第37話 リリー視点
相変わらず思ったような生活を送れなくて、わたしはイライラしながら日々を過ごしていた。
そんな中で、わたしにある出会いが訪れる。
――この時のわたしは、ベンのことを救世主だと信じていた。
ベンという救世主に出会わせてくれたことを神様に感謝していた。
***
その日は、わたしがバーンズ伯爵家に来てから約一年経った頃だった。
本邸のお屋敷の方ではアデレードの誕生日パーティーが開かれていた。
わたしは当たり前のようにそんなものは開いてもらったことがない。
あのツンと澄ましたアデレードが沢山の誕生日プレゼントに囲まれ、そして沢山の人にお誕生日おめでとうと言われる場面を想像するとムカムカする。
わたしもあの時に顔を合わせたアデレードが来ていたような綺麗なドレスを着て、パーティーを開いてもらって、沢山の誕生日プレゼントとおめでとうの言葉が欲しいな。
今日も散歩の許可が出たので、いつも通りのコースを散歩する。
今の季節は夏。
離れの付近には小さな向日葵が沢山咲いている。
今日も変わり映えのない風景だと思っていたら、違った。
向こうにある大きな木の下にぽつんと置いてあるベンチに見たことがない男の人が座っている。
気になったわたしは大きな木の方へ足を運ぶ。
近づいてみると、その男の人はベンチに座った状態で、すぅすぅと寝息を立てて寝ていた。
気持ちよく寝ている人をわざわざ起こすのは忍びないので、男の人の隣に座る。
それから十分位すると、その人はぼんやりと目を開け、うーんと両腕を頭の上に伸ばす。
「ふぁあ、よく寝た。……って君は誰? 初めて見る顔だな」
目を開けたこの男の人は、燃えるような赤い髪に紺色の瞳のイケメンだった。
「わたしはリリー。バーンズ伯爵家の娘よ」
「そうなんだ。私はベン・トーマス。トーマス伯爵家の長男」
「ベンって言うんだ? ところで、ベンは何でこんな場所に?」
「今日はアデレードの誕生日パーティーが開かれていて、家族全員で招待されたんだ。私はあまり乗り気ではなかったんだが、私はアデレードの婚約者でさ。流石に婚約者の誕生日パーティーに参加しない訳にはいかなくて。渋々参加したんだが、ちょっと顔を出したからもう十分だろうと思って、パーティーから抜け出してここに来たんだ。ここなら本邸とは遠いから、連れ戻しに来る人はいない」
ふーん。
アデレードの婚約者かぁ~……。
伯爵家の長男でイケメンの婚約者までいるとか狡いな。
まぁ、でも、婚約者と言っても、渋々パーティーに参加したとか言ってるあたりあんまり仲は良くなさそうね。
「へえ~そうだったんだ。わたし、あの人に婚約者がいるなんて知らなかったな。ベンが自分のことを教えてくれたから、わたしも自分のことをベンに教えるね」
この人はわたしが悲惨な扱いを受けていると知ったら、どんな反応をするんだろう?
ここで会ったことも何かの縁。
もしかしたらチャンスかもしれない。
「わたし、去年、このバーンズ伯爵家の令嬢になったの。両親が死んでしまって途方に暮れていたところに伯爵様がわたしを引き取って保護する為に迎えに来てくれて、バーンズ伯爵家の一員になった。伯爵様に養子にしてもらったのに、アデレードお義姉様が”バーンズ伯爵令嬢は自分一人で十分だ”なんて主張して、わたしを虐めるようになったのよ。今、着ているワンピースだって、”あなたにはドレスは勿体ない。これがお似合いよ”なんて言われて、ドレスを買って貰えないように意地悪をされているし、住んでいる場所だってお義姉様から手を回されて本邸のお屋敷ではなくこの場所から近いところにある離れに追いやられている。わたしが気に食わなかったんでしょうね」
実際の出来事を自分に都合の良いように変えてベンに伝えてみる。
そして、さりげなく意地悪な姉に虐められる可哀想な妹になってみた。
昔、姉が妹に意地悪をして両親が問答無用で姉を叱るという光景を見た。
その時、年下は無条件に庇護されると気づいた。
だから、今回はそれに
実際はどちらが年上なのかは知らないけれど、見た目的にアデレードの方がわたしより年上に見えるから問題ない。
ここで、しんみりとした表情を浮かべ、涙を一粒ポロリと零す。
この涙は嘘泣きしたものだけれど、ベンはちゃんとわたしの涙を見ていた。
これは良い感じじゃない?
久々に手ごたえを感じる。
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