第7話
アデレードはもう一つ伯爵に言わないといけないことをふと思い出した。
「あともう一つお父様に言っておかねばならないことがありますわ」
「何だ?」
「ベン様に”何故、義妹なのに仲良く出来ないのか”と言われました。それにリリーを虐めたことについて謝れと言ってきました。どうやら彼らの中では私は義妹を虐める意地悪な姉ということになっているようです。実際は彼女は私より年上で、義妹ではなく従姉ですのに。あんな方が血縁上の従姉だなんて認めたくないですが」
アデレードとリリーは年齢差は一歳である。
実年齢も見た目の年齢も大差ないので上手く言いくるめられたのだろう。
「年下の従妹から虐められているという構図よりも、姉に虐められている義妹という構図の方が同情を引くには都合が良い。大方、そうやって嘯いてトーマス伯爵の倅の同情を引いたのだろう。アデレードより自分の方が年下である設定にするにしても従妹より義妹とした方が、関係性はより近くなる。真実を碌に調べもせずにリリーの話を鵜呑みにした倅も大概だがな」
兄や姉が年下の弟や妹から虐められるという構図は、自分よりも年齢が低い子に舐められており、御せる力量がないことを示している。
それに比べ、兄や姉から虐められる弟や妹は、真実がどうであれ、まずは虐めたとする兄や姉の方に疑惑の目が向けられる。
程度の差はあれ、年下は庇護されるべき弱者という印象がある。
後は自分を庇護してくれる者のところで虐められたと小さく縮こまって泣きじゃくり可哀想な被害者を演じれば、その庇護者が自分に代わってお仕置きしてくれる。
ただ、庇護者が相手の言うことを鵜呑みにせず、事実確認をきちんとした上で判断するようなタイプだと後で自分の首を絞めることになる。
その点、リリーの言うことをきちんと事実確認をせずに鵜呑みにしたベンは、彼女にとっては実に都合が良い存在だ。
「お父様、まだベン様が帰ったという報告は来ておりませんわよね?」
「ああ、まだ来ていない」
「ならばもうこのままベン様にリリーをトーマス伯爵家に連れて行って頂きましょう。ベン様がリリーを新たに婚約者にするというのならトーマス伯爵夫妻に会わせる必要もあるでしょう。なので、今日このまま連れて行ってもらえばベン様の方も手間も省けますわ」
「確かに。トーマス伯爵に事情説明の手紙を急ぎで書いて、それも持たせよう。手紙を書き終わるまで使用人達に足止めさせる」
伯爵は机に置いていたベルをチリンチリンと二回鳴らす。
すると、然程間を空けず、家令のテレンスが入室する。
「如何致しましたか、旦那様」
「今からトーマス伯爵に宛てた手紙を書く。その手紙を書き終えるまでトーマス伯爵の倅を屋敷に引き留めてくれ。書き終わったら私が倅に直接渡しに行く」
「畏まりました」
伯爵の命令を受けたテレンスが早速動き出す。
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