第49話 リリー視点
「ちょっといいか、お二人さん。ベン、お前の中では彼女と別れ、アデレード嬢と再び婚約するということになっているが、肝心のアデレード嬢の意思はどうなる?」
「アデレードは私のことを愛しているはずだから、リリーを捨てて誠実に謝れば、もう一度私と婚約してくれるはずだ!」
「アデレード嬢に婚約破棄を突き付け、その後、そこの彼女に対する虐めで、アデレード嬢を悪女呼ばわりして謝罪を強要したらしいな。虐めは事実ではないようだから冤罪になるが。そんな元婚約者と再度婚約したいと思うか? しかも、婚約破棄を突き付けた時に彼女を真実の愛で結ばれていると言っていたようだが、こんなに短期間でころころと相手が変わるなんて、お前の真実の愛とやらは随分と安い愛なんだな」
「父上、ディナーが始まる前、兄上は僕に対してもそこの彼女との真実の愛とやらを盛大に語っていましたよ。何を言っているのか僕には全く理解は出来ませんでした」
「アデレードとお前の復縁はあり得ないと伯爵からの手紙に明記されていた。真実の愛なんだとほざいて浮気しておいて、冤罪で悪女呼ばわりに謝罪の強要。常識的に考えて復縁はあり得ないだろう」
「そんな馬鹿な……! アデレードは私が復縁したいと言えば泣いて喜ぶはずだ!」
反論を続けるベンを尻目にベンのパパは私兵を呼び、わたしとトビーは拘束された。
「こいつら二人を屋敷から追い出しておいてくれ。ベンは除籍するから伯爵家の者として扱わずとも良い」
「はっ」
「これが最後の餞別だ。そこの彼女と仲良くやってくれ。彼女と別れてもトーマス伯爵邸には二度と入れないからな」
ベンのパパは金貨が入った革袋をベンに渡し、私兵はギャーギャー喚くわたしとベンに構うことなくわたしとベンをトーマス伯爵邸の外に放り出した。
***
そして、現在。
わたしはトーマス伯爵邸を追い出されて、一人で行く当てもなく彷徨っている。
ベンとは既に別行動している。
ベンは今までの立場と生活を失ったのは全部わたしのせいだと言い放ち、わたしを置いて去って行った。
ベンへの愛はすっかりなくなってしまった。
出会った時はベンはわたしを助けてくれる救世主だと思っていたけれど、いざ自分の生活が脅かされそうになったらあっさりとわたしを捨ててアデレードとよりを戻すことを選んだ。
実際はベンがアデレードとよりを戻すことはなく、また、これまで通りトーマス伯爵家の跡取り息子としてトーマス伯爵邸で過ごすことはないけれど、そんな思考をしたことは事実だ。
結局、わたしは絵本の中のヒロインになることは出来なかった。
絵本の中のヒロインは大抵”王子様と結婚して、幸せな生活を送りました”という結末で終わる。
でも、それは現実では起こり得ないんだとわたしは身を以て理解させられた。
それに、ベンにアデレードと婚約破棄してわたしを新たな婚約者にすると言われた時、わたしは心の中でざまぁみろと勝ち誇っていたけれど、結局、わたしはベンの婚約者としては認められず、ベン諸共追放という結末を迎えた。
アデレードは最初からわたしが勝てる相手ではなかった。
これからどうしよう。
あんなことを言ってしまったけれど、ダメ元でバーンズ伯爵家に行ってみようかな。
今度は立派な本邸で暮らしたいとかドレスが着たいとかわがままは一切言わないから、バーンズ伯爵邸の離れに住まわせてほしい。
ここから遠いのはわかっているけれど、わたしにはもうそれしか働かずに生活する方法はない。
伯爵様はパパの弟だから、話せばわかってくれるはず。
わたしはバーンズ伯爵邸を目指して旅をすることにした。
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