第45話 体術


 収納の肥やしになっている、賊から取り上げた革袋を取り出して金を一つにまとめ、空袋に金塊を詰め込む。

 岩山を一周していたらエイフ,カロカ.ブルムが、揃って声を上げた。


 〈えーぇぇ〉

 〈馬鹿な〉

 〈俺達って・・・〉


 岩山の上から見ると、以前ドラゴンを追い散らしていた場所が見えると言い出した。


 「この岩を上れるとは思わなかったしなぁ」


 〈本当だよな、下から見たら草一本生えてないし薬草が有るとは思えないからな〉

 〈伯爵も岩山の事なんて一言も言わなかったし〉

 〈彼処に見える岩に生えた木の話は聞いたけどなぁー〉

 〈あの近くの窪地をよく探せって言ってたぞ。最も金が有るとは一言も言わなかったが〉


 其れを聞きながらクルツがニヤリと笑っている。


 「クルツ、伯爵に話したのはあれか?」


 「よくお気づきで」


 「そりゃー捜し物が何か知らないで探すなら、皆が知っている目印は必要だろう。説明するにもさ、事実にちょっぴり嘘って言うからな」


 「俺は嘘に本当の事を少し混ぜただけだぜ」


 ・・・・・・


 皆とグリムの街に戻り、代官に馬車と護衛を用意させる。

 コルツに約束の金貨一袋を与え、金塊を詰めた革袋を預ける。

 俺は侯爵様宛の手紙を認め、エイフに預けてコーエン侯爵様に面会する様に指示する。

 金塊を見つけたコルツや、協力した三人には褒美を出すように要請しているからと言って王都に送り出す。


 俺は残りの拠点作りの護衛をすれば、依頼完了なのでもう少し谷底の森に留まる事になる。

 中間拠点を一つ作れば、金採掘は岩山の上だから適当な拠点を自分達で作るだろう。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 「侯爵様、只今戻りました」


 「ご苦労、で首尾は?」


 「ご紹介します、彼が金塊の発見者コルツです。ハルトからの手紙と・・・」


 エイフがそう言ってコルツを見ると、お財布ポーチから薄汚れた革袋を取り出して差し出す。

 緊張して侯爵に差し出したのを執事が受け取り、トレーに乗せ侯爵の元に運ぶ。

 テーブルに置かれたトレーの上で革袋を開くと、大小様々な金塊が零れ出て鈍い光を反射する。

 コーエン侯爵は思わず身を乗り出して金塊を見、手に取り重さを確かめる。


 エイフから受け取った書状を読み、四人に明日王城に同道して貰うと告げ、執事に四人の部屋を用意させた。

 直ぐにブルーゼン宰相宛の書状を認め、ハルトが金鉱脈の発見と金塊が届けられた、明日報告の為に参上すると伝える。


 翌日、コーエン侯爵の馬車に従い王城に出向いた四人は、ガチガチに緊張しながらコーエン侯爵の後に従う。

 コーエン侯爵が四人を連れてブルーゼン宰相と面談すると、上機嫌な宰相が侍従に合図をする。

 侍従が一礼しワゴンを押して来たが小振りな革袋が三つと大きな革袋が一つ置かれていた。


 「その方がコルツか此度の事大義で在った、陛下も殊の外お喜びでその方達に褒美を与えよとのお言葉じゃ」


 そう言ってコルツを始めそれぞれに革袋を手渡した。

 その後四人を待たせてコーエン侯爵はブルーゼン宰相と部屋を出て行った。

 コーエン侯爵は国王陛下に報告すると、ドラゴン討伐の際に金鉱脈探索の取り決めをしていないので、ハルトの働きに対し格別のご配慮をと願い出る。


 〈おっおい、こりゃー金貨50枚は有るな〉

 〈ハルトと仕事をすると色々ビックリするが、まさか宰相様からご褒美を貰えるとはな〉

 〈一生の語り草になるぜ〉

 〈おりゃー、一生分の革袋を貰ったぜ♪〉

 〈ハルトが褒美を出すようにするった言ってたが、本当に貰っちまったぜ〉

 〈彼奴、何者だ?〉

 〈無茶苦茶強くて、情け容赦の欠片も無い奴だろう〉

 〈そそ、あのドラゴンの扱いを見れば誰でもそう思うな〉


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 四人を王都に送り出した後、最後の拠点作りに谷底の森の中へ土魔法使い達を連れていった。

 ゾルクの森と違って魔物や野獣が大きく強いので、護衛達は難儀していた。


 〈代行、もう駄目です。お助けを〉

 〈話しに聞いたより酷い場所ですよー〉

 〈本当にドラゴンは居ないんですよね〉

 〈あー、もう駄目だ〉


 横で聞いていると漫才みたいな事を言いながら、必死で闘っているのが可笑しくて噴きだしそうになる。

 まっ、危なくなったら俺が助けてくれると判っているので悲壮感は無い。

 この地のベースキャンプは殆ど地下になるので、最初の上物を二階建て程度の岩に見せかけた物を作らせた。

 後は岩の内部から地下トンネルを掘らせているが、獣の数が多すぎるので一つ造る予定を変更し、三つ造る事になってしまった。


 俺が居なくなったら自分達で身を守って貰わなければならないので、避難所まで半日の距離って言うのは可哀想になったからだ。

 これ以上避難所が欲しければ自分達で何とかしろとは言ってある。

 然し土魔法って便利な魔法だとつくづく思う、攻防一体で住居も自分で作れるんだから羨ましい。

 俺の氷結魔法で住居を作ったら一発で風邪を引いてしまうだろう。

 最後の岩山は谷底に降りたときの様な階段を作らせ、後続の者が来るまで宿舎の建設を命じて俺は帰る事にした。


 グリムの街に戻る途中で帰って来たエイフ達と出会い、谷底の森のベースキャンプは何時も使う獣道沿いに造っていると教えて別れた。

 代官に全て終わったからブルーゼン宰相に伝えてくれと頼むと、王都迄お贈りしますと馬車を用意してくれたので、結局俺がコーエン侯爵様を通して伝える事になった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 コーエン侯爵様に依頼は全て完了したと伝え、以前商業ギルドに紹介されたグランツ・ホテルに向かう。

