10月12日(水) 16:55

「――というわけで、ここがその現場だよ」


 生徒会長に連れられてたどり着いたのは、校舎裏だった。

 周囲に人影はなく、俺と彼女のふたりだけ。そりゃそうだ、ここは常に日陰でジメジメしている。こんな場所を好むのはかたつむりくらいだ。


「それにしても生徒会長、すごい人気にんきですね」

「え? そうかな?」

「だってここに来るまで、すれ違った生徒のほぼ全員があいさつしてきたじゃないですか」

「曲がりなりにも生徒会長だからね。一応、みんなの信任を得て選ばれてるわけだし」

「……」


 彼女はそう言うけど、人気の理由は生徒会長だからそれ、だけじゃないだろう。その証拠に何人かは「おっ、『5分探偵』だ!」なんて声をかけてきた。

 学校でなにかあったとしても、彼女がいれば大丈夫だ。しかもただ解決するだけじゃない。たった5分で、だ。その安心感ははかり知れない。

 起きた出来事を記事にする新聞部おれたちとはある意味真逆の存在だよな。


「それで、ここではどんな事件があったんですか?」

 考えてもしょうがないので、俺は本題にもどる。すると生徒会長は「事件っていうほどじゃないけど」と前置きしてから、俺の背後を指さした。

「そこ。校舎の壁にラクガキがされてあったんだ」

「ラクガキ、ですか」


 たしかに事件というよりイタズラに近いかもしれない。だけど放っておいていいものともいえない。いやそれよりも、


「どこにもありませんよ。肝心かんじんのラクガキ」


 俺はふり返って見渡すが、壁のどこにもラクガキは見当たらない。せいぜい、こけがついていたり、塗装とそうがはがれていたりしているくらいだ。


「だって、犯人はんにんに消してもらったからね」

「犯人に?」

「うん」

「ちなみに、誰なんですか? ラクガキをした犯人は」

「それは言えないかな。ちゃんと罪を認めて、こうしてきれいにしてもらったし」


 とあるクラスの子とだけ言っておくよ、と生徒会長はウィンクをしてくる。


「ビックリしてたよー。まさかこんなに早くバレるなんて思ってなかった、ってね」

「この事件も、5分で解決したんですか?」

「そうだよ。正確に測ったわけじゃないけど、ラクガキを見つけてからそれくらいしか時間はたってなかったかな」


 事件が起きたのはまだ昨日だっていうのに、もう後始末あとしまつまで終わっている。さすがは『5分探偵』といったところだろうか。その名にじないスピードだ。

 だけど感心している場合じゃない。俺はきちんと取材して、彼女のことを記事にしないといけない。


「ラクガキは、会長が見つけたんですか?」

「うん、そうだよ」

「こんな人気ひとけのないところを通ったのはどうしてですか?」

「ちょうど体育館に用事があってね。ここ、近道なんだよ」


 なるほど。特に事件のためにパトロールとかをしているわけじゃない、ってことか。


「ちなみにラクガキは、どんなものがいてあったんですか?」

「うーん、どうだったかな。あんまり覚えてないけど、誰かの悪口とか、そんなのじゃなかったと思うよ」


 生徒会長はよどみなく答える。まあ事件を解決した張本人なんだし、当然といえば当然。


「ほかにきたいことはあるかな?」


 ニコリと、笑みを向けてくる。なんでも訊いてくれ、と言わんばかりだ。俺は手に持ったメモ帳のページをめくって、質問を続ける。


「じゃあ、現場に遭遇そうぐうしてから解決するまでの流れを、簡単に教えてもらってもいいですか?」

「もちろん」


 彼女はうなずくと、話し始めてくれた。

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