第60話
ルグラン侯爵夫人とローランの訪問以降、アデレードはローランと手紙のやり取りをするようになった。
先に手紙を送って来たのはローランの方だ。
手紙の内容はこのような感じだった。
***
親愛なるアデレード嬢
貴女のお陰で先日のバーンズ伯爵邸への訪問は非常に楽しいものになりました。
改めてありがとうございました。
さて、これを
これは夏季休暇に入る前のテストで、春から今まで習ったものがどの程度習得出来たのか確認するものになります。
私が受講している科目の数はそれなりに多いので、謂わば夏季休暇前の試練といったものです。
この定期考査の点数が悪ければ夏季休暇が始まるまでに補講を受け、追試を受けたり、個人個人に配布される成績表に点数が載り、親の叱責を受ける羽目になるので、皆、真剣に取り組んでいます。
一夜漬けの勉強でどうにかなるような甘いものではないとだけはお伝えしておきましょう。
日頃の頑張りが大切です。
定期考査が終わると、ようやく夏季休暇に入ります。
夏季休暇は来月一日からなのですが、両親に相談すると一週目から二週目はルグラン侯爵家関係の付き合いが入っていて、予定があまり空いていないそうです。
なので、アデレード嬢にルグラン侯爵邸を訪問して頂くのは、三週目から四週目がルグラン侯爵家としては都合が良いです。
今のところ、三週目から四週目には予定はほぼ入っていないので、大体どこの日でも可です。
バーンズ伯爵御夫妻とも相談の上、この手紙の返信内容に都合が良い日を三つ程記して、教えて下さい。
最後に暑い日が続きますが、夏風邪などひかれないよう元気にお過ごし下さい。
***
ローランの筆跡は流れるような流麗な字だった。
定期考査中で勉強が忙しいだろうに、手紙からは焦ったり逼迫しているような雰囲気は感じられない。
最後にはアデレードに気を配るような文章まであって、アデレードは感激する。
アデレードが何を送っても返事の一つもなかったベンとは違う。
アデレードは手紙の返事を認めるよりも先に、伯爵夫妻にルグラン侯爵邸訪問について、都合の良い日時を相談しようと思い、自室を出る。
自室を後にしたアデレードはとりあえずサロンに向かう。
運が良ければ、二人がサロンで休憩している場合があるからだ。
サロンではちょうど伯爵夫妻が揃ってお茶をしていた。
「御機嫌よう、お父様、お母様。少し相談したいことがあるのですが、今、お時間よろしいですか?」
「執務の合間に休憩していただけだから時間はある」
「私も時間は大丈夫よ」
伯爵夫妻から時間は大丈夫だと了承を得られたので、アデレードは本題を話す。
「ローラン様からお手紙が届きましたの。そのお手紙にはルグラン侯爵邸訪問の日程の相談が書かれておりました。ローラン様によると来月の一週から二週目は都合が良くないようで、三週から四週目が都合が良いそうです。それで、ローラン様にお返事を書くにあたり、お父様とお母様の都合を確認したかったのです」
「今すぐは予定はわからないから後で執務室に戻ってから確認しよう。確認もせず適当な日を指定しても、後で困ったことになるだけだ。誘われているのはアイリスとアデレードだけかもしれないが、私も一緒に出向いてルグラン侯爵閣下に挨拶しよう」
「私もこの場では予定はわからないから後で確認するわね」
「わかりましたわ。では、お二人の都合の良い日程が決まったら教えて下さい。ローラン様は三つ程都合が良い日を教えて欲しいとのことでしたわ」
「三つね。わかったわ」
「お話はそれだけですので私は部屋に戻りますわ」
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