第28話 決闘の末に

「ほう、やりおるな小娘。ならば、これでどうだ!」

「なんの! 私のトラップはその攻撃を無効化します」

「ぬぬぅ、それではこの攻撃でどうだ」

「甘いです! そんな攻撃では私の鉄壁は崩せません」


 真田と小春は、激闘を繰り広げていた。

 古本屋奥のブースにて。


 カードバトルをしていた。


「ふふっ、しかしあなたがここまでの決闘者デュエリストとは思いませんでしたよ」

「小娘よ、若いのにここまでのデッキに仕上げてくるとはなかなか。相当金がかかっただろう」

「いえ、お小遣いを全額費やしたまでです」


 互いに趣味の合う人間同士として、なぜか意気投合していた。

 そして、カードバトルは佳境にさしかかる。


「さて、私のターンの攻撃であなたのライフはゼロですね」

「ふん、やってみるがいい」

「いいでしょう。全員、攻撃!」

「甘い。トラップカード発動!」

「な、なんと!?」

「はは、これで貴様の攻撃はすべて自分へのダメージとなる。終わりだな」

「ぐっ……ま、負けました」

「はっはっは!」


 小春は敗北した。

 そして勝利した真田は高笑い。

 

「むむ……やられました。ここまで強い方は初めてです」

「いやなに、若くしてここまで仕上がっている奴とは出会ったことがなかった。今度大会とか出るのか?」

「そうですね、全国大会に出場はします」

「俺もだ。ではまたその時に再戦だな。そういや、なんで俺たちは対決してたんだっけ?」

「はて? でも、東弥様に負けたとは言い難いのでこのことは黙っておきます」

「そんなことをしたら色々と疑われるだろ。正直に話して、正直に慰めてもらうがいい。そんな女の方が可愛げがあるぞ」

「あんな可愛げのない高飛車女が好きなくせによく言いますよ」

「お嬢様を悪く言うな。ああ見えて彼女は泣き虫なのだ。俺はよく知っている」

「ふーん」

「おっと、お嬢様の元へ戻らねば。ではまた会おう、勇敢なる少女よ」


 真田は消えた。

 そして、時計を見ると東弥の元を離れてから二時間が経過していることに気づいて、小春も慌てて家に戻る。

 

 ここに、全く意味のない友情が生まれたのであった。



「ただいま戻りました、東弥様」

「ああ、おかえり小春。なんともないか?」


 小春が帰ると東弥は心配そうに玄関に向かう。


「ええ、なんとも。穏便に話し合いで済みましたので」

「そ、そうか。腹減っただろ? 何か食べに行くか」

「ふふっ、東弥様が私に気を遣うなんておかしいですよ。それとも、あの女と何かありました?」

「な、なにもないよ……いや、告白されたけど断った」

「やっぱり、あの女は東弥様を狙ってましたね」

「まあ、好意を持ってくれてることは嬉しかったよ。でも……」

「でも?」

「い、いや。とにかく飯いこ」

「なあんか変ですね。東弥様、やっぱり何かありました?」

「な、ないって。俺はあいつを傷つけた。だからちょっと気に病むところがあるだけだよ」

「ふーん。やっぱり東弥様は優しいですね。そういうところも、好きです」

「……ありがと」


 東弥は、小春の無邪気な笑顔をまっすぐ見るのが照れくさかった。

 そのまま、部屋を出る。


 小春は怪しむように東弥を見るが、東弥は無言で先を行く。


 もちろん、あてがないわけではない。

 気まずさと、空腹を紛らすための外食ではあったけど。


 今日、ちゃんと小春に話をしたいと思っている東弥は、いつも自分が大切な用事の時に限り利用するお店へ、小春を連れていく。


「この辺りって、ちょっと高いお店が多いですよね」

「まあ、今日はうちが経営してるレストランでも行こうかなって」

「別に私はファミレスでもいいんですよ?」

「今日は俺に任せろ。たまにはいいだろ」

「東弥様?」

「ほら、着いたぞ。ここだ、入ろ」


 木造の少し古びた外観の店は、店内に入るときれいなシャンデリアや真っ赤な絨毯の敷かれた、到底高校生が入れるような店ではないと一目でわかる内装だ。


 しかし当然東弥が入店すると、すぐに使用人のようなスーツ姿の白髪男性がやってくる。


「お坊ちゃま、お久しぶりでございます」

「じい、こんばんは。奥の席、お願いしてもいい?」

「はっ。あの、ちなみにお連れの方はご友人でございますか?」

「……察しろ」

「ほほっ、かしこまりました。御父上もさぞお喜びでしょう」

「そういうのいいから。食べ物は任せるけど、食べやすいものにしてくれ」

「はっ」


 てきぱきと使用人に指示する様は、やはり超がつく金持ちの息子といった感じ。

 普段見せたがらないその姿を目の当たりにした小春は、席に案内される間も少し驚いていた。


「わかっていたことですが、東弥様ってやっぱりお金持ちなんですね」

「まあ、こういうのが普通じゃないって自覚はあるけど。でも、俺はどこまで行っても新庄家の人間なんだ。別に隠すこともないかなって」

「ふーん。でも、こんなお店になんて一生来ることないと思ってたのでワクワクします」

「くつろいでくれって言う方が無理かもしれないけど気を遣うことはないよ。あと、飯はめちゃくちゃうまいから」

「わあ、楽しみです」


 東弥が今日、ここに小春を誘ったのにはちゃんと理由があった。

 

 話をしたい。

 気持ちを伝えたい。


 小春のことが、好きだと。


 食事を終えた後、そう伝えようと決意しながら、奥の席に東弥は座る。

 

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