第45話 リリー視点

 ディナー終了後、話し合いの時間がやって来た。


 わたしが今日一番頑張らなければならない時間だ。



 ディナーでの失態を取り繕いつつ、上手くやらなきゃ!


 何としてでもわたしのことを認めてもらわなければ。


 わたしはそんな決意に満ちていた。



 ベンのパパが既に食事も終わっているのにわざわざダイニングで話をする必要もないと言ったので、話はサロンですることになった。


 そして、ベンが伯爵様から預かった手紙はここでベンのパパの手に渡る。


 ベンのパパだけは手紙開封と手紙の内容の確認の為に一旦席を外し、サロンへは残りの全員でひとまず向かうことになった。 



 わたしはトーマス伯爵邸に足を踏み入れてから、屋敷の内部はベンの部屋とさっきまでいたダイニング除き、案内を全く受けていない為、まだ見ぬ部屋に行く機会があるのは嬉しい。


 将来的にわたしはここの女主人になるんだから、屋敷のことは出来るだけ把握しておきたい。



 サロンに到着し、部屋の中を見渡す。


 部屋の中は大きな長方形の机と椅子があり、わたしはベンの隣に座ったらいいと思って、ベンの隣に着席する。


 ベンのパパが来るまではゆっくりお茶を飲んで待つことになっていたけれど、正直に言うとさっきの料理でお腹がいっぱいでお茶はそんなに飲むことが出来なかった。


 おしゃべりしながら待つにしても、ベンのママとトビーが話をするような雰囲気ではなかったので、完全に無言だった。


 気まずい沈黙状態で待っていたら、やっとベンのパパがサロンに到着する。



 まずはディナーのときにはやらなかった自己紹介から始まる。


 ベンのパパの名前はゴードン、ママの名前はバーバラというみたい。


 よし、覚えたわ!


「わたしはリリー・バーンズ。バーンズ伯爵家の二女です。この度、アデレードお義姉様に代わり、ベンの新たな婚約者になりました」


 わたしも明るくにこやかに自己紹介する。



 その後、早速、話に入る。


「お前、そこの彼女のこと、どのくらい知ってるか?」


 ベンのパパがベンに質問する。


 ベンがわたしのことをどのくらい知っているのかですって!?


 ベンに嘘を吐いていたわたしにとって有り難くない方向へ話が進んでいるような……。



「どのくらいとは?」


「知ってることは何でもいいぞ」


「二年前に両親が亡くなって、バーンズ伯爵家に引き取られ、バーンズ伯爵閣下の養子になったこと。アデレードに虐められていて、バーンズ伯爵邸の離れに追いやられ、そこで暮らしていたこと。アデレードよりも一歳年下だということくらいでしょうか?」


 ……不味い。


 今、ベンが挙げたことはわたしがベンに伝えた嘘じゃない!


 まさかと思うけれど、このまま事実確認みたいなことにならないよね?



「思ったよりも彼女のことをよく知らないんだな。何でもとは言ったが、とりあえずこの場で重要と思われることだけを選んだのか」


「全く関係ないことを言っても仕方ないと思いましたので」


「まぁ、それは良い。ベン、それはきちんと事実確認はしたか?」


 わたしの願いも虚しく事実確認の方に話が向かっている。


 でも、まだそうと決まった訳じゃないと淡い期待をする。



「事実確認?」


「ああ。お前はまだ我が家に諜報部隊があることは知らないだろうからそれは使わなかったにしても、直接バーンズ伯爵に時間を取ってもらって彼女のことについて話を聞いて確認したか?」


「いいえ。だってリリー本人が泣きながら私に教えてくれたんですよ? 信用しない訳がないではありませんか」


 ベンがわたしの話を鵜呑みにして信じてわたしの味方になってくれたのは嬉しい。


 でも、この後の展開を予想するとキリキリとお腹が痛くなる。



「本人に言われたから、事実確認はしない。それは駄目だ。いくら本人にそう言われても、確認が取れない場合は話を鵜呑みにしない」


「わたしのことを疑っているんですか!? 失礼な!」


「私はベンと話をしているんだ。君は口を挟まないでくれ」


 思わず大声で怒鳴ったら、窘められちゃった。


「ベン。今、お前が私に言った彼女についての情報、間違っているぞ」


 予想はしていたけれど、やっぱりそんな展開になってしまった。


「は!? そんな訳が……」


「彼女が両親を亡くしてバーンズ伯爵の養子になったのは事実だ。しかし、伯爵が彼女を迎えに行き、養子にしたのではなく、彼女が伯爵家にやって来て伯爵に生活の面倒を見て欲しいと頼んだそうだ。それに養子にしたと言っても、特別養子縁組ではなく普通の養子縁組。バーンズ伯爵の実子同然の養子ではない」

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