第44話 リリー視点

「今日はちょっと調子が悪いだけで、いつもは完璧に出来るんです! それにわたしとお義姉様を比べないで下さい! お義姉様には良い感情はないから、比べられたら物凄く気分が悪いです! あと、わたしだけもっと簡単に食べられる料理を出すべきだったなんて、間違ってもそんなことを言わないで下さい!」


 言われっぱなしなんて腹が立つから言い返してやる!


 そう思って思いっきり怒鳴りながら言い返した。


 でも、わたしが言い返した内容はさらに状況を悪化させた。 



 大声で怒鳴ったからか、ベンのママに水を勧められたので水を飲む。

 

「少しは落ち着いたかしら?」


「はい……」


「ならいいわ。お水を飲んで頭も冷えたでしょう。では、お話をしましょうね。あなたの言い分は伝わったわ」


 ベンのママはにっこりと微笑んでいたし、わたしの言い分は伝わったという言葉にほっと安堵する。


 わかってもらえたようで良かった!


 ……でもその後に続いた言葉にわたしは返事をすることは出来なかった。


「でもね、あなたの言い分には無理があり過ぎよ。あなたはベンに質問される前は”沢山ナイフとフォークが並んでいるのは初めて見た。どの順番から使うのかわかる訳がない”と言っていたわ。その後、勉強していたんじゃないのかという質問にはこう答えていたわよね? ”勉強はしていたけれど、緊張で全部頭から吹き飛んた”と。そして今しがたこう言ったわよね? ”今日はちょっと調子が悪いだけでいつもは完璧に出来る”と。本当にちゃんと勉強していつもは完璧なら、沢山ナイフとフォークが並ぶことは当然知っているはずだし、いくら緊張していたんだとしても、そんな基本的なことを忘れる訳がないわ。言っていることが滅茶苦茶よ」


 うっ……わたしの主張は無理があり過ぎたみたい。



 それにアデレードとの比較についても言ってきた。


 ”比較するなというのは無理がある”ですって?


 どうしてよ!?


 「だってどんな事情や経緯があったのかは知らないけれど、あなたがベンの新しい婚約者になったのでしょう? 前の婚約者と新しい婚約者を比較するのは人間のさがよ。あなただって古いものを捨てて新しいものを買った経験くらいはあるでしょう? その時、前のと比べて新しいのは……、と比べなかったかしら? それと同じことよ。そして、アデレードちゃんを押しどけて新たな婚約者の座に収まったのなら、あなたのどんなところが彼女よりも優れているのか親として気になるわ」



 わたしがアデレードより優れているところと言えば、可愛いところ。


 あと何よりもベンのことを愛しているところ。


 ベンのママだって息子が愛されていることを知れば、わたしへの印象はきっと良くなるはずよ。


 そう思ってその二つを挙げたけれど、嘲笑された上に一刀両断されてしまった。


「可愛いことは役には立たないわ。ベンを愛しているのかどうかも正直二の次ね。伯爵夫人として上手くやっていける手腕があるのかどうか。この一点を最重要視しているわ。テーブルマナーの初歩で躓くようなお嬢さんには無理なお話ね」


 可愛いところもベンを愛しているところも重視していないの!?


 内心落ち込んでいたところに、さらにベンのパパからも追い打ちがかかる。


「私も言いたいことを言わせてもらう。”自分だけもっと簡単に食べられる料理を用意するべきだったなんて間違っても言うな”と言われても、私にそう思わせたのは君自身だろう? ベンに言った通り、真実バーンズ伯爵家で伯爵令嬢としての勉強していたのなら、あんな質問が出る訳がない。出来ないことを出来ると嘘をつくのは感心しないし、信用出来ない。それだけでなく、正直に勉強していないと認めずに、無茶苦茶な言い訳を重ねる姿勢が見苦しい」



 何とか誤魔化そうと話の筋の通っていない言い分を重ねたことが悪印象を与えてしまったみたい。


 こんなことならベンに嘘の物語を言わなければよかった。


 学んでいないことを学んだと嘘をつくと、いざ学んだことを示す機会がやって来た時に嘘つきだと証明されてしまい、信用を失う。


 あの時、後先考えずにあんな嘘を吐かなければ……と思ったところでもうどうにもならない。



 わたしの一言がきっかけで食事どころではなくなってしまった空気を何とかしようとトビーがベンの両親を説得する。


 その説得の中で、これ以降はわたしの食事中にどんな失敗をしても一切指摘しないという約束をしてもらえた。


 さっきみたいなことになったら美味しい料理も美味しく頂けない。


 だからとても有難かった。



 その後、スープに魚料理、デザート、肉料理、紅茶と何故かもう一度デザートが出て来たけれど、全部自分の思うままに食べた。


 魚料理は全部食べていないのに下げられてしまうという意地悪な目に遭ったけれど、その他は何も問題はなかったように思える。


 デザートが二回も出てきたのには首を傾げてしまったけれど、美味しかったから文句なんて何もない。



 わたしはこの時、自分のことしか考えていなかったけれど、ベンの両親、トビーはわたしの食事中の言動で必死に笑いを堪えていたなんて全く気づかなかった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る