第162話

翌日、また出かけると、みんなに伝える。アルネとカーリは納得したような顔をしているがリーンハルとルーニーは不満そうだ。


リーンハルから文句が出る。

「リオンさん。出来れば私達と一緒にしてくれませんか?

折角の結婚式なのに、一緒に入れないのはさみしいです」

そう言われるとね。何か僕も心が痛む。


「リーンハル、今日だけ待ってもらえるかい。今日はリーンハルとルーニーにとっても大切な人を迎えに行く日だから」


リーンハルが首を傾げる。少し時間を置いてしぶしぶだが了解してくれた。


僕達の会話を聞いたアルネがリーンハルに声をかける。

「リーンハル、サプライズのつもりで黙ってたけど、ランバートさんやダリアさんも今日来る予定なの。リオンしか迎え行くことが出来ないから少し我慢してもらえる」


リーンハルが驚きを隠せずにいる。

「ダリアさんとランバートさんも来てくれるの?」


僕も黙っていた事を謝る。

「ごめんね、黙っていて。僕の独断で決めた事だけど、どうしてもランバートさんとダリアさんには、リーンハルとルーニーの結婚式に来てもらいたくて連絡をとっていたんだ。本当はサンリューチュさんも呼びたかったけど、体の事もあるから」


「わかりました。そう言う理由なら、私、待ちます」リーンハルが納得してくれてから移動を始める。


空間移動でラピスに移動して、ラピスのギルドに入る。受付でダリアさんを確認する。


「すみません、ダリアは本日休みです。ですが、間も無くギルドに来る予定になっています。ギルドの中でお待ち頂けますか?」


受付のお姉さんに言われて、ギルドの食堂に座りダリアさんを待つ。


受付のお姉さんが何かに気が付き、ギルドマスターのダンザ オールさんを呼びに行く。


僕が食堂の椅子に座りダリアさんを待っているとタンザ オールさんが来た。

「やあ、久しぶりだね」


「ダンザ オールさん、久しぶりです」僕も久しぶりに見て少し驚きを覚える。


「大丈夫なの?」そう心配された。それはそうだろう。国宝の剣を盗んだ罪で国外追放処分になってる僕がノコノコと、それも堂々とギルドにくるなんて。結構あり得ない話だ。


「はは、今日は特別です」


「そっかぁ。そうだったね。いや、ダリアさんからも聞いてるよ。おめでとう。

それで、ダリアさんを迎えに来たと言う事だね」


ダンザ オールさんと話をしていると、受付のお姉さんが来て、震えながら、ダンザ オールさんに耳打ちする。

「マスター。この人、あのリオンって言う人ですよ。捕まえ無くていいんですか?」


ダンザ オールさんがなだめる。

「何に固い事を言ってる。こんなめでたい時に。それとも君は魔王認定された者を捕まえるだけの力があって僕にそんな事を言ってるのかな?」


「いいえ、有るわけないじゃありませんか、だから、聞いているんです」

受付のお姉さんが食い付く。


「君は頭が固すぎる。もっと柔軟にならないと駄目だよ。

それと内緒だよ。騒がれると困るから、先に言っておく。この人は国王陛下より、特別指令を受けて、追放された事になっているの。

もし君がこの事を誰かに漏らしたら君は不敬罪で死罪だよ。

余計な事に首を突っ込んだ事を後悔して、許してもらえるように君からも頼むんだね」


「マスター、嘘ですよね」お姉さんの顔が強ばり青ざめて行く。


ダンザ オールさんのいたずらに僕も乗っかる。不敬罪で死罪って有るわけ無いのに。それに罪に問われるのは、僕とタイナーの接見を見ていた貴族だけて、他の人は関係ないのに。ついつい楽しんでしまった。


