第43話 リリー視点

ようやくダイニングにベンの両親が姿を現す。


 ベンのパパらしき人はベンと同じ燃えるような赤い髪で少々厳めしい顔立ちで、ママらしき人はベンと同じ紺色の瞳でおっとりとした垂れ目の可愛らしい顔立ち。


 この人がベンの話にあった優しいママね。


 確かに見た目は優しそうな感じがする。



 わたしはベンの両親に明るく自己紹介しようと思ったけれど、二人ともわたしを一瞬ちらりと視界に入れてふいっと視線を外し、そのまま所定の位置と思われる席に座る。



 あれ……?


 もしかしてわたしは歓迎されていないのかな?



 そんな訳ないよね?


 何だか自己紹介するような雰囲気ではないみたいだから、一旦諦めた。



 そんなことを思っているうちに、ディナーが始まる。


 給仕の人がわたしを含め、皆の席に料理を置く。


 真っ白な大きめのお皿に一口、二口で食べ終わっちゃうような量の料理しか盛り付けられていない。



 たったこれだけなの?


 量はさておき、とりあえず手で掴み、口に運ぶ。


 う~ん……味は美味しいのに量が全く物足りないわ。



 ここで伯爵様がひとまず話をするより食事をするという提案をし、誰の反対もなかったので、その提案が通る。


 わたしもその提案に異論はなかった。



 全員がその少な過ぎる料理を口にした後、給仕はお皿を下げ、また新たに料理が盛り付けられたお皿を置く。


 今度は三種類の料理のようね。


 さっきの少な過ぎる料理はバケットにサーモンのスライスとトマトが乗っていたから、手掴みで食べるのが適当だった。


 でも、今、出されたこの三種類の料理はどう見ても手掴みでは食べられず、ナイフやフォークを使って食べるのが適当だと判断する。


 そこで自分の席を改めて見渡すと、お皿を中心に左側にナイフ、右側にナイフが置いてある。


 わたしは早速ナイフとフォークを手に取ろうと思ったけれど、あることに気づく。


 ナイフもフォークも数本置いてあって、一体どれを使えばいいのかわからないということに。


 わからないことは変に悩んで時間を消費するよりも素直にわかる人に教えを乞うた方が良い。



 そう思ったわたしはベンに質問する。


「ねえ、ベン。このナイフとフォークはどれから使えばいいの?」


 

 その瞬間、わたし以外の全員がバッと勢いよくわたしを見る。


 皆、信じられないものを見るかのような顔をしちゃって一体何よ?


 わたし、そんなに変なことを質問した?



「え? それは一番外側にあるナイフとフォークから使っていくんだが……もしかして知らなかった?」


 今まで食事をする時に、こんなにたくさんナイフとフォークが並んでいるような場面は一度もなかった。


 初めてなのにわかる訳がないじゃない!


「食事をする時にこんなに沢山ナイフとフォークが並んでいるのなんて初めて見たの。わかる訳ないわ」


「こんな初歩のことも知らなかったのか……? 噓だろう……? バーンズ伯爵家ではアデレードに虐められていたけれど、伯爵令嬢としての勉強はしていたと言っていたじゃないか」



 ……げっ、不味いことになった。


 ここでベンに嘘の物語を語っていたことが裏目に出るなんて。


 ベンに語った物語ではわたしは伯爵令嬢としての勉強は一生懸命やっていたことになっていたが、実際はそんな勉強なんて一切していない。


 適当に嘘をついてもバレないと思っていたのに!


 どうしよう、どうしよう……?


 何か上手い言い訳をしないと……!



 そうだ! 


 緊張して全部頭から吹き飛んだことにしよう!


 これなら大丈夫だ!



 ……でも、それで誤魔化されてくれる人はいなかった。



「そこのお嬢さんはテーブルマナーはよくご存知ではないのね。アデレードちゃんの義妹だと聞いたから、てっきりマナー関係は完璧に出来るお嬢さんなのかと思っていたけれど、そうではないのね」


「そうだな。伯爵令嬢だと聞いていたからテーブルマナーは大丈夫だろうと思って、いつも通りのフルコースの料理にしたのだが。この様子だと無駄な気遣いだったようだ。君の分だけもっと簡単に食べられる料理を出すべきだったかな」


 ベンの両親は表情だけはにこやかに嫌味を言ってきた。


 特にベンのママ。


 アデレードを引き合いに出すなんて……!


 それにベンのパパもわたしのことを馬鹿にしてるの!?


 もうっ、頭に来るわね!

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