Day7 Mission: Possible(お題・天の川)
機関士長であり施設管理長である河太郎は宇宙船の出港時、着港時規定でクルーが船橋にいなければならないときを除いて、ほぼコントロールルームに引き籠もっている。監視カメラで船内と施設内を眺め、会話が必要ならば船内通信か各自のバリカを通して話す。
「そう言えば河太郎の顔を見たのいつでしたか?」
総括マネージャーとして船内をくまなく歩き、住人達と一番よく接している六造が首を捻るくらい、完璧な引き籠もり野郎だった。
そんな彼の重要な業務の一つが
「親のバリカから、そいつの写真をこっちに送れ」
「『HACHIGOROU』、送られた画像から全身の3Dモデルを作成。親の証言に合わせて着衣を変更」
「人認証システムにモデルを登録。全ての施設、アトラクションを利用している五歳前後の子供と照合」
『ガッテン! テーヘンダ! テーヘンダ!』
毎日のように出る迷子の捜索である。
『テーヘンダ! テーヘンダ!』
迷子捜索システム『HACHIGOROU』の合成声が響く。部屋に入ってきた千代は「ご苦労様です」モニターに埋もれたシートの横のミニテーブルに昼食のきゅうりスティックと水のボトルを置いた。
「お千代は食堂のヘルプか?」
「はい。でも、今日は迷子が多いですね。休憩に来た担当者さん達が疲れ果ててました」
「興行最初のサービスデイで、今日は特にファミリー客が多いからな」
ぽりぽりときゅうりをかじりながらも河太郎はモニターから目を離さない。
「河太郎さん、意外と子供好きなんですね」
千代がくすりと笑うと「まあな」彼は
「子供ってのは天の川銀河系一、イレギュラーな存在だからな。昔はしょっちゅう相撲を取ったし、今も見ていて飽きない。それにこのシステムのデータは結構金になるんだ」
勿論、子供の個人データではなく、迷子になった子の年齢、性別、時間帯、発見場所等、もろもろの捜索データが商業遊興施設にとっては貴重なデータになるのだ。それらを彼は星間ネットの施設管理者裏コミュニティで売っていた。
「良い小遣い稼ぎになるぜ」
ポケットマネーとして、自分の懐に入れていることを隠そうともしない河太郎に苦笑を浮かべる。
「ん?」
その彼の視線がモニターの端で止まる。
「『HACHIGOROU』、十一時四十八分に届け出があった迷子がまだ見つかってねぇぞ」
『それがダンナ、監視カメラの映像にないんでさぁ』
「監視カメラに映ってない……」
河太郎の眉間に深い縦皺が寄る。細い指がパネルの上を走り、彼は不審者対策システム『HEIJI』に呼び掛けた。
「『HEIJI』すぐにコミュニティから近場の不審者情報を入手。パークの入出場ゲートカメラの映像と照合しろ」
個人情報保護等で表向きに出来ない不審者情報もこの裏コミュニティにはUPされている。その一つ、最近、幼女相手に誘拐未遂を起こした男の顔が入場ゲートの映像の中にいるのを見て、千代は息を飲んだ。
「三毛丸! 迷子が不審者に連れさらわれた可能性がある! すぐに警備員全員で捜索してくれ! 奴はまだ園内、監視カメラの死角にいる!」
『了解!』
スピーカーから三毛丸の声が返る。河太郎は『HEIJI』に捜索用ドローンを飛ばせた。
* * * * *
『迷子を無事保護しました。念の為、医務室で検査しましたが、着衣の乱れ等、被害を受けた様子はありませんでした。ただ、ひどく怯えてましたので、座長が男といた記憶を消して、御両親の元に帰してます』
あの後すぐに迷子センターにヘルプに行った千代から報告が入る。
くるりとシートを回し、河太郎は三毛丸が捕まえ連れてきた不審者に顔を向けた。対人捕縛用のワイヤーで縛られ、床に転がった男を見下ろす。
「おっ、お前等、こんなことをして! うっ! 訴えてやる! 星間ネットにお前達に非道い目に合わされたと書き込んでやる!!」
もがもがと床で動く男に河太郎はにんまりと笑った。
「手前ぇみてぇな外道は、好きにして良いって座長に言われてんだ」
右手をかざす。それがぬらりと緑色に変わり、ほそい指の間に水掻きが現れる。
「じゃあ、抜かせてもらうぜ……」
「あ……ああっ!! ひぃぃぃ~!!」
河太郎の楽しげな笑い声と男の情けない悲鳴がコントロールルームに響いた。
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