第51話 憤怒
「お前は甚振りがいが有りそうだなクルーゲン。ヘレナ姉さんはどうした」
クルーゲンの顔に怯えが走る。
「黙っていれば痛い思いをした挙げ句に、殺してくれと懇願する事になるが、試してみるか」
執事紛いの男にクルーゲンを、寝椅子の前に置かれた巨大なテーブルに寝かせろと命じる。
手足を大の字に縛っていて、つい最近も同じ様な事をした事に気がついた。
テーブルの使用方法が違うとは思うが、手近な物を利用するとなるとテーブルは便利だ。
「クルーゲン、俺の質問に答え無ければどうなるか教えておくよ」
そう告げてクルーゲンの隣にオズボンの冷凍死体を並べて置き、魔力を抜いて見せる。
〈ウッウー ウッァァ〉いきなり冷たい死体を隣に置かれ、発狂寸前の顔で呻いているが、喉に突き立つアイスニードルのせいで大声が出せない。
オズボンの死体は邪魔なのでマジックポーチに戻して尋問再開。
同じ質問を繰り返すが、モゴモゴ言ってまともに喋ろうとしない。
何時ものソフトボール大の火球を腹の上に乗せてやると、必死で振り落とそうと暴れる。
それを執事風の男が恐怖に震えながら見ている。
〈ウッ アッアッァァァ〉必死の形相で腹の上の火球を見て何か言っている。
テーブルに小さな川が流れて、クルーゲンが白目を剥いて失神した。
クルーゲンが気を失っている間に、護衛六人を一カ所に集め執事風の男も縛り上げて転がす。
サイドテーブルに置かれたデキャンタの香りを確かめ、キャビネットからグラスを持ち出して注ぐ。
気持ちよく失神しているクルーゲンの腹に、焚き火よろしくフレイムを乗せて目覚めを待つ。
芳醇な香りを楽しもうってのに〈ギャーァァァ〉って無粋な悲鳴で興ざめだ。
「お早うクルーゲン、ご機嫌は如何かな」
そう言って腹のフレイムの魔力を抜くが、何やらくぐもった呻き声を上げるだけだ。
「質問に答える気になったら頷け、それ迄は何度でも同じ事を繰り返すぞ。これまで火炙りに耐えた奴は一人もいないから、お前がペラペラ喋っても恥じゃないぞ」
そう告げながら、グラスを掲げて見せる。
弱っているクルーゲンと掌を合わせて、魔力を流し込み腹の火傷を治してやる。
痛みが消えたのを訝しんでいるが、喋らなければ第二ラウンドの開始だとは気づいてない。
ほっとしているクルーゲンを、奈落に落とすべく声を掛ける。
「さてと、喋る気が無さそうなので、二度目の火炙りを体験してもらおうか」
死刑宣告の後、クルーゲンの顔の前にバレーボール大のフレイムを浮かべる。
マジマジとフレイムを見ているので、魔力を込めて火球に変えて見せる。
松明の炎の様に燃えていたものが、姿を変え火の玉となり火力を上げている。
〈ヒェー〉情けない悲鳴と同時に、必死に頷くクルーゲンの目の前の火球から魔力を抜いて消す。
喉に突き立つアイスニードルの魔力を抜き、傷を治して声が出る様にする。
「聞こうか、ヘレナ姉さんをどうした」
「います・・・この、屋敷にいま・・す」
「連れて来い! いや俺が行こう。お前が案内しろ」
縛り上げた執事の縛めを解き、ヘレナ姉さんのところに案内させる。
男に案内された部屋は、胸くその悪くなる状態だった。
俺達が部屋に入ると、十人前後の女性が薄物を纏い奴隷の首輪を嵌めて跪いている。
その中の一人、濃い緑の髪に見覚えが有る。
「ヘレナ姉さん!」
声を掛けても、虚ろな瞳で虚空を見ているだけだった。
「おい! 此れを外せ!」
〈でっ、出来ません。旦那様にしか出来ないのです。旦那様の命に従う様に躾けられています〉震えながらそう答える。
男の首を掴んで元の部屋に戻った。
必死で逃れようとしている護衛達にアイスアローを射ち込み、逃亡の意志を砕く。
大の字のクルーゲンの衣服を剥ぎ取れと男に命じ、素っ裸になったクルーゲンの股間を踏みつける。
プチッと肉の潰れる感触と〈ぎゃーァァァァァ〉と、くぐもった汚い悲鳴を残して気絶したクルーゲン、残った玉も踏み潰す。
隣で震える男の両足にアイスアローを射ち込み、顔色を変えて震える護衛達にアイスバレットを顔面に射ち込んでいく。
未だ殺さない、簡単には殺さない。
ヘレナ姉さんに手を出した事を、終生後悔させてやる。
クルーゲンの腹に氷を乗せて、寒さで目覚める迄ウォーターの水を掛け続ける。
〈おっ、おたひゅけ・・・たひゅけれ〉魔力を抜き手足の血止めをして立ち上がらせ、姉さん達が控える部屋に連れて行く。
「首輪を外せ!」
「れきまひぇん、はんらいろれい」
震えながら喋るクルーゲンが、まともに喋れる様に喉に突き立つアイスニードルるを抜き、〈はっきり喋れ〉と殴りつける。
「犯罪奴隷それも終身奴隷の首輪は、作った者にしか外せません」
「なら俺の命令に従う様にしろ」
クルーゲンが震えながら、真紅に輝く指輪を抜き取り差し出した。
