第57話 商人殺し
ザールスと執事のケラハンに書かせた用紙の一枚を、警備の責任者に渡す。
「その用紙に書かれている名前は、ザールスに便宜を図り好き放題させていた貴族の名前だ。場合によっては其奴等も潰す。ブルーゼン宰相に、俺がそう言っていたと報告しろ。其れと後五つほど商家で騒動が起きるが、邪魔をするなよ」
ケラハンに用意させた馬車を呼び、タイエア通りのリエンツ商会にいけと命じる。
走り出した馬車の後ろを、必死で追いかけてくる警備兵がいるが放置する。
邪魔をするのなら蹴散らすまでだ。
王家が邪魔をするのなら、今度こそ国王もろとも皆殺しにしてやる。
もう、名を隠して静かに行動しても無駄なので、立ち塞がる奴は徹底的に叩き潰す事に決めた。
* * * * * * *
タイエア通り、大きいが質素な外観の家の前に馬車が止まる〔リエンツ商会〕宝石商の小さな看板が掛かっている。
扉の前に立っていた男が馬車のドアを開けてくれる。
馬車の中には、商家の子弟風な小僧が一人だけなので不思議そうだ。
男の前に立ち、リエンツに呼ばれてやって来たハルトだと告げると、確認しますと中に入って行ったが直ぐに出てきてお入り下さいと頭を下げる。
質素な外観とは裏腹にホールの壁は精緻な彫刻が施されていて、貴族や豪商相手の商いだと知れる。
広いホールにはぽつんと机が一つ、フロックコートの男が客の確認をすると手元のベルを鳴らす。
ホールの突き当たりの扉が開き、フロックコートを着用しているが屈強な体格の男が現れて俺を奥へと案内する。
二つの扉の前を通り過ぎたが、間隔が広くて見事な彫刻が施されているところを見ると商談室の様だ。
階段ホールから2階に案内され、一つの扉の前に止まるとノックをする。
「ハルト様をお連れしました」
コーエン侯爵様の所でも、此れほど堅苦しくはなかったと思っていると中から扉が開けられた。
またもや同じ様な服装で屈強な男、宝石商の警備を任されて居るのだろうが場違い感が半端ない。
ご主人様はお食事中の様で、長テーブルの正面に座り俺を品定めしながら切り分けた肉を口に運ぶ。
「リエンツ、俺を呼び寄せた訳を聞こうか」
「貴様! 勝手に喋るな!」
怒鳴りつけて来た男は軽鎧に兜を被った護衛の一人、左右の壁際に二人ずつ立っている。
ナプキンで口を拭きながら、片手を上げて怒鳴りつけて来た男を制する。
「なかなかの治癒魔法を使うそうだな」
「そんな理由で俺を呼び付けたのか?」
「お付き合い頂いている、公爵家の大奥様が最近体調不良でな」
「それが俺に何の関係がある」
「少し口の利き方を教えておく必要があるな」
「それは俺も同じ意見だ」
そう同意して、壁際の護衛四人と扉の左右に立つ男二人に案内してたきた男の両手足にアイスニードルを射ち込む。
〈糞ッ〉
〈何故だ?〉
〈旦那様逃げて・・・〉
倒れながらも主人を気遣う、なかなかの忠臣ぶりだ。
アイスニードルを喉に射ち込むと声も消えたので、その忠臣ぶりも伝わらないのが残念だけど。
水のグラスを持ったままフリーズしている男の両肩にもアイスニードルをプレゼント。
給仕役のメイド達は、何が起きているのか理解出来ずに棒立ちで俺とご主人様を見ている。
主人の正面席左右を指差し、座れとメイドに命令するが思考力が麻痺しているのか棒立ちのままだ。
「リエンツ、メイドに座る様に命じろ」
此奴も何が起きているのか理解出来ずフリーズしたままだ。
今度は二の腕にアイスニードルを射ち込んでやると、やっと俺が攻撃している事を理解した。
「小僧、儂を傷付けるとは良い度胸だ。泣き叫び許しを請いながら死ぬことになるぞ」
「それはお前の方だよ」
そう言ってリエンツの鼻に拳大の火球を乗せてやる。
〈ウオーゥ〉一声吠えて仰け反ったが、両腕が使えないので椅子ごと後ろに倒れた。
リエンツが居なくなった場所に浮かぶ火球を消して、メイド二人を椅子に座らせるとリエンツの傍らに立つ。
「クロドスの所に、俺を寄越せと捩じ込んだな。俺はお前の駒か? 何様のつもりだ」
倒れたままのリエンツの横腹を蹴り、立てと命じる。
イヤイヤをする様に首を振るので、顔の形が変わるまで蹴り続ける。
腕と肩のアイスニードルの魔力を抜き、再度立てと命令する。
傷と血に塗れた顔で、呻きながら立ち上がったリエンツを椅子に座らせる。
「お前、俺を自由に使えると思っていたのか? クロドスの所に俺を寄越せと脅しの書簡を送りつけたが、お前はそれ程偉いのか」
返事をしないので、柔らかなアイスバレットを胸に射ち込む。
砕けた氷を撒き散らしながら後ろに吹き飛び、動かなくなったリエンツの手を取り治療する。
〈旦那様何事ですか〉
〈いまの声は何でしょう
か〉
ドンドンと扉が叩かれて、問いかけの声が増えていく。
