第20話 運命数

僕は町中を必死に探し回った。


 一緒に行ったスーパー、宅老所、近所に一つしか無いなぜか二十四時間営業じゃないコンビニ、今どき百円税込みでラーメンを出す店、ライブをやったA市民会館も。


 結局、鈴さんは見つからなかった。

 痕跡すら僕には見つけられなかった。


 とぼとぼと家に帰ってきた僕は手当たり次第に知人に電話したけれど、米子さんも、えつさんも、朋香も、桐春も、誰も鈴さんの居場所を知らなかった。

 鈴さんから連絡を受けた人もいない。


 手紙もメッセージも残さずに。忽然と鈴さんは消えたのだ。

 リビングに座ったまま、僕はどうするべきか悩み続けていた。


「ごめんね、忠清」


 心配して家まで来てくれた朋香が、げっそりとした顔で述べる。


「何で朋香が謝るんだよ?」


「私、純さんが死んだ後、鈴さんに言っちゃったんだ――ずっと前から、私は忠清が好きだったって」


「…………」


 ――何も、気づけなかった。


 鈴さんもそんな様子は見せなかった。

 純さんと桐春は死別してなお、気持ちが繋がっていた。


 その様を僕と一緒に見ていた朋香にも、考える所があったのだろう。


 ――あんな恋愛を見せつけられれば、僕だって気持ちが焦る。


 他人事のように考える自分に、嫌悪感が沸いた。


「鈴さん、にこにこ笑って、そうだったのかい、って――私のせいで鈴さん、居場所無くしちゃったのかも……」


「関係無いよ。みんな混乱してるけど、鈴さんがいなくなるなんて誰も思ってもいなかったんだから」 


「……そうかな」


 本音では、関係が無いとは言い切れない。

 純さんが死んで、ファンだったアヤさんが死んで、鈴さんがいなくなって。


 ここでそうだと言ってしまったら、朋香の脆弱な心は持たないだろう。

 これ以上誰かが心を砕かなくていい。


 最近のこの町は希望と絶望とが連続で、代わる代わるやって来すぎる。

 それも軽い形で。


 今は、鈴さんを見つけることの方が大事だ。

 米子さん達も探してくれると言ってくれたが、連絡は無い。


 警察にも電話してみたが、黙って任せておく気にはなれなかった。


 かといって、手がかりは何一つ無いと言うのが現状だ。


 独り身の鈴さんを知る友人は限られているし、親類の連絡先も僕は知らない。


 ――あの人が。


 こんなに孤独だったなんて。


 子どものころからずっと、僕は何を見てきたのか。


「本当に、こんな状況じゃ何も予想出来ないね……」


 朋香は憔悴しきっている。


 うん、と頷いた僕の心に、何かが引っかかった。


 予想――

 予想出来ない状況。


 未来の情報。


「そうか――冴えてるよ朋香!」


「へ? 何が?」


 怪訝そうに、朋香が僕の顔を窺う。


「一人だけ、頼れるかもしれない人がいる!」


 懊悩した末、僕が思い出したのはある人物だった。

 本当に一縷の、最後の希望だ。


 現状を予見していたあの人ぐらいしか、僕には残されていなかった。


 ――運命の数は変えられない。


 僕の脳裏でリフレインする。


 若返りながら若返りを嫌悪していた、あの予言者の言葉が。

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