未来を創る

シヨゥ

第1話

「連続した過去が今を作る様に、連続した今が未来を創る」

 そう言って彼は粘土を練り上げていく。

「俺はこの仕事を未来に残したい。だから今を続けるんだ」

 昔から続く窯元に弟子入りして10年。運良く名を売ることに成功した彼はこの春独立した。

「たしかに工業製品の方が安価で手軽で均一で扱いやすい。ただどこか寂しい」

 そう言って手を止めた。

「儚くて歪。工業製品だったらB品なんて言われる規格違い。まるで人間みたいだろう?」

「そうか?」

「同じ面の人間なんて居ないだろ? それと一緒で焼き物も同じ面の奴はひとつもない」

「ああなるほど」

「俺は人間が好きだ。だから人間と同じような焼き物も好きになった。好きになったからこそ焼き物の未来を創らきゃならない。その営みがここで終わってしまわないように。今を続けなけりゃならない」

 そう言うとまた粘土を練りだす。

「未来を創る。そんな難しいことができる所に運よく納まれた。ならやるしかないだろう?」

 話はそれっきり。黙々と作業に打ち込む彼の邪魔をしたくなくて、一声かけて工房を後にする。

 使命に燃える、とは彼のようなことを言うのだろう。そんな使命に出会うことはあるのだろうか。そんな不安を覚えてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来を創る シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る