第22話

 食事を終えた東弥達は買い物へ出かける。


 向かった場所は近くの家具屋。

 もちろん東弥はリーズナブルなお店ではなく、高級家具の揃う店へ。


 駅前に大きく場所を取る、大きな店舗。


「さて、何買う?」

「東弥様、ここって超セレブの人達御用達と聞く大沼家具ですよね?」

「そうなの? 寝具とか椅子とかはいつもここで買うからさ」

「……東弥様、女の子とお買い物行く時はもうちょっと安価なお店の方がいいですよ?」

「なんで?」

「だって、こんなところで買い物されたら女の子の方が萎縮しちゃいます。私、値札見たらひっくり返りそうです」

「そ、そうなんだ」


 東弥は、基本的には超セレブである。

 自身は常識的だと思っていても、やはり一般人との感覚の違いは否めない。


 そして、そんな指摘を受けたのも初めてのこと。

 小春を見ながら東弥は尋ねる。


「なあ、それならどこにいけばいいんだ?」

「高いものが悪いとはいいませんが、高校生なら高校生らしくイトリとかに行って安い雑貨を見る方が、それっぽいかなと」

「なるほど。俺もまだまだ金持ち気質が抜けてないんだな」

「悪いことではありませんよ。でも、高校生カップルなら駅前の安いクレープ食べたりプリクラ撮ったり、そういう方がいいなって」

「カップル、ねえ」


 ふと、周りを見ると視線を感じた。

 高校生男女二人がこんな高い店に来ていることに、周りの客が不思議そうにしていたのだ。


 浮いている。

 なるほど、こういうことかと東弥は理解したと同時に、また別のことを考える。


 自分と小春はやはりカップルに見えているのか。

 雇い主と従者、ではなくあくまで男女だと。


 でも、そう見られていることにあまり嫌な気がしない。


「……」

「どうされました? もしかして私が差し出がましいことを言って気に障ったとか?」

「いや、そうじゃないよ。ええと……それじゃ家具は帰ってネットショップでも見ようか。イトリはちょっと遠いから」

「わかりました。あの、コンビニでお菓子でも買って帰りませんか?」

「ん、いいよ」


 二人は店を出て帰路につく。


 そして帰り道のコンビニに寄ると、


「あれ、東弥君と……小春ちゃん?」


 黒川がいた。


「あ……一花、どうも」

「二人って、やっぱりそういう仲だったんだ」


 黒川はふーんと澄ました顔で二人を見る。


 そして少し慌てる東弥を見ながら、笑う。


「ふふっ、浮気相手と会って慌ててる男みたいだよ東弥君」

「そ、そんなんじゃないって。それに俺と小春は」

「ううん、大丈夫。でも、これからも仲良くしてね、東弥君」


 そう言ってあっさり店を出ようとする黒川は、去り際に小春の隣を通る時、


「私、絶対負けないから」


 と、小春にだけ聞こえるように呟いて店を出て行った。


「……一花」

「東弥様、やっぱりああいうチャラチャラしたのがお好みなんですか?」

「いや、まあ一花は可愛いとは思う、けど」

「けど?」

「……」


 可愛いから、良い子だから。

 だから、なんなのだと。

 それでも好きとか、特別な感情にならないのはなぜか。


 考えてみたけど、結局自分は黒川のことを好きとかそういう目で見ていなかったのだと。


 そして、急にそんな気持ちにさせられたのはやはり。


「東弥様、アイス食べたいです」

「あ、ああ」


 隣で無邪気にアイスコーナーを指さす小春のせいだろう。

 小春といると、イライラすることも多いが目が離せないし、自分が求める平凡な人間とやらに、自然になれていることに気づく。


 小春といる時が一番気を遣わない。


 それは果たして、いいことなのかどうか。


 そんなことを考えながらカップのアイスを二つ買ってから家に帰った。



「……なあ、小春」

「はい、なんですか?」

「お前、家で普通に生活してないか?」

「え?」


 帰宅してすぐ。

 ベッドに座って当たり前のようにアイスを食べながら「頭いたーい」と悶える小春に東弥は聞いた。


「だって、家では原則姿を見せないって決まりだったろ」

「そ、そんなに小春が目障りですか?」

「そ、そうじゃなくてだな……あの、別に無理して隠れなくても、いいかなって」

「え?」

「へ、変な意味じゃない。でも、いくら俺が雇ってる側だとしても、同い年の女の子に窮屈な思いをさせる方が、いかがなものかなと」

「東弥様……それじゃ今日からは小春と一緒にベッドイン」

「しない」

「がーん……そ、それでは一緒にお風呂は」

「はいらない。調子乗るな」

「むー。でも、一緒にこうしてアイスを食べたりは、いいんですよね?」

「まあ、それはな。夕飯、何にする?」

「それでは今日はウェーバーミーツというやつで出前とりたいです」

「ああ、流行ってるもんな。よし、それじゃ一緒に選ぶか」

「は、はい」


 やったやったとはしゃぐ小春は身を乗り出して東弥の携帯を覗き見る。


 そんな彼女のことを横目で時々見ながら。


 東弥は、やっぱり小春と一緒だと楽しいなって、そんなことを思いながら出前のメニューに目をやった。


 

 

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