第61話

 アデレードはサロンを退室し、自室に戻る。


 自室に戻ったアデレードは書き物机の上に、メモ用紙を一枚用意し、ローランへの手紙の下書きをする。



 実際に送る分には上等な便箋を使用するが、いきなり上等な便箋を使って手紙の文面を書き、誤字脱字などで失敗すると勿体ないことになってしまう。


 なので、失敗しても問題ないメモ用紙に一度下書きとして書き、書いたものを自分で読み直し、それで良いか確認する。


 時間はかかるが、失敗なく書ける為、アデレードは基本的に手紙を書く時はいつもこの方法を使っている。



 アデレードが自室で手紙の下書きを書いている最中に、伯爵夫妻からの伝言を預かったメイドがやって来て、先程サロンで三人で話したルグラン侯爵邸を訪問するのに都合が良い日が決まる。


 アデレードは予定はなかったので、伯爵夫妻の予定に合わせるのみだ。



 訪問するのに都合が良い日がわかったので、アデレードが書いていた手紙の下書きは完成する。


 読み直して文章構造的におかしな点や誤字脱字もなかった為、今度は上等な便箋を一枚、書き物机の引き出しから取り出し、下書き通りに丁寧に認める。


 上等な便箋は明らかに紙質が良く、薄いピンクベースで、四隅には花の柄が入っている。


 アデレードはこの便箋がお気に入りで、いつもこの便箋を使用している。



***


 親愛なるローラン様


 早速のお手紙、ありがとうございました。


 学園の定期考査でお忙しい中、私に手紙を送って下さったことを申し訳なく思うのと同時に嬉しく思います。


 お手紙からは慌てて勉強されているご様子は読み取れませんでしたので、きっとローラン様は問題なく定期考査を終えられるのだろうなと感じました。


 ローラン様と出会ってサノワ学園に入学することを決めたので、私は日々受験勉強に明け暮れております。


 勉強のやる気を向上させる為、これからも学園でのローラン様のお話を聞きたいです。



 ローラン様からのお手紙にありましたルグラン侯爵邸への訪問の件につきましては、両親と相談した結果、三週目の週末、四週目の週末が都合が良いという結論に至りました。


 二つしか候補を挙げておりませんが、もしこの二つの内どちらも都合が悪い場合は遠慮なく仰って下さい。


 それと、私とお母様だけではなく、お父様もルグラン侯爵閣下にご挨拶申し上げたいとのことでしたので、当日は三人でルグラン侯爵邸を訪問させて頂きます。



 これからまだまだ暑くなりますが、ローラン様こそ体調管理はしっかりなさって下さい。


 またお会いできる日を楽しみにしています。



***


 アデレードはインクがしっかりと乾いたのを確認した後、丁寧に便箋を折りたたみ、便箋とセットになっている上等な封筒に入れ、最後にバーンズ伯爵家の家紋の封蝋をして封を閉じる。


 そして部屋に置いてある呼び鈴を鳴らし、メイドを呼びつける。


「失礼致します、アデレードお嬢様」


「今、お手紙を書いたので、これを配達に出して欲しいの。宛先は封筒にきちんと記載しているから、それを見て確認して頂戴ね」


「畏まりました。間違いなく手配します」


「お願いね」



 アデレードが書いた手紙はメイドに渡り、ローランの元へと無事に届く。


 後日、ローランからアデレードにまた手紙が届き、ルグラン侯爵邸への訪問日が来月の三週目の週末に決定した。


 アデレードは伯爵夫人と一緒にルグラン侯爵邸を訪問する時の為にドレスを新調したり、手土産を選んだりと楽しみにしながら過ごす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る