第27話 決闘
「あーもう最悪。佐助、これも買うから」
「お嬢様、こんなに買い物して御父上に怒られませぬか?」
「何よ、重いの?」
「い、いえ。しかしお嬢様がいくら服を購入されても、いつも晴れやかな顔になられたことなどないので」
「ふん、余計な心配よ。それともあんたが私のもやもやを晴らせてくれるの? 誰のせいでこうなったと思ってるのよ」
「そ、それは……しかしお嬢様、お言葉ですがそれほどまでに東弥とやらに気持ちがあるのであればやはり直接お気持ちを伝えるべきでは」
「……わかってるわよそんなことくらい。でも、いつも小春ちゃんが隣にいるし」
「一時的に、であれば私がその小娘を引っぺがすことくらいできます。やはりお嬢様は思い人に気持ちを打ち明けるべきです」
「……あんたはそれでいいの?」
「な、なにがですか?」
「佐助は、私が東弥君に告白してうまくいっても、いいのかって聞いてるのよ」
「自分は……いえ、お嬢様が幸せであることが自分にとっても一番の幸せですから」
「なにそれ……ほんと、どこまで馬鹿なのよ」
「はは、バカなのは自覚しております。しかしお嬢様のことだけは誰よりも理解していると、そう自負していますので」
「わかった。じゃあ、買ったものは全部家に置いてきて。で、すぐに戻ってきて放課後の東弥君たちを待ち伏せよ。あんたは小春ちゃんをひきつけて」
「はっ。忍たるもの、小娘一人の相手くらい造作もありませぬ」
◇
「さてと、帰るか」
「はい、買い物楽しみですね」
東弥と小春は放課後になってすぐ、一緒に校舎を出る。
今日は買い物をしてから帰宅予定で、これからどこに行こうかと相談しながらワイワイと。
以前ならもっと人目を気にしていた東弥だが、すっかりそんなことも気にならなくなっていて。
自分に近づいてくる人間の気配に気づかず。
「東弥とやら、随分と楽しそうだな」
「うわっ……またあんたですか」
正門をでたところで急に目の前に真田が現れてびっくりした。
「はは、俺の気配に気づかないことを恥じる必要はない。なにせ俺は一流の……じゃなくて、ええと、今日はちゃんと任務内容をメモしてきたからな。ん-、小春とやらに用があってきた」
「私、ですか?」
真田がびしっと小春を指さすと、小春は嫌そうな顔をする。
「はは、そう警戒するな。俺は忍びとして貴様に決闘を申し込む。小娘よ、おぬしもまた忍びの者ぞ」
「な、なんでそれを」
「身のこなしをみればわかる。俺と決闘しろ、くノ一」
「決闘って、何するんですか?」
「来ればわかる。曲がりなりにも新庄家の人間を護衛するのであれば、他の忍びに負けるようなことがあってはならないと思うが?」
真田は、もちろんこんなに流暢にセリフが出てくるわけもないのでカンペを見ながらそう言った。
そして小春も、その挑発に乗る。
「いいでしょう、やってやりますよ」
「お、おい小春」
「東弥様、この男の言うことは最もです。それに、私は負けませんので」
「で、でも」
「信じてください。これは私がずっと東弥様の傍にいるための闘いでもあるんです」
「……うん、わかった。でも、危なくなったら逃げろ。それは命令だからな」
「東弥様……はい、わかりました」
そう話すと、小春は真田をにらむ。
そして二人はその場から消えるように姿を消した。
「……大丈夫かな」
「東弥君!」
「え? い、一花?」
決闘のため何処かへ向かった小春を心配している東弥に後ろから声をかけてきたのは一花。
振り向くと、一花は顔を赤くしながら東弥を見つめていた。
「……東弥君、このあと時間ある?」
「……あの男、一花に雇われてるんだよね。じゃあ、小春を連れ出したのも君の仕業なんだね」
「ごめんなさい、こうでもしないと二人っきりになる勇気がなくて。でも、どうしても言いたいことがあったの」
「……何かな?」
東弥も、体を後ろに向けて一花と向き合う。
そして、一花は大きく息を吸い込んだ後で、はっきり言う。
「私、東弥君が好き。だから、東弥君の気持ちを聞かせて」
その言葉に、東弥は胸がずきんと痛む。
一花の気持ちは、出会った時から気づいていた。
で、何気なく遊んだりして彼女を見定めようとしていた自分がいたことも自覚している。
だけど、今思えば自分は最初っから気持ちなんて決まっていたんだと。
「……ごめん。俺、好きな子がいるんだ」
「そ、っか。うん、ちゃんとそれは小春ちゃんに話したの?」
「な、なんで小春……いや、まだだよ」
「ちゃんと言ってあげなよ。好きなんでしょ?」
「……わからない。あいつを心配する気持ちとか、一緒にいて楽しいとか、そんな一つ一つが好きってことなのかなって思うけど、実際そうなのかは、わからないんだ」
「なあんだ、それって好きってことじゃん。東弥君、結局私よりも誰よりも小春ちゃんと一緒にいたいんでしょ?」
「ま、まあ」
「だったらそれでいいじゃん。うん、私もそこまで聞いてすっきりした。ごめんね、佐助の奴も女の子に手荒な真似を働くような奴じゃないから心配しないで。ちゃんと小春ちゃんの帰りを待っててあげてね」
「一花……うん、ごめん本当に」
「ううん、私こそごめん。明日から、学校で見かけても挨拶くらいはしてね」
「うん、わかった」
「じゃあね、東弥君」
一花は、そのまま東弥の横を通り過ぎていく。
その時、彼女が泣いているのを東弥は見た。
けど、何も言えなかった。
こうやって、人を傷つけることも経験なのかもしれないけど。
自分の選択ひとつで喜ぶ人もいれば悲しむ人もいるんだと。
そんな痛みを感じながら、空を見上げた。
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