第31話 リリー視点
どうしてこうなったのよ!?
どこで間違ったの!?
ベンと婚約すれば、貴族として大きなお屋敷でゆったり贅沢に暮らせると思ったのに、まさかこんなことになるなんて……!
これなら離れにいた方が余程マシな生活じゃないの!
***
わたしの人生は順風満帆とは言い難かった。
生まれた時からして、わたしは既に所謂負け組だった。
わたしがそれを思い知ったのは良い思い出のないバーンズ伯爵邸に行った時のことだった――。
***
貴族の長男に生まれ、当時、婚約者がいたのに、屋敷で働いていた
貴族の屋敷でメイドとして働いて、
それがわたしの両親だった。
パパは酒に溺れ、ママは娼婦として身体を売ることでしか生活が成り立たなかった。
その場の勢いだけで生まれた家を飛び出したパパは、お金を稼ぐ手段も知らず、生活はママ頼りだった。
ママは屋敷の
当初、ママはパパが貴族の跡取りの立場を捨ててまで婚約者ではなく自分を選んでくれたと喜び、二人して貴族の屋敷を飛び出したのはいいけれど、世間知らずの二人には厳しい現実しか待っていなかった。
パパはお金を稼ぐ手段を知らないからお金を稼ぐ手段をママが教えても、元貴族の長男として使用人に傅かれる生活を送っていたパパが、平民に自分を雇ってくれと頭を下げて平民の下で働けるかという思考になるのは当たり前と言えば当たり前だった。
ママはわたしがお腹にいる時は働くことは出来なかったけれど、出産してわたしがある程度成長すると働かないパパの代わりに働くつもりでいた。
ママは、まず前職と同じメイドとして働こうと考えた。
メイドは仕える家によって使用人の扱いの差や主人の性格の差こそあれ、どこの屋敷でもやることはそう大きく変わらない。
でも、パパの母、つまりわたしから見るとおばあちゃんが手を回して、ママをメイドとして雇わないよう貴族のお屋敷中に手を回していた。
なんて意地悪なおばあちゃんなのだろう!
わたしは今日も門前払いを食らって、家に帰って来てしょんぼりしているママの様子をみて、そう憤慨した。
でも、ママは困った顔をして首を振る。
「奥様からしてみたらわたしは息子をたぶらかした悪女なのよ。私だってルパートに婚約者がいることは知ってて、ルパートと恋人になった。それまで雇って下さっていた旦那様と奥様に後ろ足で砂をかけたも同然のことをした。結局は自分が蒔いた種なのよ。それに使用人を雇うにも信用が第一。伯爵家からルパートと一緒に出奔した私には旦那様や奥様からの紹介書なんてない。前職でメイドの経験があると口では言いながらも以前勤めていた屋敷の旦那様や奥様からの紹介書がない私は、以前の職場で何か紹介書が貰えないようなことをしでかした問題のある人物だということになっちゃうの」
わたしにはよくわからなかったけれど、ママがメイドとして採用されない理由はママ自身の過去の行動に原因があったみたい。
結局、十分な学も職業的なスキルも経験もなかったママは生活の為に娼婦になって身体を売るしかなかった。
パパは生活の為とは言え、他人に身体を売るしかなかったママに嫌気がさして、あんまり家にはいないようになっていった。
そして、他の女の人のところに入り浸るようになった。
お金が必要な時だけ家に帰って来て、ママからお金を奪ってまた他の女の人の所に戻る。
さらに言うと、パパはママに向かって怒鳴っていた。
「お前との間に子供が出来たことが全ての間違いだった。だって子供が出来たと発覚しなければ、俺は貴族のままだったし、大きな屋敷での暮らしも何かも失わずに済んだんだ!」
そんなことをパパは言うけれど、失いたくなかったのなら何で最初から大切にしなかったのだろう?
何で家を飛び出しちゃったんだろう?
それに働かないパパの代わりに働いているのはママだ。
ママに向かってそんなことを言う資格はパパにはない。
パパは控えめに言ってクズな男だとその時わたしは子供ながらに思った。
ママは娼婦として働き始めてからこう言っていた。
「あの時はルパートが私を選んでくれて有頂天になっていたけれど、それはルパートの妾や妻としてお貴族様のお屋敷で暮らせた場合は苦労なくのんびり暮らせるというだけであって、何も持たないルパートとの駆け落ち結婚なんて厳しい現実しかない。ルパートをうまく言いくるめてせめて妾として屋敷においてもらえるよう強く説得すべきだった。リリーを産んだことには後悔なんてないけれど、自分の馬鹿さ加減が嫌になる。リリー、あんたはもうちょっと上手くやりなさい。頑張って金持ちの男を捕まえて、捕まえたら逃がさないように。私みたいになったらダメよ」
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