第13話 こんなの普通クビ

「はい、ジャンボパフェプリンでございます」


 昨日、二人で四つも頼んでしまった品が今日は一つだけ。


 店に入り席に着いた東弥と一花の前に置かれると、一花は目をキラキラとさせながらすかさずスマホで撮影を始める。


「わー、すっごいよこれ。絶対映えるじゃん」


 改めて見るととんでもないでかさ。

 小春の豪食に付き合ってこれを一つ完食したことを思い出し、東弥は変な胸やけを起こす。


「よく食べれたなこんなの……」

「え、どうしたの東弥君? あんまり珍しくない?」

「い、いや、ある意味びっくりしてるというか」

「まあ、東弥君っていろんな国のものとか食べてそうだし、こんなもんじゃびっくりしたりしないよね」

「そんなことはないよ。海外に行ったのも小さい頃だけだし、基本的にはこの町からあんま出ないからさ」

「へえ、そうなんだ。なんか東弥君ってお金持ちっぽくないよね。飾らないというか、さ」


 そう言われて、東弥は少し嬉しかった。

 金持ちっぽくないというのは東弥には最高の誉め言葉。

 

 つい、浮かれてしまう。


「はは、そんなこと言ってくれたら俺、惚れちゃうかもな」

「……ほんと?」

「あ、いや、まあかもねって」

「……ねえ、東弥君って甲賀さんとどっかデート来た事とか、ないの?」


 一花が少し真剣な表情で東弥に聞く。


「なんでデートをあいつとしなきゃならないんだよ」

「でも、たとえば一緒にご飯とか」

「食べたことないって言えばウソになるけど。そういうつもりじゃないし」

「向こうはそういうつもりかもしれないじゃない。やっぱり怪しいなあ」

「……なんでもないって。小春はただの知り合いだよ」


 東弥はそう言ってパフェを一口。


 ただ、昨日より全然食欲が沸かない。

 昨日食べ過ぎたせい、なのかもしれないけど。


 小春と一緒にあーだこーだと言いながら食べている時の方が、自然とよく食べられる。


 満腹中枢さえも、小春によって麻痺させられるんだろうか。


「……うん、ごちそうさま」

「あー、おなかいっぱい。東弥君、ここは私が誘ったから出すね」

「ダメだよ、俺が出すから」

「でも東弥君も一人暮らし大変でしょ?」

「まあ、金はあるからって自由にいくらでも使ってたら怒られるけど」

「ふふっ、なんかそういうとこも庶民っぽい。あ、そうだ。今度の休み、おうち行ってみてもいい? もちろん明日奈も一緒に」

「う、うんいいけど」

「じゃあその日は私が料理するね。今日、ご馳走になったお礼で」

「まあ、そういうことなら」


 東弥は、そのままお金を払って一花と一緒に店を出る。


「うん、おなかいっぱい。東弥君、付き合ってくれてありがとね」

「いや、こちらこそ。じゃあ週末、予定空けとくから」

「楽しみにしとく。リクエストとかあったら言ってね」

「おっけー、それじゃ」


 この後一花は皆実と会う予定らしく、ここで解散となる。


 そしてお腹いっぱいの東弥はどこに寄ることもなくまっすぐ家に。


「まったく、どこいったんだよあいつは」


 相変わらず気配一つしない小春に対し、いよいよ職務放棄だと苛立ちながら部屋に入る。


「ただいま……って、ん?」

「東弥様のいじわる」

「こ、小春?」


 玄関を開けたらそこには、武装した小春がいた。


 どっからもってきたんだとツッコんでもツッコミが追い付かなくなるくらいの赤い甲冑姿。

 そして小柄な小春が振り回せそうにない長い日本刀がキラリ。


「私と昨日一緒に行った場所に女と行くなんて、さすがにそれはいじわるすぎますー!」

「ま、待て待て落ち着け小春!」

「やだー!」

「わーっ!」


 ぶんっと日本刀を振り回すと、それが東弥めがけて振ってくる。


 すかさず、受け止める。


 真剣白刃取り。

 

 そして刀を止めてから小春を説得する。


「お、おい。どこの世界に主人を切りつける従者がいるんだよ」

「……東弥様こそ、どこの世界に従者の心を傷つける主人がいるんですか」

「俺は別にそういうつもりじゃ」

「私は昨日東弥様と昨日一緒に食べたパフェの味を生涯忘れないと……うっ、思い出したら気分悪くなってきた」

「お、おい」

「うぷぷっ。東弥様、甲冑脱がして」

「……なにやってんだよ」


 急いで甲冑を脱がせる。


 すると、小春は上下とも黒いインナー姿に。

 ぴちっとした生地から体のラインがあらわになる。


「あ、ありがとうございます。あの、先ほどは無礼をお許しください」

「もういいから……早く服を着ろ」

「東弥様、怒ってる?」

「いきなり日本刀で切りつけられて怒らないやつがどこにいる。でもまあ、俺も悪かったから。今日ばかりは勘弁してやる」

「東弥様……はい、すぐに服を脱ぎますね」

「着ろ!」


 せっせと裸になろうとする小春をむりやり部屋に放り込んでから。

 東弥はしばらく廊下で待つことに。


 そして脱ぎ捨てられた甲冑を見ながら、「邪魔だなあ」と。


 ただ、日本刀とか鎧とか、そういう類のものに興味がないわけではない。


 幼少より甲冑マニアの父の影響でいろんな防具を見てきたせいもあって、ちょっとかざったらかっこいいかもと、考えて。


 組みなおして、廊下に飾る。


「お、いい感じだな」


 と、勝手に満足したところで小春が戻ってきた。


「あ」

「東弥様、それ、お好きなんですか?」

「い、いや別に。散らかってるのが嫌だったから組んだだけだよ」

「でも、その鎧もなんか廊下に置いてるのかっこいいですね。そのまま飾っておきましょ」

「まあ、そうだな」

「えへへ、私の脱いだものがそのまま玄関に放置されるなんて……なんかエッチ」

「言い方をどうにかしろ」


 そのあと、小春にもう一度説教した。


 いくら気に入らないことがあっても絶対に日本刀を振り回すな。

 機嫌や気分で護衛を怠るな。

 次やったら即クビだ。


 そう告げると小春は、「それじゃ東弥様も次浮気したら私と結婚ですから」と。


「なんでそうなるんだよ」

「だって、小春との思い出を他の女で汚したんですから」

「勝手に彼女面をするな。まあ、配慮が足りなかったことは謝るが、それはそれだ」

「……じゃあ、もう一個だけ」

「なんだよ」


 小春はもじもじしながら東弥に聞く。


「今日、一緒に寝てください」

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