第34話 ありのまま

「はっはっは、気が利く青年たちよもっと飲め。ほら、酒ならいくらでもあるぞ」

「あの、僕らは未成年なので」

「おおそうか、なら酒はもらうぞ。はっはっは」

「……」


 週末。

 東弥と小春はバーベキューを企画した。


 そして開催場所は東弥が個人的に所有しているという公園で。

 貸し切りとあって、周囲は警備のもので張り巡らされ、野球の試合ができるほど広いスペースには東弥達四人しかいない。


 小春と一花、そして佐助である。


「いや、なんか思ってたのと違うな」

「東弥様、どうかされました? バーベキューしたいといったのは東弥様ですよ?」

「小春、こういうのは貸し切りでやるもんじゃないだろ」

「そうですか? 私、あまりほかの人がわいわいしてるところ好きじゃないので」

「お前って案外金持ちの嫁にふさわしいのかもな……いや、今はそういう話じゃなくて」


 東弥と小春は肉を食べながら、酔っぱらう佐助をあきれるように見る。

 そしてその隣でイライラする一花も。


「あのね、あんた今日は休みだからって何勝手に酒飲んでるのよ!」

「だ、だってお嬢様、久々のお酒が目の前にあったのでつい」

「私が買い物行きたいっていったらどうするつもり? 他の運転手呼んであんたは首ね」

「そ、そんな……お嬢様、どうかそれだけはご勘弁を」

「まあいいわよ。でも、そんなにお酒っておいしいわけ?」

「ええ、とても。でも、お嬢様は飲んではだめですぞ」

「なんで? 子供だって言いたいの?」

「それもそうですが……お嬢様はずっと健康にお過ごしいただきたいので」

「……ほんと、酔っててもそういうことはすらすら言えるんだからむかつく」

「す、すみません。ええと、お肉食べますか?」

「食べるわよ。ほら、ちゃんとおいしそうなところを取ってきて」

「はっ」


 広い公園のど真ん中で焼ける肉を取りながら汗を流す佐助の背中を見て、はあっとため息をつく一花。


 そして東弥と小春を見る。


「二人とも、今日はお誘い感謝するわ。でも、余計なお世話よほんと」

「ごめん、だけど一花の話を聞いてたら何かきっかけでもいるんじゃないかなって」

「まあ、こうして貸し切りにしてくれたおかげであいつとは話しやすいけど。でも、ほんとあんな酔っ払いに、どうして麗しき女子高生の私がヤキモキさせられないといけないのかしら」

「まあ、いいじゃんか。それより、ほっといたらやばそうだけど」

「え? あー、また飲んでるあいつ! こらー、私の肉はどうしたー」

「す、すみませんお嬢様、ただちに」

「……ったく」


 東弥は、自分といる時の一花とは違った一面を見て、少し驚く。

 

「なんか一花も、俺の前ではキャラ作ってたんだな」

「東弥様、そりゃそうですよ」

「小春……まあ、俺もどれが自分の素かと聞かれたらわかんねえけどな」

「東弥様はお金持ちの中では常識的で、でも案外非常識って感じですよ」

「なんか褒められてないなそれ」

「ふふっ、完璧であろうとする必要なんてないんですよ。ありのままの自分を愛してくれる人と一緒にいられる方が長続きしますし。それに、どんなに自分を曝け出したつもりでも多少は見栄を張ってるものですから」

「そういう小春も見栄はってるのか?」

「ええ、私もこう見えてだいぶ背伸びしてますもん」

「ふーん」


 そうは見えないけど、と言いたげな東弥に対し小春はクスクス笑う。


 そして、なぜこんなバーベキューを小春が率先して開催したのか、不思議になる。


「なあ、今日の本当の目的はなんなんだ?」

「え、それは別に……親睦を深めたかっただけですよ」

「嘘つけ。どうせ一花に俺たちの関係を見せつけてやろうとか、そんな浅はかなこと考えてたんだろ」

「ぎくっ」

「ったく。そんなことだろうと思ったよ。でも、そんなことする必要ないからな」

「なんでです?」

「……俺は小春の彼氏だから。他の女と遊んだりしない」

「東弥様……えへへ、東弥様ってわかりやすい人ですね」

「お前には言われたくねえよ」


 小春も、すっかりご満悦だった。

 この後、美味しく肉をいただいて佐助が酔い潰れるまでバーベキューは続き。


 やがて、ヘロヘロになった佐助が一花の使用人達に連行された。


「やれやれ、ほんとあのバカったら調子乗って……ごめんね東弥君」

「いいよ別に。でも、あんな姿を見ても真田さんが好きなんだろ?」

「……ちゃんとお父さんと話してみる。あいつなら、一生私を大切にしてくれるって、そう思うから」

「うん、それがいいよ。もし反対されたら俺が言いにいってやるよ」

「ふふっ、なんかそれはそれで複雑だけど嬉しいわ。じゃあ二人とも、仲良くね」


 一花が車に乗る。

 それを見送ってからすぐ、東弥達は自分達だけで片付けを始める。


「さてと、こういうのを人にやらせるようだといつまでもお坊ちゃん扱いだからな。小春も手伝え」

「はい。そういう東弥様も好きですよ」

「ありがと。そういや夏休み、どこ行く?」

「東弥様は毎年どうされてたんです?」

「んー、だいたいハワイにいたかな?」

「そういうところ、やっぱりお金持ちさんですね。でも、私は家で映画見るとかでいいですよ」

「だな。ちゃんと働いて、お金稼いだら一緒に旅行でもいくか」

「ええ、そうしましょ」


 この後、一花と真田がどうなったのかを聞くことはなかった。


 でも、翌日の学校で一花が男子に告白されていたところを目撃した時、「私、好きな人がいるから」とはっきり言っていたのを見て、二人の関係がうまくいっていることをなんとなく察した二人だった。

 

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