第74話

 翌日。


 今日はとうとう入学試験が実施される日だ。


 空模様は青空が広がっており、太陽の光がこれから頑張るのだという活力を与えてくれる。



 アデレードは宿の食事処でしっかりと朝食を摂り、筆記用具と受験票、参考書を大きめの革製の鞄に詰め込み、昨日ローランに教えられた通りの道を通り、学園に向かう。


 受験票と筆記用具が間違いなく鞄に入っていることは、出発する前に何度も確認したので、忘れ物の心配はない。



 アデレードは校門前に到着し、受付らしき場所で他の受験生同様に列に並ぶ。


 受付で講師が受験生の受験票を見て、試験への出欠の確認をする為だ。


 アデレードは少し早めに到着したので、比較的早く順番が回ってきた。



「はい、次の方。受験票を提示して下さい」


 アデレードが目の前の男性講師の指示通りに受験票を渡す。


「アデレード・バーンズさんですね。ルグラン君、リストにチェックを」



 そこでアデレードは初めてローランの存在に気づく。


 ローランは学園の制服を着て、男性教師の隣に座り、講師の手伝いをしていた。


 制服のトップスは白いカッターシャツに赤いネクタイ、ボトムは黒のスラックスだ。


 本来なら白いカッターシャツの上には黒いジャケットを着用することになっているが、今の季節はジャケットではなく、カーディガンやベストを着用することも可能である。


 ローランは少しだぼっと緩めにキャラメル色のカーディガンを羽織っていた。


 男子生徒用制服と女子生徒用制服はボトムがスラックスかスカートかの違いだけで、色は変わらない。



「おはようございます、ローラン様。昨日仰っていたお手伝いとはこのことだったのですわね」


「アデレード嬢、おはようございます。そうですね。一緒に学園生活を送ることを楽しみにしているので、今日の試験は頑張って下さいね。あまり緊張せず、普段通り落ち着いて問題を解けば大丈夫です」


「応援ありがとうございます。あまりお話していたら、次の方のご迷惑になりますので、私はもう行きますわね」


「はい。では、試験後は昨日言ったように校門前で落ち合いましょう」



 アデレードは校舎前の掲示板で自分が受験する教室を確認し、向かう。


 たどり着いた先は四十人程が座れる教室だった。


 その教室は黒板と教卓のある前方中央から教室の後方に向けて徐々に座席の位置が高くなっていく造りだ。


 アデレードは自分の受験番号が書かれている席を探し、着席する。



 それから彼女はぱらぱらと参考書を読んでいたが、試験開始時間になると、問題用紙と解答用紙を持った講師が入室する。


「今から、試験を始めます。参考書等の類は鞄の中にしまい、机の上には筆記用具のみ置いて下さい」


 講師の指示に従い、受験生は全員、机の上に筆記用具のみ置く。


「では、今から試験問題と解答用紙を配ります。私が指示するまで決して中を開かないように。私が指示したら、問題用紙を開き、解答用紙に解答を始めて下さい。問題用紙に解答を記入しても無効ですので、間違えないよう注意して下さい。また、解答用紙への氏名の記入漏れも同じく無効となりますので、確認は必ずして下さい」


 講師は教室内の座席一つ一つに試験問題と解答用紙を配布していく。


 それから少しすると、ゴーン、ゴーン……という重厚な鐘の音が校舎内に響く。

 

 この鐘の音は試験開始の合図だ。


「それでは始めて下さい。途中、筆記用具を誤って床に落としてしまった場合は静かに手を挙げて下さい。私が拾いに行きます。その他、何か問題が発生した場合も静かに手を挙げて下さい」



 アデレードも開始の合図と共に問題用紙をぱらぱらと捲る。


(勉強したところが沢山出ていますわね。これなら大丈夫そうですわ)


 そう思ったアデレードは落ち着いてペンを動かし、一問ずつ解答用紙の解答欄を埋めていく。



 試験は一つの科目ごとに行うのではなく、一冊の問題用紙に様々な科目の問題が出題されている。


 なので、一冊の問題用紙に語学の問題、計算の問題、地理の問題、歴史の問題等が多数混在している。


 二時間でこの一冊の問題用紙を解き、得点が高かった者上位120名が合格だ。


 学園側から受験予定人数は事前に公表されており、今回は例年とほぼ変わらず約200名が受験予定である。



 二時間後、鐘の音が鳴り響き、試験終了時間を迎える。


「はい、そこまでです。筆記用具は置いて下さい。今から私が問題用紙と解答用紙を回収しますので、それまで着席してお待ち下さい」


 講師は試験開始前と同じく、一つずつ座席を回り、問題用紙と解答用紙を回収する。


「これで入学試験を終了します。お疲れ様でした。結果は、受験案内に記載のあった通り、それぞれのご住所宛てに送らせて頂きます。では、解散」


 解散の合図と共に受験生は離席し、校舎を後にする。


 友人や知人と一緒に来た者は、今日の試験の出来栄えについて会話をしながら校内を歩いている。

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