第36話 リリー視点
それからも、事ある毎にエマに命令やおねだりを色々してみたけれど、全くダメだった。
繰り返ししつこくしつこく言えば、エマの方が根負けして言うことを聞くかと思ったのに、全く堪えた様子はない。
そんな中、わたしはようやく外に出られるようになった。
伯爵様が寄越してきた先生の字の読み書きと基本的な計算の授業を真面目に受ければ、外に出て散歩して良いとのことだった。
時間制限付き、散歩できる範囲は決まっていたけれど、離れに籠りっぱなしで鬱屈していたから、少しだけでも外に出られるのは嬉しい。
伯爵様からの許可が下りたので、早速出歩いてみる。
離れに初めて来た時は周りの景色とかは全く見ていなかったし、興味もなかったけれど、いざこうして散歩してみると、雑草が伸び放題になっているのではなく、きっちり刈り込まれて整備されていたり、お花畑があったりと案外手入れがされていてびっくりする。
久々に外の明るくて気持ちの良い日差しを浴びながら、ゆっくり歩いているとわたし以外の人がいるのが目に入る。
あれは誰だろう?
もう少しだけ近づいてみると、それは金髪の少女と少年だった。
太陽の光できらきらと輝く金髪が羨ましい。
わたしもこんな茶髪じゃなくて、きらきらの金髪に生まれたかったな。
自分の顔立ちは気に入っているけれど、この茶髪だけはどうにも頂けない。
ママ譲りの茶髪だからあまり文句は言いたくないけれど、絵本のお姫様は金髪が相場と決まっているんだから、わたしも金髪が良かったな。
それはさておき、さらに二人をよく見る。
少女はわたしの憧れのドレスを着ているし、少年の方も明らかに良家のお坊ちゃんが着てそうなフリル付きのシャツに繊細な刺繡入りの上等な上着を着ていた。
あれ?
もしかしてこの二人、伯爵様の子供?
上等な洋服を着ていて、わたしと歳は近く、それでいて伯爵邸の敷地内にいるとなると、伯爵様の子供で間違いない。
よし、これはチャンスだ。
この二人と仲良くなれば、この二人とわたしが一緒に大きな屋敷で過ごすのはおかしいことじゃない。
伯爵様も自分の子供から、わたしを離れから大きな屋敷の方へ移してとお願いされたらお願いを聞くはずよ。
エマとノラに言っても全く効果がなかったから、今度はこの子達に託そう。
そこまで考えたところで、二人の方へ走って向かう。
途中、エマがわたしに制止するような声が聞こえたような気がしなくもないけれど、無視する。
間近でみた少女はまさに本物のお姫様だった。
金糸の刺繡の入った上品な薄紫色のドレスに首元には大きなダイヤモンドのペンダント。
毛先だけくるくるに巻かれたきらきらで艶々した長い金髪に、薄い水色の切れ長の瞳。
シミ一つない真っ白でつるつるのお肌に、ぷるんとしたピンクの唇。
何もしなくても美しい顔立ちに、うっすらとお化粧までされている。
わたしとの差よ……!
わたしは自分で着替えられる質素なワンピースに、飾り物は何も無し。
わたしには髪の毛をくるくるに巻いたり、艶々になるようにケアしてくれたり、化粧をしてくれるメイドはいないから必然的にそういうのは一切無し。
悔しさと羨ましさでぎりぎりと歯軋りしてしまう。
でも、この子と仲良くなれればわたしもこの子と同じように扱われる。
その為なら悔しさには今だけは目を瞑ろう。
そう思いながら二人に声をかける。
けれど、反応が芳しくない。
声をかけた瞬間、二人とも顔を引き攣らせたように見えたんだけど、気のせい?
わたしなりに精一杯、感じよく笑って明るく仲よくしようと言ったんだけどな。
二人はわたしを除け者にして、二人だけで何やら小声で相談しているみたいだけれどわたしには内容が聞き取れなかった。
そして、相談が終わったのか少女の方がわたしに向き直る。
少女と少年は予想した通り、伯爵様の娘と息子で合っていた。
名前を教えてくれたということはわたしと仲良くしてくれるということかな?
でも、アデレードの口からはわたしが期待した言葉は出て来なかった。
失礼な人と仲良くする気はないですって?
わたしのどこが失礼な言い方をしたと言うのよ!
それにあんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないの!
わたしは彼らを引き留めて、何とか挽回しようとしたけれど、二人はそのままさっさと何処かに行ってしまった。
いつかアデレードから今の立場を全て奪ってやる!
覚えていなさいよ!
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