第5話 地震
地震が起きた。
地上の地震は、地殻の揺れで発生するもので、震源地はチリトが居る地底よりかなり浅い。
マントルで地震が起きるのかどうかも地底探査隊が調べなければならないことだ。マントルは地殻より重いので、マントルの方が安定性が高いが、マントルの溶けた岩盤が乱れて揺れることはあり、マントルでも地震は起きる。
溶けた岩盤の中で泳ぐ地底船は、地震によっては壊れない。海の中のクジラが乱流に耐えられるように、地底船は地震に耐えられる。
地底を下へ行けば行くほど、波を起こしている粒子は重くなり、力は強くなる。どれだけ深く下へ降りていっても、地震がなくなることはないはずだが、下へ行けば行くほど、地震に対しての耐性を身に付けなければ、船体を維持することはできない。
チリトは、地震の原因が何かに興味があった。チリトからすれば、地震を起こしているものは、地球を揺らしているのだ。地球を揺らすほどの力の持ち主とはいったい何なのか。
地震は、粒子の物理的な原理に理由があるのだろうか。
「我々は地震の原因を探して旅をしている」
地底ユニコーンという種族がいった。
人類の地底探査隊の中にだって、地震の原因を探して地底へ行く、そういうやつもいるだろう。
地底生物だって、地震の原因を探して旅をするかもしれない。
大気に嵐があり、海に乱流があるように、地底にも地震がある。
「こちら、人類。あなたたちは地震の原因を発見したか」
チリトは、地底ユニコーンに岩盤音波で話かけた。
「地震はたくさん起きる。いくつかの原因は見つけている」
地底ユニコーンは答える。
地震の震源は地球の全体に例外なく均等に分布している。
チリトは地震の原因を理解した。地震の原因は、地底トドが食べている爆発だ。あの爆発は、大小に関わらず、地底に地震を起こしているのだ。
鈍い赤。地底の色。
「地底ユニコーンよ、おれは地震の原因を突き止めた」
チリトが説明した。
「その原因は、意志を持っていたか。地震を起こしているものが意志を持つのかどうか。その可能性を考えている」
と地底ユニコーンはいう。
「地震の原因が意志を持っているということはなさそうだぞ。あれはただの爆発だ」
「地震の原因は、爆発だけだろうか」
「それはまだわからない」
チリトと地底ユニコーンが話す。
「我々はまだまだ地震の研究を続ける」
地底ユニコーンはいう。
「それがいいよ。おれもまだ地震で気になることはある」
「ならば、さらに奥深い地震の研究を教えよう。地震は、生命の誕生と関係があるかもしれない」
地底ユニコーンはいう。
そういうことか。チリトは考える。地上の生物が海底熱水孔で誕生したように、地底の生物は、地震による化学反応から生まれたのではないか。
地底生物の単一起源説と多地域起源説のどちらが正しいのだろうか。この広い地底で、地底生物すべてが単一起源ということがあるのだろうか。
地底トドは、その爆発を食べているのだ。
チリトは、爆発と地底生物の誕生と地底トドの関係が気になる。
地底トドは、命の製造ができるのだろうか。
地底トドも、おそらく、かつては地震のくり返しから誕生した地底生物だったのだろうが、いつの間にか、生命の誕生に干渉できるように進化したのだ。
そして、チリトは、地底生物たちの<種族越えの伝承>を知った。
<種族越えの伝承>とは、地底生物の多くの種族の間で語り伝えられる伝承で、地底では不規則に大爆発が起きるというものだった。大爆発は地底生物たちを死滅させることがあり、大爆発を生きのびることに備えなければ、種族は滅んでしまうという。大爆発は、地震とは異なり、地震より危険なものであるという。大爆発という災厄の予言が<種族越えの伝承>だ。
大爆発は地震より恐ろしいのだという。いったい何が起きるんだろうか。
チリトは散髪をした。地底船には、散髪の機能も必要だ。散髪ができないと、長期間の地底探査はできない。
そういえば、地底の資源開発を行うことも、地底探査隊の仕事だったな、とチリトは思い出した。
マグネシウムやケイ素は、マントルに大量にあるが、運ぶのは不可能だろう。巨大結晶でも見つかれば、物好きは喜ぶかもしれないが、赤外線で外部を観察している地底船で巨大結晶を発見するのは難しそうだ。
資源開発は後まわし。チリトはそんな気分だったので、地底資源の調査は適当だった。地底の知的生物との交渉が成功したのだから、地底資源の開発に時間を割く余裕はない。
外核まで行けば、鉄とニッケルは大量にあるが、そんなものを地上が欲しがっているのだろうか。
地底の希土類を、今回の地底船で探すのは難しいとチリトは考えている。
地底に予想外の財宝が見つかる可能性もあるが、おそらく、それは夢物語だろうと、そんなことを考えて地底探査をしていたら、チリトは、大きな黄金の塊を発見した。大きさ数十メートルある黄金の塊だ。今は持って帰ることはできないが、地上に帰って、数十メートルの大きさの黄金を運べる地底船でここに戻ってくれば、あっという間に大富豪になれそうだ。
財宝の発見なんて、あまり期待していなかったが、黄金の塊が見つかるのも、地底探査のやる気が上がってくる成果だなとチリトは思った。
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