君を知りたい
「あー、一刻も早く、ルリの秘密を解いてやりたい! そしたら彼女は人間の女の子に……こんなすごいことあるか!?
でも、どうしたらいいか……ルリは自分からは大事な秘密は絶対に喋ってくれないし。いつもクライマックスに差し掛かったところで10分だからな。彼女の心にもっと接近できる何かいい方法は……。
そうだ! 女子の好きそうな食べ物とかをいっぱい買い込んで、彼女が喜ぶシチュエーションを作るってのはどうだろう?
けど、ルリの好きな食べ物ってなんだ? 猫だから、魚とか鼠とかなのか? それとも女子だからケーキやチョコレートとかスイーツ系なのか……
んー、わかんないからとりあえずルリのお気に入りの猫缶と、ちょっと高めのチョコ&クッキー詰め合わせと苺ショートでも買っとくか……ってかめっちゃ経費かかるじゃんか! ビンボー大学生なめんなよ! いや、この出費はやむを得ない。ルリの秘密を掴むためだ……!」
「にゃあん」
「ただいま、ルリ」
「……」
「えっ、何その目?……あ、買い込んで来た荷物が気になるのか? いやこれは何でもないんだ、気にしないでくれ。別に何かを企んでるとかじゃないから……!」
「……にゃ」
「ふうー、警戒の眼差しは引っ込めてくれたか。ほら、ついでに新しい猫じゃらしグッズ買ってきた。いくぞぉーっ!」
「にゃっ!」
「ほれほれこっちー」
「にゃっ、にゃにゃっ!!」
「あー、そんなガブガブ噛むなって。またすぐ壊れちゃうだろー」
「うにゃ、うにゃんっ」
「はは、めっちゃ楽しそうだなー。
君が女子でも猫でも、君の楽しそうな顔見るのは俺も最高に嬉しいよ、ルリ」
*
「こんばんは」
「いらっしゃい、ルリ」
「……って、なにこれ!?」
「ん、今夜はちょっと女子会風にしてみた。女子になったルリの好きな物が今ひとつわかんなかったから、いろいろ買ってきてみたんだけど」
「さっきの荷物、これだったの?」
「うん。ちょっとサプライズっぽいのも楽しいだろ?」
「……可愛いクッキー。ケーキの上のイチゴが艶々で……こんな風にいっぱいのお菓子やケーキに囲まれるの、憧れてたんだ。ありがとう、タカヤ。すごく嬉しい!」
「そんなに嬉しいか?……なら良かった」
「じゃあ、まずこのゴージャスなイチゴショートから、いただきまーす」
「どう?」
「ん、おいひい!!」
「……っておい、なんで俺の膝に移動してくる!?」
「ここ、私の一番お気に入りの席だって知ってるでしょ?」
「だからヤバいってー!! 俺はもうほぼ成人男子だっつの!!」
「いちいち騒がないの。私が食べてる間は、どこに触ってもいーよ」
「え……ほんと?」
「うん」
「でっでも、どこでもって……じ、じゃ、髪、ちょっとだけ……
わ、めっちゃ細くてサラサラだな……いつもすごくいい匂いするし……」
「うふふっ、私も髪触られるのすごく気持ちいい。
それにしても、私がいちごショート大好物なの、よくわかったね?」
「ん、いや、何となく勘が当たったってかさ」
「幸せだなー。なんと言っても、ショートケーキの上のキラキラな苺を食べる瞬間が人生で一番幸せだよね〜」
「……ん……?
ルリ……今の言葉、もう一回言ってくれる?」
「……どうして?」
「いいから」
「……なんと言っても、ショートケーキの上のキラキラな苺を食べる瞬間が人生で一番幸せだよね」
「……ええっと……
なんだろう。その言葉、なんかどこかで聞いたことあったような……」
「……」
「んーー、どこだったっけ? 思い出せないな。気のせいか?
まあいいか。ルリ、コーヒーとか紅茶とか、何か飲み物は?」
「……オレンジジュースって、ある?」
「あーごめん、オレンジジュースはないや。じゃ今度買っとくよ。オレンジジュースとケーキやお菓子が好きって、ガチな女の子だな」
「私のこと、ちょっとわかった?」
「うん、少しずつな」
「ねえ、もっとあちこち触ってもいいんだよ?」
「いやいやもう今回はこれがいっぱいいっぱいだから!! 煽るのやめてくれっ!」
「……私も、タカヤのこと知りたいな」
「ん、何を?」
「タカヤって、彼女とかいるの?」
「おい、いきなりそこ聞くかよ? まあいいか、今はいないよ。いざ付き合ってみても、なぜかあんまり長く続かなくてさ」
「じゃ、初恋の子は?」
「え……初恋?」
「あ、もう残り1分切ってる」
「うーん、何でこう毎回毎回こういう半端なとこで話ぶった斬られんだ?」
「じゃあさ、来週この話の続きしようよ。楽しみにしてる! じゃあね、タカヤ」
「……ん、また来週」
「うにゃーん」
「ルリ、おいで」
「にゃ、にゃ」
「ちょっとずつだけど、君のこと、わかってきたよ。今日は君が素直に喜ぶ顔や幸せそうな顔も見られた。苺ショートが好物ってことも。タイムリミットがあるから、あまりのんびりはしてられないけどな。
そうだ、これから毎週君についてわかったことはちゃんとメモっとこう。君の秘密を解くカギになるかもしれない」
「んにゃん、にゃん」
「はは、今日は一段と甘えん坊だなー。お菓子とケーキでご機嫌になったせいか?
……しかし、さっき君が言った『ショートケーキの上のキラキラな苺食べる瞬間が人生で一番幸せだよね』って言葉……うーん、何だったんだろ……」
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