第4話 一週間しか歴史を持たない生物
歴史を持たない国家は、いったいどのような生き方をするのか。
地底トドが爆発を食べると、それが消化され、吐き出される。爆発は栄養が豊富で、地底トドの消化した栄養から生物が大繁殖する。
地底トドの食べた後に吐き出された生物圏が、急速に誕生して成長する。そこに生まれた生物は地底ニワトリだ。爆発の跡地に地底ニワトリが大繁殖する。
爆発から一時間がたった。
「一時間生きのびたものよ」
地底トドが爆発の跡地を周回して、地底ニワトリに話しかける。
地底ニワトリは、生まれてから一時間しかたっていない生き物だ。チリトも、岩盤音波で地底ニワトリに話しかけてみた。
「一時間前に生まれた種族たちよ」
チリトが地底ニワトリに話しかける。一時間しか歴史を持たない生物と会話ができる。どんな会話をしようか。チリトは考える。
「岩が美味しいね」
地底ニワトリが答える。
「岩を食べるために生まれた地底ニワトリたちよ。どうか、おれの呼びかけに答えてくれ」
「あなたは何者なのか」
「人類だ。地表から来た」
「地表とは、どこにある土地の名前か」
「地表は、ここからずっと上にある」
「あなたは、我々が生まれる前から生きているのか」
「そうだ」
「我々はいったいなぜ生まれたのか」
「地底トドの食べた爆発から生まれたのだ」
「地底トドとは、あそこで泳いでいる巨大な生き物か」
「そうだ」
「地底トドが爆発を食べたから、我々が生まれたのか」
「そうだ」
「我々が生まれる前は、世界はどうなっていたのだ」
「今とたいして変わらない」
「地底トドは我々が生まれる前から生きているのか」
「そうだ」
「そういうあなたも我々が生まれる前から生きているのか」
「そうだ」
「あなたは人類なのか地底船なのか、どちらなのだ」
「人類だ。人類は船に乗る種族だ」
チリトは答える。これは重要な知識だと地底ニワトリたちも考えた。船に乗るという概念が地底ニワトリに伝わったのだった。
この会話の間にも爆発がたくさん起きて、地底トドたちがたくさんの爆発を食べている。そして、その爆発から、跡地に地底ニワトリがたくさん生まれる。
「地底トドはとても力強い生き物だ。人類は船に乗る賢い生き物だ」
地底ニワトリがいう。
「人類より我らのが賢い」
地底トドがいった。
「もっと世界のことを教えてくれ、人類よ」
地底ニワトリがいった。
チリトは、地底ニワトリの調査に重点を置いて活動することにした。地底ニワトリと地底トドの関係を調べようとしたのだ。
「地球は何十億年も昔に誕生した。我々人類は、三十五億年間を地表ですごし、ようやく、数日前に地底にやってきた。そこで、おれは地底トドの食べた爆発から地底ニワトリが生まれるのを見た。それで、おれは生まれたばかりの種族の地底ニワトリと会話している」
チリトが説明した。
「人類よ、それはとても奇妙な話だな。簡単には理解することができないぞ」
地底ニワトリはチリトとの会話を好んだ。チリトが岩盤音波で話すととても喜んでいる。
「人類よ、あなたの目的は何なのだ」
「地底の探査だ。下を目指す。おれは地底の下に何があるのか調べに行く探査係だ」
「すると、人類には他に仲間がいて、その仲間は地表に残っていて、あなたは探査係として下を目指しているのか」
「そうだ。よく理解してくれた」
「下! 下には何があるのだ、人類よ」
「それは、まだ行ったことがないからわからない」
チリトは正直に答えた。
ここまでの会話に六日間がかかった。
地底ニワトリたちは、六日間がたつと、少しずつ死んでいき始めた。チリトは驚いた。爆発の跡地に生まれた地底ニワトリは六日間で死んでしまう。
「地底ニワトリよ、六日で滅びようとしている種族よ。種族として言い残すことはあるか。船に乗る種族人類が聞きとどめておくべきことはあるか」
チリトは岩盤音波で話した。
六日目、死に絶えようとしている地底ニワトリたちは相談しているようだった。
「我ら、地底ニワトリは覚えている。人類は、地底ニワトリが生まれるより前から生きていた。そして、人類は、地底ニワトリが滅びるより後にも生き残るのだ」
「そうだ」
「我らを作ってくれたものよ、幸せな人生をありがとう。我ら地底ニワトリは六日間、とても幸せに生きることができた。幸せに生まれ、幸せに生き、幸せに滅ぶ。命に感謝したい」
「地底ニワトリよ、おまえたち、そんなに幸せだったのか。おれたち人類の人生はそこまで幸せじゃないぞ。うらやましいな」
「地底ニワトリに生まれて悔いなし」
地底ニワトリたちはそう言い残して死んでしまった。
これが一週間しか歴史を持たない生物の記録だ。
その後、地底トドがまた爆発を食べて、別の地底ニワトリが生まれた。新しい地底ニワトリにチリトは話しかけた。チリトは、地底ニワトリに、その地底ニワトリたちが生まれる前に別の地底ニワトリが生まれたことがあり、その地底ニワトリたちは六日間を幸せに生きて絶滅したことを伝えた。
地底ニワトリはそれを聞いて、人類に泣いて感謝した。
「人類のおかげで世界を知った」
と地底ニワトリたちは喜んだ。おそらく、六日後にこの地底ニワトリたちも滅ぶだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます