第48話 リリー視点

 そんなことを思っていたら、ベンのパパが突然、今までの話題とは別の話題を挙げる。


「あと、一つ。ベン、私とバーバラに隠し事をしているだろう?」


「隠し事……身に覚えがありませんが……」


「婚約者への贈り物の代金……と言えばわかるか?」


 ベンのパパがそう言ったら、ベンには何か心当たりがあったみたいでハッと何かに気づいたような表情に変わる。


「私達は最初はお前が心を入れ替えてアデレード嬢とちゃんと交流しようとしているのだと、それを嬉しく思って、言われるがまま請求書通りに伯爵家の財産から代金を支払った。けれど、一向にアデレード嬢と仲良く交流しようとしている様子はなく、距離感も変わっていない。そして、彼女がここに訪問して来てくれた時、請求書に記載のあるお前が贈ったことになっている品物を身につけては来ていない。一度、バーバラがそれとなくアデレード嬢に聞いてみたら、お前からの贈り物は何もないと答えが返って来た。……なぁ、への贈り物としてお前が注文して私達が代金を支払った贈り物は一体誰に贈ったんだ?」


「だ、誰だっていいじゃないか!」


 ベンは明らかに誤魔化そうとしていた。


 でも、わたしはベンが自分の婚約者への贈り物としてわたしに贈り物をしていたことをここで言って、ベンに婚約者として大切にされていたのはわたしだとベンのパパにアピールしたかったから隠すことなく言う。


「そう言えばベンは時折わたしにプレゼントを贈ってくれましたよ! 銀細工の髪飾りとかちょっとした宝石がついたペンダントとか。もしかしたらそれのこと?」


「ほぅ。確かにベンが注文したものには合致するな。そして、ベンと君の付き合いはそんなに長いと」


 ベンのパパにちくりと嫌味を言われたような気がするけれど、気づかなかったふりをして受け流す。


「お前が婚約していたアデレード嬢にきちんと渡していたのなら私達は何も言わない。だが、そうではないのならお前は親である私達を騙していたことになる。伯爵家の財産は領民達が私達に納めてくれた税収でもある。そこから領地で問題が発生してそれを解決する為に使う費用を引いた金額が私達一家が使える財産だ。伯爵家だからと言って無闇矢鱈に散財は出来ない。そのことはわかってたのか?」


「そ、それは……」


「わかっていようとわかっていまいと関係ない。今の時点で、そういうことを平気でするようであれば、お前に爵位を継がせたら横領等の不正に手を染めそうだな。この点からも次期伯爵としての素質は無しだ。お前が今までへの贈り物として私達に伯爵家の財産から支払わせた代金。それは全額お前の個人資産から没収する」


「個人資産から没収……!?」


「この家を出て行く時にお前の個人資産は渡すが、今、言った分の代金分はマイナスするからな。マイナスが嫌なら贈ったものを贈った相手から取り返して質屋に入れて、その分の代金を持ってこい」


 ベンは個人資産からわたしへ贈った贈り物の代金をマイナスされて追放される。


 救済策としてわたしから贈り物を取り戻し、質屋に入れて代金を持っていけばマイナスはしないみたいだけれど、わたしはベンに渡す気はない。



 贈ってくれたのはベンだ。


 ベンが自分の判断でわたしに贈ったものを何故返さなくちゃならないのよ。


 わたしは絶対に手放さないと決意する。


 

 ここでベンがとんでもない発言をする。


「リリーとこのまま婚約する場合は、トーマス伯爵家の跡取りの立場を捨てねばならないというのは理解した。そういうことであれば、私はリリーとは別れ、アデレードに頭を下げ、再度アデレードと婚約する! それならば私は今の生活を手放さずとも済むはずだ!」


「ちょっと、ベン! あなた、何言ってるのよ!? わたしを捨ててアデレードお義姉様と再度婚約し直すですって!? わたし達は真実の愛で結ばれているんじゃなかったの?」


 追いつめられたベンはとうとうそんなことを言い出した。


 真実の愛で結ばれたわたしではなくアデレードと復縁するって言うの!?


「それは間違いだったんだ! 今にして思えば、アデレードは伯爵令嬢として相応しい教養と品格があった。リリーとは比べ物にならないくらい価値のある女だ」


「何ですって!?」

 

 わたしとベンは激しく言い争っていたが、ベンのパパによって中断させられる。

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