支配の指輪、登録した奴隷に指輪を持つ者が命じる事で他者の命令を受け付けない様になるし、主人の命令に従う事になる。
命令に背けば奴隷に苦痛を与え、酷いときには死に至らしめるそうだ。
「この指輪を持つ者の言葉に従います」
指輪を受け取り急いで引き返す。
「ヘレナ姉さん、俺が判るか。もう自由に話しても大丈夫だ」
「ハ・ル・ト・・・ハルト・・・有り難う」
そう言ったきり泣き出してしまい、話が出来なかった。
姉さんが落ち着くのを待ってローブを着せ、クルーゲンと共に元の部屋に戻る。
六人の護衛に指輪を見せて俺に従うかと尋ねると、皆一様に頷き「従いますご主人様」と声を揃える。
メイド喫茶じゃあるまいに、ごつい男にご主人様と言われても嬉しくもない。
全員の怪我を治すと、クルーゲンを机の上に拘束しろと命じる。
屈強な男達に手足を掴まれ、あっという間に元の大の字になる。
口の中にパンツを押し込み、再度股間の物を踏み潰すと悲鳴も漏らさず失神した。
まあ、口の中に自分のパンツを押し込まれていては、悲鳴も出ないだろう。
此奴に奴隷の首輪を外せないのなら、首輪を作った奴の所にも乗り込む必要がある。
ホイホイ気軽に殺す訳にいかなくなったので、優先順位を決めなければならない。
執事風の男の名はエラード、クルーゲンの執事を務めていると言った。
エラードから他の護衛の居場所と人数を確認すると別に8人いて、表に出せない仕事は普段別の場所に待機者達に任せていると話す。
邸内に居る護衛は、全て奴隷の首輪を付けているとの事で、裏切り防止には奴隷を使うのが有効って訳か。
ヘレナ姉さん達とは別に、奴隷の首輪を付けた女性が10人クルーゲンの寝室に居ると喋る。
手足となる奴隷が14人居るのなら、暫くクルーゲン商会を乗っ取る事も可能だと判断して、残り8人の護衛奴隷を呼んでこさせる。
エラードには護衛の一人が常に付き従い、他に異変を知らせようとするなら問答無用で斬り捨てろと命じている。
姉さんを含めた19人の女性達は、客間に居て貰う事にする。
メイドや他の使用人達に、俺はクルーゲンの特別な客人として来ていると伝えて屋敷内を自由に歩けるようにした。
素っ裸のクルーゲンの怪我を治して、服を着させるが病人として振る舞えと命じる。
余計な事を言ったり逃げ出そうとしたら、叩きのめせと護衛達に命じておく。
死なない限り何度でも治してやるから遠慮無用、とクルーゲンの顔を見ながら皆に命令すると鳥肌立てて震えている。
裏仕事をする者達は、オズボン以外に8人居るらしいので、其奴等から片付ける事にした。
何時も其奴等を呼び出す手順に従って呼び出させて、クルーゲンの執務室に迎え入れる。
馴れた様子で執務室に入って来た男達は、冒険者崩れの様で俺の姿を見て品定めをしている。
尋問など面倒なので、無言でクルーゲンが座る机の前に向かう男達を、アイスアローで撃ち抜いていく。
〈ウッ〉
〈糞ッ〉
〈裏切った・・・〉
〈エッ・・・〉
それぞれの言葉を残して倒れて絶命する。
扉の傍や窓際に控える護衛達は、無詠唱で連続してアイスアローを射ち込む俺を黙って見ているが、冷や汗を流している。
後は護衛に死体から全てを剥ぎ取らせると、全身を凍らせてからマジックポーチに入れる。
街中では死体処理が出来ないので面倒だ。
死んだ男達は、仕事を円滑にする為に不要な荷物を持たずに行動出来る様、全員がお財布ポーチを持っているので取り上げ護衛達に与える。
魔道具も取り扱うクルーゲン商会、使用者登録を外してないお財布ポーチも簡単に使用者登録を変更できた。
オズボンの分も含めてお財布ポーチが9個、5個を店から持って来させて全ての護衛達に持たせる。
後で女性の分19個も店からせしめてやる。
奴隷の首輪を提供したルンデス商会に乗り込む準備をしながら、女性達の服をメイドに用意させる。
ヘレナ姉さんに、どうしてこうなったのか話を聞いた。
コランの街、ザラセンからヨールに向かって二つ目の街に嫁いで来たが、あんたが大怪我をして姉に会いたいと言っていると言われ、ザラセンにやって来たと話した。
立派な馬車で迎えに来て、あんたが護衛任務中の事故で大怪我をしたと言われたから信じたと。
コランの街の古着商に嫁いで来て、今は二つになる子供も居ると泣き出した。
取り敢えず犯罪奴隷の首輪を外さない限り、何処にも住めないので暫く辛抱して貰うしかない。
クルーゲン曰く、奴隷商の名はルンデス〔ルンデス商会〕の会長で、ザラセンのバーニエ通り裏に店を構えている。
ルンデス商会に乗り込む準備をしながらもクルーゲンから色々と聞き出して、二人で地下室探検と洒落込む。
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