第11話 さらに圧力の強いところへ

 地底の中心より重い船が完成して、チリトとカスミは乗り込んだ。

 新しい地底船も、ちゃんと快適な閉鎖型地球環境に作られている。この地底船は、地球の中心より重いので、少しずつ地球の中心へ落ちて行って、地球の中心に寄せられるように移動していく。

 マントルからもっと下へ移動を開始する。

 二百番代元素でできた船なんかに乗って、乗組員の健康に影響がないか心配だ。

 いよいよ外核だ。

 さらに圧力の強いところへ。

 チリトたちの地底船は、地球の外核へたどり着き、突き進む。外核は、鉄とニッケルの液体でできている。地底船の素材は二百番代元素であり、鉄やニッケルより遥かに重い。地底船は鉄とニッケルの液体を通り抜ける。

 外核には、鉄ライオンとニッケルライオンがいて、それぞれ群れをなして戦っていた。

 鉄ライオンは大きさが二メートルくらいで、ニッケルライオンは大きさが三十メートルくらいだ。鉄ライオンとニッケルライオンが何体いるのか、チリトは数えようとしたが、音源探知や赤外線観測では、外核の中の動物をうまく探し当てることができなかった。鉄ライオンは少なくても、百体はいる。ニッケルライオンもそれくらいいるだろう。

 外核は2300キロメートル以上の大きさがあるので、外核の調査をじっくり行うことはできない。チリトたちは、外核の詳細な調査は後まわしにして、地底の中心に向かう。今回は、外核は通過するだけだ。四十日もあれば、地底船は外核を通りすぎてしまうだろう。

 鉄ライオンとニッケルライオン以外にどんな地底生物が外核にいるのかはわからない。高度な翻訳技術によって、鉄ライオンとニッケルライオンとも会話ができる。

 鉄ライオンは、鉄こそが存在の支柱であり、鉄ライオンが地底を統べるべきだと考えていた。

 ニッケルライオンは、ニッケルこそが存在の支柱であり、ニッケルライオンが地底を統べるべきだと考えていた。

「おまえたち、人類は、鉄に従わなければならない」

 鉄ライオンがいった。

「断る」

「おまえたちは、ニッケルに従うつもりか」

「ちがう」

 鉄ライオンとニッケルライオンのどちらが勝つのか、チリトは確かめることなく外核を通りすぎるしかない。鉄ライオンとニッケルライオンの戦いは、内核までつづいているが、地底の中心でどちらかが勝っているかはわからない。どちらかが勝っているはずだ。

「鉄ライオンよ、あなたたちは地底の中心に行ったことがあるか」

「ない」

「ニッケルライオンは、地底の中心に行ったことがあるのか」

「ない」

「我々、人類は、これから地底の中心に行くつもりだ」

 それを聞いて、鉄ライオンとニッケルライオンは好奇心を表現した。

「鉄ライオンは地底の中心がどうなっているのかを知りたい」

「確かめて来よう」

「鉄ライオンはおまえたちを応援しよう」

 外核の生物たちは、地底の中心の勝者を知らないため、地底の中心を知らずに生きることのむなしさを語った。

 外核にも、知的生物は存在した。チリトたちはそのことを確かめた。

 人類は船に乗る種族であり、船は鉄でもニッケルでもできていない。人類が外核を通って内核まで行く予定であることを知ると、鉄ライオンとニッケルライオンは、地底の中心にいるのは鉄でもニッケルでもないのかもしれないと考えた。

 チリトは、熟慮の末、外核での地質標本採取を行うことにした。外核の地質標本は、液体金属のはずだ。事故が怖いが、地底船の冷却能力は充分だと判断した。外核の地質標本を長さ数センチメートルの大きさのものを採取して、全力で冷やした。地上へ持って帰らなければならない。

 チリトは、地底の中心に向かいながら、地底船の中で、壁抜け技術について考えていた。

 地表の気圧に比べて、地底の中心の圧力は364万倍。しかし、たった364万倍なら、原子構造や素粒子構造から考えて、壁抜け技術で通り抜けることのできる可能性がある。原子構造の密度を考えれば、364万倍くらいの比率はかなり小さなものだ。電子との距離と原子核の大きさは、100億対1の比率だ。ならば、うまくやれば、364万対1の比率の物質密度をすり抜けられるのではないだろうか。今回は、チリトたちは地底船を作って地底の中心を目指したが、人類は地底探査を、壁抜け技術によって行うべきじゃないかと、チリトは考えた。

「チリト、びっくりだ。外核まで来て、そんなことに気づくなんて」

 カスミは、あきれてしまった。が、カスミも、364万倍の圧力なら、壁抜け技術を完成させることができるのではないか検討した。

「まあ、地底の中心にたどりつく方法は、たくさんあるさ。今回は地底船で泳いで行こう」

 チリトはいった。

 外核を抜けたら、次は内核だ。

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