第19話 焼き加減


「むむ、ハンバーグって難しいですね」

「小春ちゃんのハンバーグ、ぼっそぼそでかっさかさになるわね。焼きすぎよ」

「わ、私はやきもち妬きではありません!」

「そっちじゃなくて加熱しすぎ。もっとじわーっと、中に熱通さないと」

「ふむ」


 今日は朝から環季さんの家で料理教室。

 教えてもらうのはハンバーグ。


 ついでというわけではないけど、コーンスープとかの作り方も教えてもらったの。

 スープは簡単、粉を入れてお湯で溶かすだけ。

 で、めっちゃおいしい。

 私、料理の天才になったのかもって調子に乗ってたんだけど、ハンバーグを作る時になると全然うまくいかない。


 環季さんと同じようにこねて焼いてしたはずなのにうまくいかない。


 丸焦げの汚い塊が出来上がる。


「しょんぼり……」

「ほら、がっかりしないのよ。あなた、東弥様のお嫁さんになるんでしょ?」

「うん、絶対なるの。東弥様のお嫁さんになって子供産んで幸せになるの……」

「だったら頑張りなさい。私は東弥様の幸せを応援してる黒子として、あなたのこと、いいと思ってるわよ」

「環季さん……うん、頑張る!」


 よしよしその意気よ、と。

 環季は小春の奮闘を見守りながら、すっごく大事なことを忘れているような気がしていた。


 ただ、思い出せないので考えるのをやめた。

 

 基本的に環季はアホである。


「……あ、今くらいで火を切って」

「う、うん。あれ、いい感じ?」

「すっごくいいじゃない。小春ちゃん、これならばっちりよ」

「ほ、ほんと? 私、うまくできた?」

「ええ、とっても。これで東弥様の胃袋もばっちりよ」

「わーい! じゃあタッパーください」

「もう用意してるわよ」

「さすが環季さん、頼りになります!」


 何はともあれハンバーグがうまく焼けた。

 で、それをタッパーに入れて小春は環季の家を出る。


「ふんふん、いい感じにできたー。でも、冷めたらやだなあ。ちょっと急いで帰ろっかな」


 にんにん。


 忍びとして、高速移動に長けている小春は家の屋根を飛び移って東弥のアパートへ。


 しかし部屋に着くと、そこに東弥の姿がない。


「……お出かけされたのかなあ?」


 小春は、東弥のいない部屋に一人戻るとまず、ハンバーグを冷蔵庫に入れてから。


「すんすん……東弥様の匂いがする」


 部屋のベッドから漂う、東弥の匂いを捉える。

 もちろん、一般人にはわからないくらいのものだが、犬以上に鼻が利く小春には十分な残り香。


 ベッドに吸い込まれるように。

 そのままダイブ。


「んー、東弥様の匂いだあ。あー、なんか男っぽくていい匂いだなあ」


 そして小春は自分が匂いフェチなのに、そうであるという自覚がない。


 くんくんと枕や布団を嗅いで、そのあとにうっとりする。


「へあああ。このままずっとここにいたいなあ」


 よだれを垂らしながら、実にだらしない顔をしてそのままベッドに溶け込むように眠りにつく。


「くー、くー」

 

 小春が安らかに夢の中へ。


 と、同時に東弥が部屋に戻ってきた。


「ただいま。小春、いるのか?」


 東弥は部屋から小春の気配を察知する。


 そして部屋に戻るとベッドの上ですやすや眠る小春の姿を発見する。


「……なにしてんだこいつ」

「むにゃにゃ……東弥様、しゅき」

「……ったく。腹出てたら風邪ひくだろ」


 おへそを出して眠る小春にそっとタオルケットをかける。


 で、買って帰ったハンバーガーをテーブルに置いてから、もう一度小春を見る。


「……寝顔は、かわいいんだよな」


 無邪気というか、無垢というか。


 あどけない表情の小春は、それでいて美人。

 そんな子が自分のベッドで無警戒に眠っていると思うと、東弥はやはり落ち着かない。


「……もう一回外行くか。いや、また起きた時にぐだぐだ言われてもだし……俺もゆっくりするか」


 で、結局テレビを見ることに。


 小春はテレビの音でも起きる気配はなかった。


 

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