第26話

「東弥様、お昼ですよー」


 今日の小春はずっと気分がいい。

 なぜなら、最大のライバルと目されていた一花が勝手に脱落し、東弥を巡って競う相手が減ったから。


 ルンルンな様子で、東弥に声をかける。


「ん、何食べるんだ?」

「へへ、コパルン特製弁当です」

「弁当作ってきたのか?」

「はい、最近料理を覚えてから作るのが楽しくて」

「……なら、外にいくぞ」

「え、ここで食べればいいじゃないですか」

「いいから、ついてこい」


 小春の声は基本的に大きく通りやすい。

 なので会話は教室中に丸聞こえだし、手作り弁当を堂々と食べてたら、それこそ噂されるどころではなく公認カップルになってしまう。


 慌てて小春を連れて外へ。


 そして忍の二人は気配を消して人混みをすり抜けながら屋上へとやってきた。


「やれやれ」

「東弥様、なんでこんなところまで? も、もしかしてここで私とハグハグ」

「するか! 弁当、食べるんだろ」

「あ、そうでした。はい、どうぞ」

「……ありがと」


 重箱に入った上等なものでも、どこぞで話題の高級な品でもなく平凡な手作り弁当。

 だが、それが東弥には嬉しかった。


「なんか、小春もずいぶん変わったな」

「え、背が伸びたのわかります?」

「伸びたの?」

「えへへ、ちょっとだけ。あと、おっぱいも」

「そ、そういう話を堂々とするな。ま、子供っぽいから成長しないとな」

「むー。東弥様だって案外非常識なところあるくせに」

「お、俺はそれを学ぶためにこうして一人暮らししてるんだ」

「私だって、大人になれるよう日々努力してます。このお弁当だって、その成果の一つです」

「まあ、そうだな。お互い、成長しないとな」

「ですね。でも、こうやって東弥様とずっと一緒だと本当に幸せです。私、毎日が楽しい」

「……そう、か」

「東弥様はどうですか? 小春がそばにいる生活は慣れました?」

「嫌でも慣れたよ。まあ、こんな平和な世の中でボディガードが必要かどうかは別だけどな」

「それでは、どうして東弥様はずっと私を雇ってくれてるのです?」

「それは……別にいいだろ」

「で、でももしもご迷惑なまま情けで雇っていただいているのなら改善しなければなりませぬ。私も一応忍びの端くれです、そのあたりのプライドはあります」

「……何も変わらなくていいよ」

 

 小春がそばに来てから何か仕事らしいことをした覚えは東弥にはない。

 だから前まではハッキリ言って必要ないと思っていたけど。

 今は、そうじゃないことを東弥はわかっている。


「東弥、さま?」

「……小春、俺ってあんまり友達とかいないからさ。それに、みんな俺じゃなくて新庄という名前に群がる連中ばかりでさ。喧嘩も、言い争いもしたことなかったんだ」

「まあ、東弥様の家柄なら当然でしょうけどそれが何か?」

「いや、小春は遠慮なしにわがままだなって。良くも悪くもだけど」

「えへへ、私は自分に素直なだけです。東弥様といると楽しいし、だけど自分がやりたいことも我慢できないような、そんな性格なので」

「……ただのわがままじゃん。まあ、いいけど」

「いいんですか?」

「いいよ。それより、放課後買い物行こう」

「はい。買いたいものでも?」

「この前褒美買ってやるって言ったろ。あれ、まだだったから」

「……なんか最近優しいですね」

「べ、別にそうでもないさ」

「……怪しい」

「へ?」

「怪しいです! 急に優しくなるのは浮気だってこの前ネットで見ましたもん!」

「な、なんでそうなるんだよ」

「だってだってそうじゃないのに東弥様がこんなに優しくしてくれる理由がないもーん!」

「あーもう落ち着け! 俺は浮気なんかしてない」

「してないの? ほんと?」

「……そもそも浮気って、いや、とにかくやましいことはしてない」


 そもそも誰と遊ぼうが浮気じゃないだろうと言いかけてやめた。

 小春を怒らせると面倒、というのもあった。

 だけど、


「……えへへ、よかった。東弥様、大好き」

「……」


 小春が悲しむと悲しいし。

 小春が笑ってるとなんか安心するから。


 そんな理由で、小春の機嫌をとりたかったなんて絶対に口には出さないけど。


 東弥は小春への気持ちが大きくなっていることを確かに自覚していた。

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