第33話 刺激がほしい

「小春、学校行くぞ」

「あ、待ってください今いきますから」


 式場の下見をしてから数日経った。


 あれ以降、玄弥たちは東弥の前に姿を見せることはなく。

 小春も小春でおとなしく東弥に従っている。


 それが東弥にとってはかえって不気味だったけど。

 特に何か裏でこそこそしている様子もなく、普段通りの週末を過ごして今日からまた学校である。


「でも、学校で俺たちのことをわざわざ言わなくていいからな」

「どうしてです? 学校中に自慢したいです」

「そういう自慢は嫌われるもとだ。目立つことはしたくない」

「ふーん、ほかの女の子に知られたくないとかじゃなくて?」

「違う。俺は浮気とかそういうのが一番嫌いなんだ。だから余計な心配はするな」

「はーい」


 すっかり小春は彼女として板についていた。

 そして時々変なことを言う癖は変わらないが、基本的にはいい彼女として東弥のそばにいる。


 二人で登校していても誰もいじってきたりはしない。

 まあ、いうまでもなく公認カップルとして学校中の連中が二人の関係を疑わない。


 彼女と普通に過ごす学校生活。

 それはそれで東弥にとって望んでいた展開だから喜ばしい限りなのだけど、何か物足りない気分にさせられる。


 あっさりというか、このまま二人で学校生活を過ごして卒業して就職して結婚して。


 そんな未来が確定していると思うと、退屈である。

 もっと、青春時代特有の悩みとかがないものかと、そんな贅沢なことで頭を悩ませる東弥は学校に着くや否や小春に言う。


「なあ、せめて学生らしいことしたいんだけど」

「学生らしいこと、ですか。たとえばべろちゅうとか?」

「どこがだ。ほら、友達とバーベキューとか、海行くとか、そういうの」

「それって女の人も来ますよね? 却下です」

「そ、そういうのって楽しそうじゃんか。別にほかの女子と交流したいってわけじゃなくて、それこそ小春も女友達くらいほしいだろうし」

「特にほしくないですけどね。でもまあ、東弥様のお気持ちはなんとなくは理解できます。で、誰誘うんですか?」

「うーん」


 言ってはみたものの誘う相手がいない。

 というのも、高校でも東弥は結局これと言って心許せる友人作りに成功していない。

 

 入学してから親しくなったのなんて数人。

 その中の一人は、自分のことを好きだといってくれた一花もいるが。


「さすがに一花は誘えないしなあ」


 授業中も、ずっとマンネリした日々に刺激がないか、考えていた。

 


「あ、東弥君」

「一花? ど、どうも」


 昼休みのこと。

 小春が先生にテストの結果が悪すぎて呼び出しを食らっているところで一花に声をかけられた。


「ふふっ、そんなに警戒しないで。小春ちゃんとは順調そうだね」

「まあ、なんとか。あの、一花はどう?」

「どうって、何が?」

「ほら、この前いた黒服のお兄さん。うまくいってる?」

「べ、別にあいつと私はなんとも……ううん、実は彼のことで相談があって」

「相談?」


 一花は、空いている小春の席に腰かけて隣の東弥に少し暗い顔を向ける。


「あのさ、あいつは私の専属使用人なんだけど……でも、なんか私のこと好きなんだって」

「まあ、見てたらわかるけど。いやなの?」

「それが……嫌じゃないというか、ずっと一緒にいるから情が沸いてるだけなのかもだけどちょっと最近距離感がつかめなくて。それにあいつは家族もいないやつで、家柄を重視するうちの父親だったら絶対許さないだろうなって」

「ふーん。そういや、一花のところって結構金持ちなんだな。俺と一緒だ」

「東弥君ほどじゃないよ。でも、うちもしがらみ多くてさ。佐助のやつは、たぶん私と付き合えなくても一生尽くしてくれそうな勢いなんだけど……私的にはちゃんとしてあげたいかなって」

「それなら付き合えばいいじゃんか。ちゃんと話せば父親もわかってくれるはずさ」

「うーん」


 いつになく深刻な顔で悩む一花に対し、東弥も真剣に悩んでいると。

 小春が帰ってきた。


「あ、浮気」

「違う。ていうかいきなり学校でくないを出すな」

「あ、小春ちゃんごめん。じゃあ東弥君、また。話聞いてくれてありがとね」

「う、うん」


 話の途中で一花は席を立って教室を出て行った。


「一花……」

「東弥様、あの女にまだ言い寄られてたんですか?」

「だから手裏剣もしまえ。それに一花も、恋愛で悩んでるみたいだぞ」

「あの女が? もしかして先日の黒服男ですか?」

「ああ。そういえば小春、前にあいつと決闘しただろ? どんなやつだった?」

「うーん、一言でいえば精神年齢が私と同じくらいって感じですね」

「要するに?」

「あの人、かなりあほだと思います」

「……あ、そ」


 その自覚があったんだと、東弥はあきれ気味に小春を見て苦笑い。

 すると小春は、「そうだ」と何かひらめいた様子で手をポンとたたく。


「なんだよ急に」

「東弥様、あの男とさっきの女を誘ってダブルデートとかどうです?」

「ダブルデート? いや、でもさっきお前がそういうのなしって言ったじゃん」

「基本的にはNGですけど、人の恋路を見るのって楽しいじゃないですか。えへへ、あの女があのあほとくっつくところを見たいなと」

「お前、案外性格悪いのな……」

「人の幸せを応援するだけですよ。さっ、そうと決まれば放課後にあの女を誘ってください。ダブルデート、ふふっ」


 一花を毛嫌いしていた小春が出した予想外の提案。

 果たしてダブルデートをする真意とは。


 後半へ続く。

 

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