神通力尾の事件ファイル2「複数容疑者事件」
美術品紛失事件から3日後、神通力尾事務所に客がやってきた。幼稚園時代からの幼馴染、警視庁の
実はこの事務所を利用する客のほとんどが恵武警部の口利きによるものなのだ。そのため警部からの依頼は内容に関係なく1件千円で請け負っている。
「君もこの事件に一枚噛んでいるようだし、できれば犯人逮捕に協力してほしい。ひょっとして事件の全容はすでに解明しているんじゃないのかい」
「何度も言っているでしょう。自分の興味本位で能力は使わないと」
己の生命に関わるような危機的状況は別として、超能力の使用はあくまでも他者からの依頼時のみに限定する、これが神通力尾の鉄則である。
「相変わらず頭が固いな。まあいい、これを見てくれ」
応接セットのテーブルに4枚の写真が並べられた。言うまでもなく美術品紛失事件の容疑者である。
「博物館に侵入した形跡が一切ないことから内部犯の疑いが濃厚だ。リストアップされたのがこの4人。一番疑わしいのは
「4人のアリバイは?」
「裏付けが取れないものばかりだ。全員独身で一人暮らしだからな」
「なるほど。ではさっそくやってみましょう。はああ~、カッ!」
神通力尾は大声を上げて立ち上がると右拳を突き上げて虚空を睨み付けた。超能力を発動させるお決まりのポーズだ。
「わかりました。犯人は館員太郎です」
「ほほう。今回はどんな超能力を使ったんだ」
「未来視です。明日の午後6時、重要参考人として取り調べを受けていた館員太郎が自白したため逮捕される情景を見ることができました。よって犯人は館員太郎です」
「そうか。よし、さっそく署に戻って館員太郎を呼び出すとしよう。あとはゆっくり休んでくれ」
「おやすみなさい、ふわあ~」
難なく事件を解決した神通力尾は簡易ベッドに寝転んだ。すぐ寝息が聞こえてきた。
「この24時間睡眠、超能力でなんとかならんものかね。使い勝手が悪すぎる」
「労働の後には休息が必要なのです。はい、請求書」
「今回も手間をかけたな」
ミス・シッディに千円を渡した恵武警部は足早に事務所を出て行った。
その後、館員太郎は警察に呼び出され取り調べを受けた。最初は頑なに否定していたが、自分が逮捕される光景を超能力者が未来視したという話を聞かされると、どういうわけかあっさり自白したため逮捕された。首尾よく事が進み大満足の恵武警部であった。
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