第73話
店員呼び出し用のベルを鳴らし、やって来た店員に注文し、数分後に注文内容を届けに店員が入室する。
アデレードが注文した林檎のパンケーキは、メレンゲを混ぜてふんわりと焼かれた三枚のパンケーキの上にバターと砂糖とシナモンで煮込んだ林檎と生クリームがトッピングされている。
パンケーキは一つが直径十二センチ程の大きさなので、かなりボリュームがある一皿になっている。
また、ローランが注文したチーズケーキは焼いているタイプのチーズケーキで、皿にストロベリーソースで装飾がされている。
お好みでチーズケーキにストロベリーソースを付けて食べる仕様だ。
「思ったよりも大きなパンケーキでしたが、美味しそうですわね。頂きます」
アデレードはナイフとフォークを器用に使って、パンケーキを適当な大きさに切り、切ったパンケーキの上に林檎と生クリームを乗せ、口に運ぶ。
「ローラン様、凄く美味しいですわ! よかったら一口どうぞ」
アデレードはローランに味見をさせる為に再度パンケーキを切り、自分が食べた時と同じように林檎と生クリームも載せてフォークで刺し、ローランの口元に運ぶ。
「頂いてもよろしいのですか?」
ローランは一応確認する。
アデレードは彼女が使ったフォークをそのまま使って、ローランに食べさせようとしていたからだ。
なるべくフォークには口内が当たらないように気を付けるつもりだが、下手したら間接キスになってしまう。
そういう意味でいいのかと尋ねた。
「……? ローラン様に召し上がって頂く為に用意したのですけれど……」
しかし、アデレードは全く気づいていなかった。
しかもローランに食べてもらう為に用意したと言われてしまい、下手に断ったら失礼になってしまう。
気づいていないのならわざわざ指摘することではないと思い、ローランは口を開ける。
「では、遠慮なく。確かに美味しいですね。パンケーキはふんわりした食感で、林檎は少しシャキシャキ感が残っていて尚且つジューシーな味わいです」
「この林檎が美味しいですわよね。すごくボリュームがあるように見えましたが、あっと言う間に完食してしまいそうですわ」
美味しそうにパンケーキを頬張るアデレードをローランは微笑ましく見つめていた。
「アデレード嬢。チーズケーキも食べてみますか? こちらも美味しいですよ」
ローランは先程のアデレードと同じように、チーズケーキを一口サイズに切り分け、ストロベリーソースを付けた状態でフォークで刺し、アデレードの口元へ運ぶ。
「チーズケーキも味が濃厚で美味しいですわね。ストロベリーソースの酸味も良いアクセントになっています」
二人して味見と称した食べさせ合いをしたローランとアデレードにリノアと個室の中にいる護衛は砂糖を吐くような感覚に襲われた。
リノアは”食べさせ合いをするなんて……もうこれはお嬢様とローラン様は婚約者ということでいいのでは……?”とまで思っていた。
「ローラン様。私、ローラン様に申し上げたいことがありますの。だから、入学試験が終わった日。少しお時間を頂けませんか?」
パンケーキを食べ終わり、紅茶を飲んでいたアデレードがぽつりと零す。
「ええ。予定もないですし、いいですよ。入学試験が終わった後、迎えに行きますので、校門で待っていて下さい」
「はい」
全て完食したローランとアデレードは会計を済ませ、カフェを後にする。
食事の代金は全額ローランが支払った。
”こういう時は大人しく奢らせておけばいいのです”と言ってさっさと会計を済ませてしまったのだ。
奢られっぱなしというのは恐縮なので、アデレードは次回は自分が何かローランに奢ろうと決意する。
「さて、学園に向かいましょうか。学園はここから近いですよ」
ローランの案内で、カフェからまっすぐ北に進み、右に曲がる。
すると、すぐに白亜の城の如き大きな建物が佇んでいるのが視界に飛び込んで来る。
「これがサノワ学園なのですわね。こんなに大きな学園だったなんて……」
「校舎も大きいですが、同じ敷地内に寮も併設されていますので、寮も校舎の一部のように見えます。講義を受けるのが今、目の前にある大きな鐘が付いている建物です。明日の入学試験が行われるのもこの建物になります」
「ローラン様は明日入学試験のお手伝いをされるのですか?」
「詳しい内容は言いませんが、手伝いの予定は入っています。なので、学園内で私を見かけるかもしれないですね。今日、出来ることはここまでなので、宿に戻りましょうか。今から通る道を覚えたら、明日は迷うことなくここに来ることが出来ますので、しっかり集中して道を覚えて下さいね」
「ありがとうございます。頑張って覚えますわ」
アデレードはローランの案内を真剣に聞き、通った道順と風景をしっかりと頭に叩き込む。
その間、二人は手をしっかりと繋いだままだった。
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