「本当です。だから、内緒にして下さい。貴族、国民、あらゆる人、全てに適応されます、一族郎党含め死罪です。

お姉さん。好奇心は大事ですが、過ぎたるは及ばざるが如しです」


僕とダンザ オールさんが受付のお姉さんをからかっているとダリアさんがくる。


「やっと来た。待ってたんだからね」ダリアさんが駆け寄って来た。


「あれ、どうしたの?」

ダリアさんが受付のお姉さんを見る。


「ダリア、貴女この人の事知ってるの?」そう言って受付のお姉さんが僕を指差す。


「あら、良く知ってるわよ。何時も話してるでしょう。同郷の妹達の旦那様よ」

ダリアさんが嬉しそうに話す。


受付のお姉さんが失神してしまった。ちょっとからかい過ぎてしまったようだ。


この後ダリアさんを連れてアメール村にくる。

ギルドに入りランバートさんに声をかける。

「お、来たなリオン。俺達の準備は出来てるぞ」


ランバートさんとヒューズが待っていた。

「ヒューズも来てたのかい、迎えに行く手間が省けたよ。ヒューズ、今日は僕のわがままに付き合ってくれてありがとう」


「いいえ、友人として当然です」ヒューズが胸を張って答える。


ダリアさんがランバートさんに声をかける。

「貴方がランバートさん。何時もリーンハルとルーニーがお世話になっています、私は2人の親代わりをしています、ダリア アランネットと申します」


ランバートさんが驚いた顔をしてダリアさんを見る。

「ダリア アランネットってあの、荒神のダリア?」


ダリアさんが顔色を変えずに答える。

「昔のあだ名です。今はラピスギルドの受付をしています」


「ランバートさん、ダリアさんを知ってるの?」僕が聞く。


「ああ、まだ冒険者だった頃にな。オーヂエンに戦慄のアルムがいるように、アルメニア王国に荒神のダリアと言われる凄腕のロイヤルナイトがいた。

当時は出会ったら命が無いと言われる程の存在だったが、16年程前に突如として世の中から消えてしまった。


そうか、貴女でしたか。


いつも、アメールに来た時は、2人から貴女のお話は聞いています。母のように、姉のように、友のように、自分達を育ててくれた人だと」


ランバートさんの言葉にダリアさんが涙ぐむ。サンリューチュさんが来てダリアさんに手紙を渡す。


「この手紙は私がこっそりと預かっていました。リオン君との結婚の話しが進み、2人がリオン君と貴女に挨拶に行った後、私に預かって欲しいと言って持って来たものです。


本当は私も一緒に行きたいのですが、とても一緒には行けません。夫に頼もうとも思ったのですが、いささか不安もあります。


なのでここで受け取って下さい。あの子達、貴女を前にすると、恥ずかしいみたいで」


「ありがとうございます」ダリアさんが満面の笑みで手紙を受け取る。そしてダイヤのような綺麗な涙がポロポロと零れる。


ランバートさん達3人を連れてダンサール国に空間移動する。大宮の部屋に移動して広場に出る。リーンハルとルーニーがつまらなそうに2人で座っていた。


「リーンハル、ルーニーただいま」


2人に声をかけると駆け寄って来て抱き付いて来た。よっぽど寂しかたったようだ。それもそのはずだろうな、アルネはこの結婚式を担当する。担当者だし、カーリはマンチェッタ国の国王達とのやり取りがある。


昨日は遅くまで2人で心細かったんだろうな。何か悪い事をした。そう思い2人をなだめているとヒューズが声をかける。


「リーちゃん、ルーちゃん」


2人がヒューズを見て声を上げる。

「「ヒューちゃん」」


何故かヒューズを見た2人が泣き出してしまった。大宮の客間にみんなを連れて移動してルーニーとリーンハルが落ち着くのを待つ。


ルーニーとリーンハルが落ち着きを取り戻すと僕をそっちのけで5人で話しに花を咲かせている。特に、夜一人一人で寝ることに納得が行かないらしい。


リーンハルとルーニーは僕達と会う前からほとんど2人で寝ていたようだし、僕達と行動するようになって、ずっと5人で暮らしていた。その環境から1人になるのは慣れないらしい。


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