第173話

翌日、マリアの見送りのもと、僕達が空間移動をしてマンチェッタ国に移動する。空間移動はアルネがしてくれた。


マンチェッタ国に付くと騒然としてしまう位に何も無い場所に出る。草木も無く、生き物の気配すらない場所だ。


建物すらなく人が住める環境だとは思えない、そう思わせるほどだ。


「多分この場所であってるよ。ドラゴンの匂いが残ってる」

カーリが言う。


「ねえ、カーリ。もしかしたら移動している可能性は有るかな?」

僕が聞くとしきりに耳をパタパタとさせ何かを探る。


僕とカーリが重心を下げいつでも動けるように構える。それと同時に大きな影が頭上に出来る。


ドラゴンだ。だが、知らない魔力だ。注意しないといけない。敵と勘違いされるとエバーには会えなくなる。


エバーは自らの一族を持つ上位ドラゴンだ。元々ホルスメン山脈はドラゴンの住みかで、このマンチェッタ国からオーヂエン国に至る範囲がエバーとその一族の縄張りだ。


ドラゴンが僕達の前に降り立つ。その姿は堂々として、いかにも上位のドラゴンであることは間違い無い。


ドラゴンの姿から人の姿になる。見た目はまだ子供だ。だかその強さはラーネ バハルを既に越えている。


「貴様ら何をしにここに来た?」ドラゴンに声をかけられた。


「エバー ヤルトに会いたい。エバーからの手紙を見て僕達はここに来た」

子供にそう声をかける。


子供が少し首をかしげる。そして考え始める。

「会いに来た? おばさんに?」


子供が震えだし僕に近づく。何かに気づいたのか驚きを隠せない顔をしている。

「えー! てっきりドラゴンだと思った。あんたがリオンか?」


「そうだよ。僕がリオンだ。

僕はドラゴンと人のクオーターだ。ドラゴンになる事も出来ないよ」


子供ががっくりと肩を落とす。

「期待してたのに、どんな凄いドラゴンが来ると思って…」


そんな事を言われてもね。エバーもどんな紹介の仕方をしていたのだろうか?


子供がドラゴンの姿になる。

「乗りな、おばさんのところに案内する」


そう言うと体を傾け、僕達5人を乗せてくれる。その後僕がホルスメン山脈の中腹に有る山の中の窪地に降り立つ。


ドラゴンが子供の姿になって、歩きだす。

僕達もその後に続くと、洞窟の入り口に来た。


入り口は案外狭く、人が人り通れる位の広さだ、入り口を入り狭い通路を進んで少し広い通路に出た。驚く事に街があった。魔石を使い灯りを取り、各家屋が並び人が住んでいた。


通路を真っ直ぐに進み大きな屋敷に入る。

そこはお城の中のように広く、様々な部屋に別れ各部屋の前に護衛の兵士がたっていた。


応接間に通され椅子に座って待つように言われる。


獣人族の狼族、熊族、狐族とおぼしきメイドがお茶を運び新しい横長の椅子を準備して部屋を出る。


兵士数人に抱えられながらエバーが来た。

そして長椅子に横たわりながら兵士に出て行くように伝える。


「リオン、久しぶりね。ちょっと見ない内にかなり強くなったみたいね」

話をするのも苦しいのだろう。寝ているにも関わらず肩で息をしていた。


「エバー、来るのが遅くなった。ごめんね」

エバーに近づき手を握って話をする。


手を握ってすぐにわかった、これは呪いだ。自分をこの場所に転移させる魔族のものではなく、確実に命を落とす事が目的のものだ。


「エバー、いつやられたの?」


「リオンと別れてから直ぐ位かな、カード バハルの娘が襲われた辺り。私も油断してた。こんな、呪いにやられる何て思わなかったよ」


「今、治すよ。僕の妻は神聖魔法の使い手がいる。呪いだけであれば治せる」

ルーニーを紹介して話す。


「待って、ここでは駄目よ。この呪いは取り外す時に呪いをかけた者に居場所が伝わるようになっているの、そのせいでいくつかの隠れ里がやられた」


「わかった、場所を移そう。エバーは動ける?」


「ちょっと待って」そう言うとさっきの子供と大人の女性が入ってきた。


「リオン、紹介する。こっちがハーマンレディ。私の妹で、その息子のアイル。


普段はアルメニア王国の隠れ里で暮らしているわ、この2人に強力してもらう」


ハーマンレディの空間移動魔法でかつての拠点に移動する。空き家がぼろぼろの状態で何件もある場所だ。

僕達が移動タイミングで姿を消す者がいた。アイルがそれを追う。


エバーの解呪を行う。魔族が用いる呪いににている。

ルーニーが詠唱を始めると、エバーの体が光り始める。どういう呪いか解らないがかなり体の深い場所に埋まっているようだ。


エバーの体の光りが一点に集まり黒い煙を体の外に出し終えると、空中に魔方陣が出来上がる。そこから人族を男が現れる。


「魔族の呪い術も便利だ。終わればその場所に転移出来る」

恐らくエバーが死んだと勘違いしたのだろう。ゆっくりと地面に降り立ち、自分の手を見ている。


「何が終わったんだい?」

僕が声をかける。


「何って、簡単だ。呪いをかけた奴が死んだんだよ」そう言って僕を見る。


男が不適に笑い話を始める。

「初めましてだな、俺は和議の千人大将をしている。

で、お前らは何者だ? そして死んだはずのそのドラゴンが何故生きている」


リーンハルが前に出る。

「私が相手をしよう。名はリーンハルだ。別に覚えなくてもいい、どうせお前は死ぬ運命だ。恨むなら自分を恨め」


リーンハルが風斬丸を抜く。千人大将の後ろに隠れていた見えない者達が一斉に倒れる。


風斬丸の風にやられてしまったようだ。

それを見て言う。

「お前ら弱いから前に出るな。俺1人で十分だ」


男が刀を抜き不意に撃ち込んで来る。リーンハルに向かい突きを出す。


リーンハルが横に交わし、男を蹴飛ばす。千人大将の男が倒れながら何かの合図をだす。見えない者達が一斉に動きだすが、その動きに合わせ風斬丸がウィンカッターを放つ。


動き出した者達が皆倒れてしまう。その他の者をアイルが倒したのか戻って来た。アイルがハーマンレディに合図をだす。


ハーマンレディが静かに頷く。


それを合図にリーンハルが動く。千人大将の男が動けないまま両腕を根元から切り落とされ倒される。


その直後、男体から黒い煙が抜け、何処かに飛んで行った。

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