第157話
ガイが闘技場を退場した。
サンベルジュが前に出て儀式を始める。サンベルジュが手を上げて合図する。
「各チームは最初の対戦相手を出せ」
獣人族の所から鳥人族の女性が出て来た。
「私が最初よ、もしかしたら最後になるかも知れないけど」
腕に羽がついていて腕を動かすたびに、羽が優雅に揺れる。そしてその両足、膝からしたが鷲の足のようだ。その鉤爪は、地面に落ちている拳大の石を掴むと、石を粉々に握り潰している。
リーンハルが立ち闘技場に向かう。防具は練習用の鉄の胸当てだけだ。負けるとは完全に思っていないようだ。
「ねえ、勝ち抜き戦になるの?」
そうサンベルジュにリーンハルに問いかける。
「好きにして良いわよ」サンベルジュのその返答だけだった。
リーンハルが風斬丸を抜き、構える。
「さあ、前座は早く終らせるよ。
私1人でみんな相手しても良いけど。
この儀式じゃあ、私らは前座だからさ。最後に花を持たせないとね」
鳥人族の女がリーンハルを睨む。その姿を見て、サンベルジュは黙って闘技場を出る。2人のタイミングで始めろ、と言うことだろう。
リーンハルは早くも戦闘体制に入っていた。油断なく、相手を観察していたのだろう、相手にわからないように、頭の上、数十センチの所に結界を張り待機している。
獣人族 タイタン目線
今回のこの対戦にアーリントン(鳥人族)が自分から立候補してきた。あいつは狡猾で残虐な性格、その上目立ちたがりやだ。圧倒的な力を見せつけ自分をアピールするつもりだろう。
この儀式を自分をアピールする場に持ってこいだと思っている。正直俺も、さっきのルーニーを見るまでアーリントンと変わらない気持ちだった。
だが世界樹の実を食べたこいつらは、俺より強いだろう。まともに戦えればアーリントンに勝機はない。だが、リーンハルには弱点がる。リーンハルには合う剣が無い、最大の問題だ。
リーンハルは剣術の天才だ。それは間違いない、その才能は計り知れない。それゆえに剣が追いつかない。才能が有りすぎる故の問題点だ。
アーリントンに勝つにはやはり剣が問題だ。あの狡猾なアーリントンを倒すには絶対的な恐怖をアーリントンに植え付ける必要がある。
それとリーンハルの奴、情にもろいから流されるかもな。そしたらリーンハルの敗けだ。
しかし、さっきからアーリントンがリーンハルに執拗に話しかけている。あいつ、何か仕込んだな。
「ねえ、貴女若いわね、年上に勝ちを譲り気無い?」
「その剣、不思議な力を感じるけど、特別に作った物なの?」
「そんなに怖い顔しない、始まったばかりよ」
リーンハルの奴、何の変化もねぇな。どうしたんだ? まさかと思うけどアーリントンの奴、何かリーンハルの食い物に盛ったか?
あいつならやりかねないな。
「うるさい、おばさんだね、来ないなら私から行くよ」リーンハルが冷たく言い放つ。
リーンハル、そいつにおばさんは禁句だ。いや、言いたい気持ちは良くわかる。
バン、ドドドド。大量の矢の付いた羽がリーンハルの真上から勢い良く降り注ぐ。リーンハルの回りが土埃で見えなくなった。
アーリントンの奴、これを狙ってたのか。もしかすると毒でもつけているか。いかにリーンハルが強くてもあの数の矢は交わし切れないだろうな。
「あはは、もう終わり。大したこと無いわね、所詮ひ…と…」
ザン!! アーリントンの左腕が肩の付け根から吹き飛んだ。
リーンハルを見てもまだ土埃が舞っていて見えない。
アーリントンを見ると呆然と落ちた腕を見ている。
「貴様、この私の美しい腕を…」アーリントンが怒りで我を忘れている。
タッ アーリントンがリーンハルの上から鉤爪の足でけりつけている。足を交互に地団駄を踏むように執拗にリーンハルの頭を狙っている。その蹴り足の強さからさらに土埃が舞う。
おかしい、アーリントンが蹴っている場所、明らかにリーンハルの身長より高い場所だ。
思わず目を擦り良くリーンハルを見る。土埃が収まって来て初めて、リーンハルがその場にいない事に気が付く。
おいおい、待ってくれ。リーンハルがいない? アーリントンの奴、何を攻撃してんだ。
アーリントンがやっと攻撃を辞め、その場に立つ。そして見えてきたのは結界の上に立つアーリントンだ。
アーリントンは土埃でリーンハルが見えず結界をリーンハルだと思い、蹴り続けた。そう言う事か。
でも待て、リーンハルの奴いつの間に結界張った?
アーリントンがリーンハルがいない事に気か付き、闘技場に降り立つ。かなり気合い入れて攻撃したのだろう、肩で息をしてやがる。
ザッ 「グア」アーリントンの右腕が肩の付け根から吹き飛んだ。
俺は何を見ている? リーンハルがやったのか? リーンハルは何処にいる。
しかし、銀狼のタイタンと呼ばれた俺が、メルニと唯一引き分けるこの俺が、リーンハルに恐怖している。
あれは駄目だ。完全に覚醒した。今のリーンハルに勝てる奴は獣人族にはいない。
リーンハルが何事もなったようにアーリントンの前に来た。アーリントンの奴、ヒゲタ笑いしてやがる。
そうだ、ここまで来たら関係ねぇ。やってしまえ。どんな卑怯な方法を使おうが勝ちは勝ちだ。俺達、獣人族にも意地ってもんが有る。
「私はもう敗けだ、鳥が羽取られたら何にも出来ないからね。へへ」
「えへへ、あんた強いね、私敗けだ見逃して頂戴よ」
アーリントンがヒゲタ笑いをしつつ、リーンハルに命乞いをする。
その態度にリーンハルが鞘に剣をしまう。回りにはそうしか見えてねぇだろうな。恐らくアーリントンも何をされたか気づいて無いはずだ。
だか俺は違う。俺は見た。リーンハルの奴アーリントンの足を切りやがった、アーリントン動いた所で敗けだ。
「勝負はついたわ、サンベルジュさん。私の勝ちで良いかしら? それとも首と体を切りはなさいと駄目かしら?」
リーンハルが自分達の所に帰って行く。
「よせ、アーリントン!!」がらにもなく声をかけたが遅かった。アーリントンが動き出したその瞬間、両足が6個に別れ、首と体が離れた。
そんな、俺ですらリーンハルの動きがわからないのか? アーリントンの太ももを切ったのは見えた。それ以外はこの俺ですら見えなかった。
これは俺達はどうなるんだ。ダンサールに続き、マンチャッタもこの数人に負けるのか?
はは、勝てるビジョンがまるで見えない
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