第83話
「わかりましたわ。危ない目には遭いましたけれど、ローランがそこまで私のことを心配して下さって嬉しいです」
アデレードははにかむようにふんわりと笑う。
「私の気も知らないで、嬉しそうにそんなことを仰る。……では、私を心配させたお詫びをして頂きましょう」
「お詫び?」
「そうです。アデレードから私に口づけをして下さい」
アデレードは両手でローランの顔を引き寄せて、口づけしようとするが、ローランから制止が入る。
「そうそう。この間みたいに頬に、ではありません。唇にお願いしますね」
ローランは蠱惑的な微笑みを浮かべ、自分の形の良い桜色の唇を右手の人差し指でとんとんと軽くタッチする。
(くっ、く、唇に、ですって……!?)
羞恥で悶えるアデレードにローランは早く、早くと急かす。
「目は閉じて頂けませんか? 恥ずかしいので……」
「……いいですよ」
ローランはアデレードに言われた通り、目を閉じる。
(睫毛が長い……それに目を閉じていても本当に綺麗なお顔ですわね)
アデレードは勇気を出して、ローランの唇に自分の唇をそっと合わせる。
彼女はさっと離れようとしたが、その瞬間、ローランが彼女の後頭部に右手を回し、啄むような口づけを数回する。
そして、二人は離れる。
「ありがとうございます、アデレード。これで私の心は癒えました」
ローランはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「一回だけではないのですか!?」
「一回だけなんて私は一言も言っていませんよ。これから徐々に慣れていきましょうね」
「~~……!!」
アデレードは反論しようとしたが、声にならなかった。
「アデレードも目覚めたことですし、夕食を運んでいただきましょうか」
ローランがメイドにそろそろアデレードの夕食を運ぶよう頼み、数分後に夕食が運ばれて来た。
アデレードが食事をするのをローランは優しく見守る。
食事が終わり、アデレードの部屋の中で二人はホットミルクを飲みながら談笑する。
「そう言えば、ローランは冬生まれだとお母様から聞きましたが、誕生日はいつですの?」
「誕生日は1月12日ですね。自分から誕生日を言うと、何だかお祝いを強請っているみたいで言い辛くて……」
ローランは苦笑いする。
「私、お母様から聞いて、誕生日の贈り物を用意したのです。私の部屋の中で雰囲気も何もありませんが、受け取って下さいまし」
アデレードは用意していた贈り物をアクセサリー類を仕舞う大きめの箱の中から取り出し、ローランに渡す。
「これは今、開けても……?」
「ええ。使って頂けると嬉しいですわ」
ローランは細長い指を器用に使い、しゅるしゅるとリボンと包装紙を解いていく。
包装紙を取り払い、箱を開けると、ネクタイピンとカフスボタンが姿を現す。
ローランはアデレードの瞳の色の宝石がついていることにすぐに気づく。
「こんな素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせて頂きますね。アデレードの誕生日には私の色の入った贈り物をしますので楽しみにしていて下さい。アデレードの誕生日はいつですか?」
「私は7月7日ですわ。今からだとまだまだ先ですわね」
「その分、何を贈るか考える時間はたっぷりあります。貴女のことを考えながら選ぶ時間は楽しそうです」
時刻は就寝の時間に差し掛かる。
今回、ローランは泊りがけでの滞在なので、彼はバーンズ伯爵邸で夜を明かす。
ローランが就寝する場所は客間だ。
そろそろローランを客間に案内する為のメイドが迎えに来る。
「アデレード、そろそろお休みの時間です。ゆっくりおやすみなさい」
ローランはそう告げて、アデレードの額に軽く口づける。
そして、案内のメイドがアデレードの部屋をノックしたので、ローランは退室する。
メイドはアデレードの部屋の扉が完全に閉まっているのを確認し、薄暗い廊下で小声で囁く。
「旦那様が例の件で話をするそうです。このまま談話室に来て頂いてもよろしいですか?」
「わかりました。案内をお願いします」
――こうして、アデレードが知らぬ間に事件を起こした犯人達の処断が決まる。
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