第42話 ドラゴン検分

 わいわい言いながらの作業が終わり、皆で一息ついていたら次のドラゴンがやって来る。


 〈おい、さっきの奴より絶対に大きいぞ〉

 〈かー、ハルトと居ると、世間の常識って物を投げ捨てたくなるぜ〉

 〈ハルト様、さっきのは冗談だから、お仕事お願いしますね〉


 ニヤニヤ笑いながら仕事を押しつけてくるフラン達。


 近づいて来るドラゴンは、さっきの奴より一回り大きい感じだ。

 ホランも〈此れが一番大きい奴じゃねえか〉と認めたので、倒す事にした。

 まっ、仕事は手早くして残業無しが理想だから異議は無い。


 正面から突っ込んで来るが間に障害物は無し、ドラゴンの直ぐ前に高さ1.5メートル幅5メートルの障壁を造ると躓いてよろける。

 バランスを崩して踏みとどまろうとする足下を凍らせると、見事に転んだ。

 後は簡単、腹を見せて起き上がろうと踏ん張る足の下を凍らせ、ジタバタしているところを狙い顎下から脳天に一発。


 〈何度見ても気楽にやってるよなぁ〉

 〈プラチナランカーやゴールドランカーが束になっても敵わない奴だぞ〉

 〈問題はどうやってマジックポーチに入れるかだよ〉

 〈そりゃそうだ、さっきの奴にもいい加減手子摺ったからな〉


 「もう尻尾を適当な所で切っちゃいましょう」


 〈えー、そんな勿体ない〉

 〈王家に文句を言われるんじゃないのか〉


 「それは大丈夫だよ。王家の依頼はドラゴン二頭の討伐と魔石に内臓だけだから、残りは俺の物だよ。オークションに掛けたら多少値が下がるだろうけどどうでも良いし」


 〈ちょっと待て! さっきの様に尻尾を曲げてみようぜ〉

 〈だな、此れほどの奴だ、丸ごと持って帰りたいよな〉

 〈だいたい尻尾を切るって簡単に言うが、こんな堅い奴をどうやって切るつもりだ〉

 〈取り敢えずやってみようぜ〉


 散々綱引きを遣らされたが、マジックポーチに収まらないので所有者権限で尻尾を切る事にした。

 フラン達が興味津々で見ているが、こんなのは簡単だよな。

 皆に手伝って貰い11.5メートルの所に印を付け、手を添えて幅1センチ程にぐるりと凍らせる。

 切り離す所を内部まで凍らせたら、離れた所から特大のアイスバレットを凍った所に射ち込む。

 〈ドーン〉轟音一発、ポッキリ折れて切り離し完了。


 フラン達六人が、お口あんぐりで固まっている。


 〈無茶苦茶だー〉

 〈確かに切り離されたけど・・・〉

 〈まあ、これでマジックポーチには入るわな〉

 〈もう、ハルトの遣る事には、何も言わねえよ〉


 其れ其れの感想を述べながらマジックポーチに消えていくドラゴンを眺めていた。

 用が済んだらさっさと帰る事にする。

 後はコルツに金塊を見つけた場所に案内してもらい、採掘準備が整ったらお仕事完了だ。


 ・・・・・・


 わいわい言いながら崖を登り帰路につくと、ゾルクの森入り口の拠点から一つ進んだ場所で拠点作りが始まっていた。

 エイフの隣にコルツが居て、拠点の配置についてあれこれ話している。


 「コルツ、身体はもう良いのか」


 「ああ、傷は全て治ったから体力を取り戻す為にも食って動かないとな。ドラゴンはどうだった」


 フラン達がニヤリと笑う、其れを見たエイフやカロカとブルムもニヤリと笑う。

 魔法師団の者や護衛の王国軍の者達は、何も知らされていないのでそれ以上は言えない。

 コルツがそんな彼等を見て訳の判らないといった顔をしていると、エイフが耳打ちをしている。

 コルツの目がまん丸になるが、半信半疑といったところだろう。


 「まっ、コルツは見た事がないから信用しろと言っても信じられないだろうけど、此れから嫌って程見せられるよ」


 ブルムがそう言うと、皆が首を揃えてウンウンと頷いている。

 各拠点となるベースキャンプは、文字通りただのキャンプ地だ。

 但し頑丈な三階建てで、内部は二段ベッドがずらりと並び、後はテーブルと椅子など最低限の設備だ。

