第95話
話を聞いていたマルイル宰相が話しだす。
「タメニア皇女、貴女達の処遇とガレシオン公国の処遇はこの後陛下がお決めに成る。最悪のことも覚悟なされよ。
我々はこのまま、ガレシオン公国に向かい我が愚息を成敗せんと行けません。少なくても一両日中には陛下とお会いするでしょうそれまでお待ち下さい」
タメニア皇女が項垂れてしまった。
「マルイル宰相、準備かできました」ヒューズの声が聞こえる。
後ろを振り向くとヒューズを初めリーンハルとルーニーが馬車と馬を連れ待機している。
「マルイル宰相、行きましょう」僕が声をかける。
「アルム公爵、ここはお任せします」
「マルイル宰相もお気を付けて」
「リオン、帰ったら顔を出すように」
アルムに釘を刺される。
ロンリーヌの外壁まで来る。流石にガレシオン公国の兵士や貴族の姿は見当たらなかった。
この門をくぐり15km位進むとガレシオン公国がある。門を抜けてある程度進むと軍隊とおぼしき大軍がこっちに向かっていた。
軍隊の中から1人の男がで出来て大声で叫んでいる。
「私はガレシオン公国、騎士隊長 …」
離れた場所からの声ではっきりとは聞こえないものの大軍が攻めて来た事はわかった。見ると馬に乗った兵士と歩兵、弓兵等およそ2000人近い数を確認した。ガレシオン公国は本腰をいれてオーヂエンを乗っ取るつもりだ。
「アルネ、ルーニー、攻撃準備。準備出来しだい暴れてちょうだい。カーリ、リーンハルはこぼれて来た兵士を討伐」
「「「「はい」」」」
アルネとルーニーがドワーフのハンキーさんからもらった杖を取り出す。
アルネが精霊魔法を唱える「炎の化身と化した我が身に従い、浄化の炎をもって不浄なる魂を浄めたまえ 業炎の海」
向かって来るガレシオン公国の兵士に向かい、炎が襲う。
地面から炎が吹き出し扇のように炎が広がり辺り一面をもやしつくす、騎士達の乗る馬は炎に驚き、歩兵の兵士達は逃げ場を失い右往左往しながら結局は逃げ場も無く倒されていく。あるものは炎に焼かれ、あるものは混乱した仲間に踏み潰されていく。
数を頼りにガレシオン公国が攻めてくる、炎により倒された兵士の亡骸を乗り越え魔法の合間を縫うように攻め込んで来る。
「「ファイアーバード ファイアーソード」」
僕とルーニーが同時に魔法を唱える。
20体を超える炎の鳥と1000本近い炎の剣が容赦なく兵士を襲う。
ドン、ドパン、ドドドドドバババン
向かって来た兵士達の殆んどが倒された、その兵士達の亡骸が山と積み重なる。
「ファイアーバード」
アルネが間髪入れずに魔法を唱える。やはりアルネの魔力は違う。たった1度の単詠唱で炎の鳥が100体を超える数が現れた。
そして放たれた炎の鳥は地面すれすれを飛び生き延びた兵士を焼き払いながらガレシオン公国の国境の壁を破壊して、ガレシオン公国辺境都市まで燃やし尽くしている。
ウィンを肩に乗せ風魔法を放つ。
「トルネード」
巻き上げられた竜巻が兵士達の亡骸を吹き飛ばしさらに進む。アルネの開けた国境の壁を通り、さらに辺境都市の中の建物等を破壊していく。
国境の壁のから冒険者とおぼしき連中が大量に飛び出してきた。およそ300人はいるだろうか?
届きもしない魔法を唱え負傷した兵士の回収を狙っている。
この冒険者や兵士も犠牲者なのだろか?
この戦争が何故おこったのか、知っていてやっていることなのだろうか?
彼からからしたら僕達が侵略者に見えているも知れない。
そんな事を考えていると、カーリとリーンハルが兵士の討伐に向かう。無傷の者、倒れてしまったが意識の有るもの、様々だが今回は誰も許す事は出来ない。絶対的な力の差を見せるためにも。
アルネとルーニーにマルイル宰相の護衛を頼み前線に出る。冒険者達に向かい白狐を放つ。
完全に元の力を得た白狐は体長が4m近くあり、白い毛が日の光を浴びて金色に輝き始める。
突如飛び出す九尾の白狐に冒険者と生き残った兵士達が恐怖した。
元々刀である白狐がモンスターの形で出る理由ははからない。刀を鞘に納めている時限定の戦法でもある。
白狐が兵士を威嚇する。その威嚇は助けに入った冒険者達すらも恐怖し震え出し、逃げ出す者も現れたほどだ。
白狐が九つの尻尾を立て、毛を逆立てる。白狐の遠吠えにあわせて尻尾の毛を飛ばす。
鋭く尖った毛が兵士、冒険者だけでなく、国境の壁すらも突き刺し倒して行く。
アルネの魔法で開いた国境の壁は10m幅位だ。だが白狐の飛ばした毛で倒された国境の壁は優に20mを超える幅で倒されてしまった。
僕がカーリとリーンハルに合図を送る。2人も戻って来た。全員でガレシオン公国に攻め込む。
オーヂエンに攻め込む計画を立てた者はこの場にいたのだろうか?そして自分達が攻撃を受けると考えた事はあるのだろうか?
もし、今ものうのうとソファーに座り紅茶等を飲んでいるのらこの惨状を見せてやりたい。
国境の壁をこえ、ガレシオン公国の中に入る。辺境都市を守るはずの兵士の姿が見えずに、逃げ遅れた領民の姿がある。
少し離れた場所に辺境伯の城だろう建物を見つける。攻めてくる者もなく城の前にくる。
「私はオーヂエン国 宰相のマルイル ホォン ビルルマである。辺境伯の建物と考える、誰ぞ出て参られよ」
建物の中から1人、年老いた紳士が出てきた。「私は執事長をしています。マリクスと申します。この屋敷の主はすでにここにおりません、この老人1人でいるだけでございます」
「私はマルイル ホォン ビルルマと申す。主がいない時に申し訳ないがここに逃げ遅れた住民がいるようだ、この者達を夜の間でも保護して欲しい。勝手なお願いだと思うが国境の壁を壊してしまった」
「領民の保護であれば何の問題もありません、少しばかりの食糧もあります」
「そうか、では頼んだぞ」
「マルイル殿、真っ直ぐに王宮に向かわれるのですか?」
「そのつもりだ」
「道中お気を付け下さい、この北の都市は王宮から多少遠くございます」
「わかった、マリクスだったな。よもや40年の年をこえて会えるとは思ってもいなかった。先の大戦以来、お互いに年を取ったものだ」
「マルイル殿、私はすでに貴族ではありません。今はしがない執事です。
ですが良く覚えております。先の大戦で知り合った者同士が今は敵としてお互い対峙しているが、やるせないですが」
「お主と事を構えなくて良かったと思う。だがガレシオン公国の頭脳がいればこんな下らない事は起きなかったのかもしれんな」
「私は今回の事に反対して死刑を賜りました。よってかつての名は捨てております。今はただのマリクスでございます」
「お互い生きておればまた会おう」
「ハイ、いつでもまっております」
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