこち触ってもいいんだよ?」

「いやいやもう今回はこれがいっぱいいっぱいだから!! 煽るのやめてくれっ!」

「……私も、タカヤのこと知りたいな」

「ん、何を?」

「タカヤって、彼女とかいるの?」

「おい、いきなりそこ聞くかよ? まあいいか、今はいないよ。いざ付き合ってみても、なぜかあんまり長く続かなくてさ」

「じゃ、初恋の子は?」

「え……初恋?」

「あ、もう残り1分切ってる」

「うーん、何でこう毎回毎回こういう半端なとこで話ぶった斬られんだ?」

「じゃあさ、来週この話の続きしようよ。楽しみにしてる! じゃあね、タカヤ」

「……ん、また来週」



「うにゃーん」

「ルリ、おいで」

「にゃ、にゃ」

「ちょっとずつだけど、君のこと、わかってきたよ。今日は君が素直に喜ぶ顔や幸せそうな顔も見られた。苺ショートが好物ってことも。タイムリミットがあるから、あまりのんびりはしてられないけどな。

 そうだ、これから毎週君についてわかったことはちゃんとメモっとこう。君の秘密を解くカギになるかもしれない」

「んにゃん、にゃん」

「はは、今日は一段と甘えん坊だなー。お菓子とケーキでご機嫌になったせいか?

 ……しかし、さっき君が言った『ショートケーキの上のキラキラな苺食べる瞬間が人生で一番幸せだよね』って言葉……うーん、何だったんだろ……」



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