扉の左右に倒れている男達が、助けが来たと思い生気が戻った様だが甘い。
〈失礼します〉の声と共に武装した男達が雪崩れ込んで来たが、室内の状況を見て動きが止まる。
的が止まっている間に、ソフトボール大のアイスバレットの乱れ打ちだ。
〈ギャー〉
〈ウッ〉
〈ゲッ〉
悲鳴と共に後方に吹き飛び倒れる護衛7人、扉の陰にも居る様なので扉を穴だらけにしておく。
〈ドン〉〈ドン〉〈バッキーン〉と擬音が鳴り響く。
足下で呻き声がするので見ると、リエンツのお目覚めだ。
腹の上に火球を乗せて、すっきりはっきり目覚める様にお手伝い。
服が燃え、一瞬の間を置いて〈ウオー〉と吠えながら跳ね起きるリエンツ。
何が起きたのか判らず痛む腹を抱えるが、火傷の為に顔を顰めて痛む場所を見る。
腹の部分が燃えていて、直ぐ隣では炎の玉が浮かんでいるのを見て、状況を理解した様だ。
「治癒魔法を体験した感想を聞かせて貰えるかな」
何を言われているのか判らずポカンとしている。
「顔だよ、痛まないだろう。肩も腕も自由に動くよな」
俺に言われて初めて、腕が自由に動くことに気づいた様だ、顔に手を当て撫でさすっている。
「俺を自由に出来ると思った、その根拠から聞かせて貰おうか。喋らなければ、今度は顔をこんがり焼いてやるからな」
俺にそう言われた瞬間、顔が引き攣り脂汗が流れ落ちる。
「お前が強気になる理由は判る、強気の元となる名前を全て書き出せ。裏仕事の連中の名もな、書き漏らしたら」
そう言って眼前に火球を浮かべる。
紙とペンを取り出し、リエンツに手渡し書けと顎でダイニングテーブルを示す。
後四つも行かなければならないんだ、仕事は手っ取り早くしなきゃ邪魔が入る。
フロックコートの男に問いかけると、執事をしていますと答えるのでアイスニードルを溶かして立たせる。
主人の正面に座らせると、リエンツと同じ事を書けと言って紙とペンを差し出す。
ペンを受け取る素振りで手首を掴み腕を捻ろうとしたので懐に飛び込み肘打ちを側頭部に叩き込む。
魔力を張り巡らせている俺と、速さで勝負しようとは見上げたものだが、期待に応えてやる義理はない。
脳震盪を起こしたのか、椅子に座り込んでいる男の両足をアイスアローで撃ち抜き固定すると、お仕置きとして頭の上に火球を一つ乗せる。
髪が焼け臭い匂いがし出すころ、熱さで意識が戻り必死になって頭を振り手で払っている。
「余計な事をするな、次は火達磨にして殺すぞ」
そう言ってテーブルの上に、直径1m程の火球を浮かべて見せる。
それを見てゴクリと唾を飲む執事、魔力を抜いて火球を消す。
二人が書き出した用紙を照らし合わせると、後ろ盾の貴族名も裏仕事の連中の名前も半分ちかく違っている。
「二人とも真面目に書く気が無さそうだな。俺が此処に来る前にザールス商会に寄ってきたんだが、奴がどうなったと思う」
リエンツの顔を見ながらそう言い、執事の男を火球で包む。
〈ギャーァァァ〉
悲鳴と共に転がって逃げようとするが、両足を固定しているし、逃げる先に火球を作ってやる。
悲鳴は直ぐに消え執事の男も動かなくなり、後は肉の焦げる匂いが部屋に充満する。
リエンツにもう一度紙を渡し、次はないぞと告げて書かせる。
歯の根も合わないのかカチカチ音を立て、震えながら必死で紙にペンを走らせる。
用紙を受け取り迷惑料徴収と思ったが、金が欲しい訳ではない。
ただの嫌がらせなのだが、面倒なのでリエンツを殺して引き上げる事にした。
俺が用紙を受け取って扉の方に歩き出すと、背後で大きく息を吐き出している。
壊れた扉の手前で振り向き、軽い魔力でアイスランスを胸に撃ち込む。
リエンツが後ろに吹き飛び転がっているが、氷の短槍が突き立っている。
俺が近づくと、扉周辺にいる怪我人達が這って逃げ出す。
通路の両端には、抜き身の剣を持った男達がいるが、近寄って来ようとしない。
念のために、バレーボール大のアイスバレットを数発ずつ叩き込んでから階段室に向かう。
玄関ホールへの扉は閉まっているが、濃厚な人の気配がする。
すんなり帰すつもりが無いのなら強行突破だ、バレーボール大のアイスバレットを数発扉に叩き込む。
〈ウオー〉
〈ギャーァァ〉
〈逃げろー〉
〈馬鹿! 逃げるな!〉
沢山居る様なので扉に近づき、今度は扇形にアイスバレットを10発程射ち込む。
〈駄目だ、死にたくない〉
〈待ってくれ〉
〈助けて・・・〉
壊れた扉の穴から、玄関ホールに倒れている者達が見えるが王都の警備兵の様だ。
死傷者多数の様だが、建物内に侵入して姿を隠しているのが悪いのだ。
だが、姿を見た以上一応挨拶はしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます