第93話
川幅じたいはそんなに広くはないが、橋は川の氾濫に備える為に意外に長く作られている。橋の中腹に来ると白い鎧をつけた男達が反対側に見えた。
「旅の人か?」
突然と声をかけられる。おそらく僕達が通るのを見て狙っていたのだろう。
「そうだ」僕が答える。
「ここから先はガレシオン公国の領地だ」
「いつからガレシオン公国の領地になった。急いでいる。下らない冗談ならやめてくれ」呆れたように兵士を見る。
僕の態度が気に入らないのだろう、兵士の顔があからさまに不機嫌になる。
「たったいまからだ」
その言葉を合図に白い鎧の男達が3人現れる。今の所 他にはいないようだ、気配も魔力も感じない。
「急用だ、通してもらうぞ」
カーリを連れて通ろうとしたとき、3人の兵士が前を塞ぎ手を出して来た、僕と兵士が睨みあう。
真ん中の兵士が1歩前に出てきた。ふんぞり返り偉そうに話す。
「通るには通行税が必要だろう。なんならその女でもいいぞ」
そういってカーリの腕を掴もうとする。
「うざい(怒)」
カーリが兵士の手をはらうと金的を蹴り上げた。いかに鎧をつけていると言っても足の付け根であり生理現象を処理する場所でもある、ガード等はついていなかった。
兵士は口から泡を吹き出し倒れる。カーリはさらに不機嫌に言う「私を見ていいのはリオンだけだ」
そう言い放つと兵士達が吹き飛ぶ。兵士の鎧の真ん中、お腹の辺りが考えられない程へこんでいた、おそらく殴られた衝撃で鎧がお腹の中に深くまで刺さったのだろう。
当のカーリはと言うとオーク退治でスッキリすることは出来なかったようだ、あからさまに機嫌が悪い。
カーリが自ら倒した兵士を捕らえて、2人1組にして、ロープで縛り橋から吊るして放置する。まあ、運が良ければ、そのうちマルイル宰相がこの兵士達をひろってくれるだろう。
歩いて村に向かい村が見えた、村自体に壁だろう大きな囲いがあり、中央に門が見えた。何故かその門が不自然に空いている。
警戒しながら中を覗く、村人とおぼしき人達が片隅に集められている。
「これで全員か、隠し事をすると為にならないぞ」
若い男女の兵士が村人を威嚇していた。どう見ても10代の半ば、僕より年下だ。
改めて怒りを感じる。戦争を仕掛けるならそれを言い出した奴が前線にくればいい。犠牲になるのは何も知らない兵士だ、そんな兵士がもっとも早く死ぬ。
怒りを押さえて声をかける
「おい、何をやっている。僕はアメール村から来た冒険者だ。この村は争いのない平和な村と聞いている。盗賊等が入ったのか?」
若い男女の兵士が驚いた顔でこっちを見る。
男の兵士が近づいて来た。
「今、盗賊を捕まえている最中だ、大人しくしていろ」
「ずいぶんと幼い兵士だな、お前達の上長はいないのか? 盗賊がいるのに兵士2人とは聞いた事が無い。ずいぶんとおめでたい上長だ」
「うるさい、兵士長は川沿いを探しにいっている、今戻る」
「そうか」
思わずため息が出る。この子達は兵士見習いだろう。何故敵国に侵入しているのにかかわらずこんな事を辺り前にに出来るのだろうか?