 今回はすんなりとホテルに入れ、部屋を確保してから商業ギルドに向かう。


 此処でも魔法付与の服を造りたいと告げると簡単に奥のソファーに案内される。

 今回造りたいのはフード付きのローブだと伝え、採寸を済ませて料金を支払う。

 ローブの代金金貨200枚と、魔法攻撃無効,防刃,耐衝撃,体温調節の魔法付与代金貨300枚の合計金貨500枚。

 服やブーツの時と大して代金が変わらないので聞いてみると、ローブは生地代で縫製代はサービスだと言われた。


 確かに魔法付与の出来る生地は特殊な物だと聞いていたので納得、金貨500枚の雨合羽だが軽くて丈夫で攻撃を防いでくれる優れものだから安心。

 出来上がりは10日後と言われ、グランツ・ホテルに届けてくれるように頼む。

 残高照会すると金貨19,188枚となっている、侯爵様の先物買いと依頼料を引いても。ドラゴンは相当高値で落札された様だ。


 ローブの出来上がりまでの間に不足気味の食料確保の為に市場に向かう。

 少しずつ味見しながら気に入った物をまとめ買いするが、どうも粘り着く様な視線を感じる。

 それも屋台の店主の様で、粘り着く視線の先には店主がじっと俺を見ている。

 敵意がないので何故見られているのか理解に苦しむが、問い詰める事も出来ない。

 市場巡りを始めて三日目に理由が判った。


 貴族のお抱え騎士達に取り囲まれた、屋台の店主が男達の一人から幾ばくかの金を貰っているのが見える。

 なーる、俺は一種の賞金首だった様だ。


 「貴様がハルトなる冒険者か?」


 「そうですが何か御用ですか」


 問いかけて来た騎士の胸に〔茨の輪に交差する槍とブラックタイガー〕で下に太い線が三本の刺繍が施されている。


 「我らが主、エスター・ザンクト公爵閣下が貴様をお呼びだ。お屋敷まで付いてまいれ!」


 まーた気楽に付いてまいれなんちゃって、公爵様が俺に何の用だよと思い尋ねてみる。


 「そのエスター・ザンクト公爵様が、何の御用ですか」


 「貴様、公爵閣下のお召しに逆らうつもりか!」


 「用件も言わず、いきなり付いてまいれって新手の拐かしか何かですか」


 「ツベコベ抜かすと力ずくで連れて行くぞ!」


 喋る度に感嘆符が付く男にムカつく、俺の天下御免の印籠と同格の筈だが、公爵って国王直近の親族か功績の有った者だったかな。

 どうも貴族の爵位ってよく判らないが、印籠を出しても信用して貰えないだろう事は判る。


 「んじゃー力尽くでどうぞ、出来るならな」


 薄ら笑いで挑発してやる。


 瞬間湯沸かし器並みの早さで激怒したが、剣を抜こうとはしないので自制心は有るようだ。

 周囲を取り囲んでいるのは8人、ちょっと魔力を張り巡らせた状態で訓練した騎士を相手に、何処まで通用するか試してみる事にした。


 「力尽くがお望みの様だから、遠慮なく遣らせて貰うぞ」


 そう、後ろから声が掛かり腕を掴まれ捻られたが遅い。

 捻った腕を後ろに回したので、腕を背に預けたまま反対方向に回り、引き摺られる男の側頭部に肘打ちを叩き込む。

 次の瞬間、横から拳が飛んでくるが一歩前に進んで躱し、目の前の男の股間に膝蹴りをお見舞いする。


 〈クソッ〉と後ろから声が聞こえたので、股間を押さえる男の襟を掴み回る様に俺との場所を入れ替える。

 鉢合わせして蹈鞴を踏む男に掌底を鼻に叩き込むと、横からタックルに来る。 訓練されているだけあり、中々連携プレーがスムーズだが遅い。

 頭を押さえベルトを掴んで足払い、綺麗に前転気味に吹っ飛んで行く。

 躊躇する男に跳び込み袖と襟を掴んで腰を入れ、投げると言うより地面に叩きつける。


 石畳の上に叩き付けられた男が仰け反って呻いているが、投げた姿勢の後ろから尻を蹴られて俺も吹っ飛ぶ。

 飛んだ先に騎士の一人が居たので、そのまま突っ込み前蹴りを腹に入れてやる。


 〈小僧・・・勘弁ならん〉そう呟いて残った二人の内の一人が剣を抜いた。


 「お前、剣を抜く以上は相応の覚悟は有るんだろうな」


 掌底を喰らった男が、横から鼻血を流しながら剣を抜き討ってきたが、覚悟と言われて一瞬怯んだ男の懐に飛び込む。

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