第47話 リリー視点

 ベンのパパが告げた言葉が一瞬理解出来なかった。


 ……と言うよりも理解することを頭が拒否した。



 衝撃を受けたのはわたしだけじゃなく、ベンも一緒だった。


「えっ……? 父上、一体どういうことですか?」


「文字通りだ。お前はこの家に要らない。お前が選んだ真実の愛とやらの相手と一緒に出て行ってくれ」


「ですが、私はこのトーマス伯爵家の長男です! 私が父上から伯爵位を継ぐのではないのですか!?」


「優秀な二男のトビーがいるから跡取りに困ってはいない。何も絶対にお前でなければ駄目だという訳ではないんだ」


 ベンは必死になって問い詰めているけれど、ベンのパパにとってベンは唯一の跡取り息子じゃないみたい。


 絶対にベンでなければならない何かを持っている訳ではないんだ。


「そ、そんな……」


「何でベンが伯爵家から出て行かなくちゃいけないんですか? ベンは貴族らしい生活をさせてくれるとわたしに約束してくれたんです!」


 ベンとベンのパパのやり取りはさておき、わたしも何とかベンのパパの言葉を撤回させなければならない。


 わたしは今のバーンズ伯爵家での生活から抜け出したくて、ベンに目を付けた。


 伯爵家の跡取り息子じゃなかったら意味ないじゃない!?


 わたしはあくまで貴族として大きな屋敷で一流の料理、一流の装いを楽しみながらお金に困ることなく優雅に暮らしたいのよ。


 ”トーマス伯爵家を出てから好きにすればいい”のではなく、トーマス伯爵家の次期伯爵夫妻としてベンとわたしが認められればならない。


「それはベンが君の言ったことを鵜呑みにして、婚約者をアデレード嬢から君に勝手に変更したからだ。相手の言うことを鵜呑みにするという行為は貴族にとってやってはいけないことだ。相手の言うことを鵜吞みにしたことで、時に再起不可能な状態にまで家が没落することだってある。今回の場合は没落とは関係がないが、ベンが次期伯爵であるのに相手の話を鵜吞みにすることの危険性を全く理解していないことがわかった」


 相手の話を鵜呑みにするくらい別にいいじゃないの。


 鵜吞みにしないなら一々全部確認して面倒だと思うし、常に人を疑わないといけない。


「現伯爵である私の意向を全く聞かずに勝手に婚約者を変更する。これはやってはいけないことだ。婚約は家と家の重要な契約だ。アデレード嬢とお前の婚約を決めたのはバーンズ伯爵と私で、その私に一言も断りがないのは何故なんだ?」


「言えば反対すると思ったからです」


「婚約者を決めるというのはかなり大変な仕事なんだ。問題のある者と縁付かせてはいけない。今回の場合、お前は単純に同じバーンズ伯爵家の令嬢同士だからバーンズ伯爵の許しさえあれば私は何も言わないと思ったのかもしれないが、実際、アデレード嬢とお前が選んだそこの彼女では、トーマス伯爵家の次期伯爵夫人として相応しいのはアデレード嬢であることは明白だ」


 今回の話はただ単純にベンの婚約者をアデレードからわたしに交換するだけでしょう?


 どちらも同じバーンズ伯爵家の娘なんだから、バーンズ伯爵家と縁を結びたいならわたしでもいいじゃないの。


 現に伯爵様だって認めてくれている。


 マナーがどうのこうの言うのならわたしだって勉強すればすぐに身につけられる。


 どこがわたしでは不満なのよ!



 内心そう思ったけれど、正論で論破されそうだったから別の角度から攻めてみることにした。


「でもそれじゃあベンは恋愛結婚出来ないってこと? そんなの可哀想です!」


「貴族に生まれた以上、恋や愛では結婚出来ない。最初は両家の事情絡みで決められた婚約でも、交流するうちにそれなりの良好な関係を築けばよい。平民にはわからないかもしれないが」


 交流するうちにそれなりの関係を築けばよいなんて随分とドライなものなのね。


 愛のない生活なんて何が楽しいのよ。


 それに気持ちが通じ合っていない者同士を無理矢理結び付けても離縁したら意味ないんじゃないの?


 わたしとベンは気持ちが通じ合っているから、無理にアデレードと婚約するよりも余程良いと思うのに。


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