まだ若い子供2人で村人全員を押さえる何てあまりにもおかしい。どう見ても単独でこの子達がやったとは思えない。
僕は怒りが収まらなかった。どちらかと言うと納めるつもりがなかったのだろう。
僕は押さえていた魔力を解放した。といってもある程度は加減したつもりだ、ここには抵抗力の無い村人も多い、
多くの村人がショックで気を失い、兵士の男女は恐ろしさの余りズボンを盛大に濡らし震えていた。
「なあ、君たち、今すぐ投降しなさい。今なら命だけは助ける事ができるよ」
意識の有るもの全て聞こえるように大声で話す。
村人の中に紛れ込んでいた、兵士が怒鳴る
「捕まえろ、我々の方が数が多い」
僕はそう言い放った男に近づきその男の首を白狐ではねる。首を切られた男は立ったまま絶命した。
若い男の子の兵士が叫んだ。
「コノヤロウ、その人にも家族がいるのに…殺す事何て無いだろう!!!!」
「お前達がオーヂエン国に攻め入らなければ良かっただろう。誰かを攻撃すると必ず反撃される。何故自分達は攻撃されないと思っている?何故自分達は死なないと思っている。争いの最終的な決着は戦争を望んだ者が死ぬことだ」
僕の魔力に頑張って耐えていた男の子もついに気を失い倒れてしまった。
カーリが兵士達を縛り村人からはなす。村人の中に兵士とおぼしき者が5人程いた事に驚きを覚える。
僕の魔力を感じたマルイル宰相達が馬を飛ばしてやってきた。
中にはせんだって助けたムッシュ夫婦も一緒にいた。ムッシュ夫婦に聞くと息子夫婦の姿がないらしい。
マルイル宰相が僕を呼ぶ。
「リオン、本日は一気にロンリーヌに突入する。子奴らは油断しきっている。勝機は我らに有る」
「分かりました。直ぐに出ましょう」
「お待ち下さい。私達も同行させて下さい」
ムッシュ夫婦がマルイル宰相に嘆願していた。
マルイル宰相も息子がいない事を理由にロンリーヌまでの同行を許可したようだ。
僕とカーリが前列。
最初の馬車にマルイル宰相、アルネ、ヒューズ、文官、兵士のうち1名は従者の横に座る。
次の馬車に兵士2名とムッシュ夫婦が乗る。
馬車の後ろは馬に乗ったリーンハルとルーニーが守る、この体制で出発する。
馬を走らせ次の集落についたのは約1時間後だった。この集落は農民が4家族で暮らす小さい集落で何の問題もなかった。不思議と兵士もいなかった。
ほっとした気持ちでロンリーヌに向かう。集落を出て1時間ちょっとの時間でロンリーヌの入り口に到着した。
過去になかった巨大な壁が作られ、見張り台は白を基調とした鎧をつけた兵士が跋扈している。だいぶ遠くからも僕達が見えていたのだろう。僕とカーリが乗った馬が100m先から動かなくなった。
「アルネ、カーリ、リーンハル、ルーニー。みんな集合」
アルネが少し疲れたように外に出てきた。リーンハルとルーニーはうまから降りて兵士に馬を預ける。
「これから。好きなように暴れる。僕達にはむかう者は全て敵だ、そう思ってもらっていい。僕達の役割は彼らが僕達の力に怯え2度と侵略しないと心に誓わせる事だ。
アルネ、カーリ、ルーニー、リーンハル。嫌な役回りだけどよろしく頼む。
勿論、僕が先陣をきる。みんなだけに嫌な思いはさせない。圧倒的な力の差を見せながら、最終的にガレシオン公国の王宮まで進む予定だ。嫌な事に付き合わせてごめん」
そう言ってアタマ下げる、こんな事に付き合わせるのが少し悔しい。
「なーにいってんの? この仕事を受けた時から覚悟してるわよ」
アルネに肩をポンポンと叩かれた。
「リオンは相変わらず心配性だね」
カーリが呆れた顔をしている。
「リオンさん、私もリーンハルも強くなりました。心配無用です」
ルーニーが僕に抱きついて来る。リーンハルはガッツポーズをとっていた。
何かみんな僕より男らしい。僕の回りはみんな男らしい子ばかりだな。
「リオン。今変な事考えたでしょ」
アルネからの鋭い突っ込みに思わずプルプルと顔をふる。
ロンリーヌの壁に向き深呼吸をする。
「フル、ウィン肩に乗れ。これからあばれぞ、落ちるなよ。落ちたらお前達はおいていくからな」
フルとウィンが急いで肩に乗るとしがみついてきた。
「じゃ行こうか」
「ファイアーアロー」数千本の炎の矢が上空に出来るとロンリーヌの門に向かい飛び始める。少し時間をおいて壁に辺り大爆発をおこす。
チュッ ドドドドドン。ドン。ドガン ドドドン。煙がキノコのような形を作り消えて行く。
「ダブルトルネード」巨大な竜巻が前後で二つ出来ると攻撃を受けた門に向かい真っ直ぐ飛んでいく。
ガガガガガガガガガガーーーー!!!
門から城内に向かいおよそ幅30m、長さ200m位の何もない道が出来た。建物などを全て吹き飛ばしていた。
そうして出来た道が後に天使の回廊と呼ばれ後の観光名所の1つになる。
「さあ、暴れておいで」
「「「はーい」」」
カーリを先頭にリーンハルとルーニーが続いた。
「何か、美味しい所リオンに持っていかれた」唯一アルネだけがすねていた。
「アルネ、ごめんね」
「終わったら、2人きりでデート。約束ね」
アルネが怒ったように言う。
「分かったよ」
僕の言葉にアルネが嬉しそうにして「言って見るもんだ」と喜んでいた。
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