第33話 リリー視点
伯爵様の言葉にわたしは絶望しかけたけれど、神様は私を見捨ててはいなかった。
「ところで君は今、何歳なんだ?」
「13歳です」
「……そうか。わかった。先程はああ言ったが、君を私の養子にして、君の生活の面倒は伯爵家で見よう。三食付きの生活は保障する」
「本当ですか!」
伯爵様の気が変わったのか何なのかわからなかったけれど、生活の面倒をこの大きな屋敷で見てもらえることになった。
わたしは喜びでいっぱいだ。
「君の待遇について私は妻と家令と今から相談してくる。その間、君は別室で待機だ。相談が終わったらまた話をする」
伯爵様はそう言うなり、メイド(恰好から判断した)を呼び出し、わたしを別室に案内するようメイドに言いつけて、自分はさっさとどこかに行ってしまった。
「旦那様からの指示で、あなたには今から別室に案内させて頂きます。私について来て下さい」
メイドに付いて行って案内された先は小部屋だった。
「私はお茶を淹れて来ますので、そのままここにいて下さい。誰もいないからと言って、くれぐれも勝手に抜け出して屋敷をうろうろしたりしないで下さいね」
退室したメイドがカートらしきものを押して部屋に戻って来た。
そしてわたしが座っている椅子の前のテーブルにカップと小さいお皿を置き、カップにお茶を注ぐ。
「はい、どうぞ。待っている間はお茶を飲みながらお過ごし下さい。お茶菓子としてクッキーもありますのでご自由にお召し上がり下さい」
クッキーと聞いて、わたしのテンションは最高潮に上がる。
ママ達との暮らしでは甘いものなんて買ってもらえなかった。
甘いお菓子は高いから。
誕生日の日だけクッキーを買ってもらって食べていたけれど、年一回のお楽しみだった。
籠の中には沢山のクッキーが入っていて、一つ手に取って食べてみるとサクっと軽い食感で、しっかりバターの風味がした。
誕生日の日に買ってもらっていたものよりも遥かに上等なものだとわたしでさえわかる。
自由に食べて良いってメイドが言っていたから、貪るように全部食べてしまった。
クッキーをひたすら食べた後、口の中をリセットする為にお茶に手を伸ばしたけれど、こちらも初めて飲むような味だ。
美味しいかどうかは正直わからなかったけれど、これが貴族が飲む飲み物なんだなと思いながら味わう。
こうやって美味しいお菓子とお茶を飲んでいると、わたしはお嬢様になったんだなぁとしみじみと思う。
「旦那様がそろそろ話をすると仰っています。もう一度、先程までいたお部屋に戻りましょう」
またメイドに連れられ、さっきまでいた部屋に戻る。
そこには伯爵様と最初にわたしを案内していたおじさんがいた。
「さて、今後について話そうと思う。先程、君を養子にして、生活の面倒を見ると言ったが、注意事項がいくつかある。もし聞いていなかったふりをしたり、話を理解出来ないふりをしたりしても私は一切取り合わない。そして、後からごねて、”そんな話は聞いていない”、”話が違う”とか無効を主張しても無駄だ。今から話すことは重要なことだから心して聞くように」
伯爵様は脅すようなことを言っているけれど、大したことじゃないんでしょう?
いざとなればごねにごねたら、伯爵様もわたしの言うことを聞かざるを得なくなる。
理解出来ないふりとごねることで、わたしの思い通りになるはず!
「まず、養子縁組の手続きについて先に話しておく。私と養子縁組はするが、私の実の子同然の扱いになる養子縁組ではない。先程、兄貴の娘だからということで権利がどうのこうの主張して、私が君に主張できる権利は何もないと言ったが、私と養子縁組したことで、君にバーンズ伯爵家に関する権利が発生する訳ではない」
パパの娘であることで権利が認められるかと思えば認められない。
そして、伯爵様の養子になっても権利は認められない。
「わたしには何も権利がないの……?」
「そうだ。今回の養子縁組はバーンズ伯爵家が成人するまで君の後ろ盾になるということを示すだけのもの。つまりバーンズ伯爵家において、君の立場は形ばかりの伯爵令嬢だ。所謂、居候の扱いだ。バーンズ伯爵家に連なる者ではあるが、バーンズ伯爵家の正式な一員ではない。だから、伯爵令嬢として権力を振りかざすということは一切出来ないし、バーンズ伯爵令嬢として社交で活動させることも一切ない」
「わたしを伯爵様の実の子同然の養子にしてもらうことは出来ないんですか? 話を聞いている限り、伯爵様の実の子同然の養子になれば私もれっきとした伯爵令嬢になれると思うのですが? わたしは形ばかりの伯爵令嬢じゃなくて本物の伯爵令嬢になりたいんです!」
話を聞いていると、どうもわたしが望んでいるような展開にならないみたい。
でも、希望はガンガン伝えておかないと!
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