第31話 責任とります
「東弥、いいところに帰ってきたな」
家に帰ると、なぜか東弥の父玄弥がいた。
見知らぬ老人と共に。
「父さん……なんでここに?」
「ふむ、お前の日々の生活が乱れていないかチェックしに、な。あと、小春殿の祖父も心配で同伴されておる」
「はじめまして東弥様、この度は愚女が日々お世話になっております」
「小春のおじいさん……は、はじめまして東弥です」
太助と東弥はもちろん初対面。
そして、小春は嬉しそうに太助に言う。
「おじいさま、先程東弥様に求愛いただきました次第でございまする」
「ほう、求愛とな。すなわち2人は夫婦、つがいとなられたわけじゃな」
「おじいさま、今日より早速将来に向けてあれこれ励まねばなりませぬので」
「ほほ、若いとはいいことよ。玄弥殿、我が孫娘とそなたの御子息との交際、どうぞよろしくお願いします」
「太助殿、こちらこそ」
「ちょっと父さん、なんか大袈裟になってないか?」
「東弥、人様の可愛いお子と軽い気持ちで交際するというのなら今すぐ手を引け。真剣に向き合い、生涯を共にする覚悟を持たねば交際は認めぬ」
「……わかってるよそんなこと」
昔から女性関係については特に厳しく父に言われてきた東弥はある程度覚悟はしていた。
だからこそ、敢えて自分の城で小春に告白したというのもある。
覚悟したつもりだった。
しかし、まだ覚悟が決まらないところもある。
「父さん、俺は真剣だ。でも、まだ高校生として普通の生活を謳歌したい。それはダメなのか?」
「ふむ、お前の言いたいことはわかるが、どうせなら子供も早い方がいい。果たしてどうするべきか」
「玄弥様、それでは小春と東弥様に誓約書を書かせてはいかがかと」
「ほほう、誓約書ときたか。よかろう、東弥よ、ここにサインするが良い」
ひらりと、一枚の紙が東弥に渡される。
そこにはずらずらと長ったらしく文章が書かれているが、東弥は瞬時にその全てを読み解く。
「……なんだ、つまり婚約しろって意味か」
「流石我が息子だ。で、どうなんだ?」
「……俺はちゃんとするつもりだ。だからサインするよ」
東弥はためらわず自分の名前を書く。
そして、父に紙を渡してから小春の肩を抱いて言う。
「俺は小春と付き合います。今更つべこべ言わない。でも、跡取りとかそういうのはまだ先にしてください、お願いします」
言い切ると、小春もどこか嬉しそうに東弥を見つめる。
そして玄弥は「あいわかった、承知しよう」とだけ。
太助もただ頷くのみで、二人はシュッと姿を消す。
「……何しにきたんだ、父さんのやつ」
「東弥様、しかしこれで両家挨拶の手間が省けましたね」
「まあ、説明する手間はな。でも、言った通りしばらくは結婚とかじゃなくてちゃんと彼氏彼女って感じでいたいから、わかった?」
「はい、当然です」
「なら今日は風呂に入る時も別だから」
「え、なんで?」
「初日からそんな淫らなことはしない。俺はもっと段階を経て、そうなりたいの」
「ううむ、わかりました。では、今日は一緒に寝ましょう」
「ああ、そうだな。変なことすんなよ」
「ふふっ、それは普通女のセリフですよ」
「ん」
果たしてこんな茶番のために忙しい父が家までやってきたりするものかと。
それにあまりにタイミングが良すぎやしないかとも。
東弥は色々考えたが、結局は息子の様子が心配で見にきただけだろうと結論づけて。
この日は早々に眠ることにした。
◇
「しかしお宅の小春殿は演技が上手い。是非、私の知り合いの芸能事務所を紹介したい」
「はは、大袈裟ですぞ。しかし、わざわざ面倒な女を演じて東弥様を焦らせる作戦はうまくいきましたな」
「ああ、さっきあやつがサインしたものが実は婚姻届であるとは思ってもいまい」
玄弥が紙を濡らす。
すると、文章がドロッと溶けるように別の文字に化けていく。
「玄弥様、これで晴れて家族ぞ。末長くよろしく頼もう」
「こちらこそ。では、飲みに参るか」
「お共するぞ。ほほー」
「はーはっはっは。これで新庄も安泰よ」
大人と小春の策略に見事にハマったことを東弥はまだ知らない。
そして、知ったところでどうしようもない。
束の間の休息を満喫する東弥は、目が覚めた時に同時に現実を知らされるのであった。
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