 ゾルクの森の入り口に有るベースキャンプだけ立派な建物になっているが、それ以外は避難所に毛が生えた程度のものだから、建設には余り時間が掛からない様だ。


 引き続き地の底の淵まで予定通りベースキャンプ建設を続けろと言い置いてフラン達と共にグリムの街に戻る。

 王都に向かうフラン達の為に、代官に命じて馬車を二台用意させる。

 翌日先行するフラン,ドンザ,エグラ達に、騎士10名と冒険者20名の護衛を付けて王都に送り出す。

 フランにマジックポーチを渡し、コーエン侯爵様に宜しくと言って送り出した。

 次の日はサラン,ユラマ,ミューザの三人に、フラン達と同数の護衛を付けて送り出す。

 そしてサランにはフランと同じ様にマジックポーチを託す。


 一仕事終えた俺はゾルクの森に引き返し、コルツやエイフ達と合流し谷底の森を目指す事にした。

 土魔法使いを動員しているといえ、ベースキャンプ一つ造るにも一週間前後掛かるので遅々として進まない。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ハルトからマジックポーチを託され先行したフラン達は、予定通り10日で王都に到着し、馬車はコーエン侯爵邸に滑り込んだ。

 執事のヒャルラーンに迎えられ、そのままコーエン侯爵の執務室に向かう。


 「只今戻りました。依頼は無事達成され、万が一を考慮して第一陣として私が帰って来ました」


 「そうか、ご苦労だった」


 「明日にはサラン達が、もう一つのマジックポーチを持って帰って来ます」


 其れを聞き、コーエン侯爵は王城のブルーゼン侯爵に使者を送る。

 帰って来た使者は、ブルーゼン宰相より第二陣の到着次第、陛下がお待ちなので何時なりと王城に来られたしとの返事を持って来た。


 その夜フラン達は初めてコーエン侯爵邸の客間に泊まる事になり、ハルトと仕事をすると何時も驚かされると三人で盛り上がっていた。

 翌日ジリジリしながら待つコーエン侯爵の元に、サラン達の第二陣が到着すると、直ぐに三台の馬車を連ねて王城に向かった。

 城門を潜り馬車は貴族達専用の停車場を通過し、奥宮に通じる場所に停車する。


 侍従の案内でコーエン侯爵の後を、腰の引けたフラン達六人が続く。

 磨き抜かれた石畳の通路に、ドブルク国王とブルーゼン宰相の二人が並び背後に王国の高官や貴族達が待ち構えていた。

 コーエン侯爵の顔が苦いものになる。


 国王陛下の前で跪くコーエン侯爵の背後で、フラン達が慌てて其れにならう。


 「コーエン、その者達が彼と共に討伐に参加した勇者達か」


 フラン達は、何か話が大きくなって居るぞと冷や汗が流れる。


 「陛下、彼の地で彼と行動を共のしたのは事実ですが、彼等自身も申していますが運搬係を受け持ったにすぎません。不要な言動は、背後に控える者達に迷惑です。それ以上に彼に迷惑が掛かり以前の様な事が起きないとも限りません。ご注意の程を」


 そう言って国王陛下の背後に控える者達をジロリと睨んだ。


 「良く判っているが、忠臣達を無碍にするには忍びなくてのう。堅く口止めしておるので許せ」


 溜め息を吐きたいが、陛下に擦り寄る彼等に口実を与えるので控える。


 「コーエン此処で出してみよ」


 陛下に促されては断る事も出来ない。

 フラン達に頷くと、恐る恐る周囲に人が多すぎて出せないと言われ、陛下や背後に控える貴族達を下がらせる事になった。


 〈幾ら侯爵殿とはいえ、陛下に下がれとは無礼ではないか!〉

 〈下賎な冒険者を引き連れて王宮に来るとは・・・〉

 〈ドラゴン討伐を自分が為したとでも思っているのか〉


 ほほう、陛下の威光を借りて中々威勢がよいと、コーエン侯爵は腹の中で笑う。

 萎縮するフラン達を促し、陛下達の目の前に出して遣れと小声で伝える。

 言われたフラン達が呆気にとられてコーエン侯爵を見ると、不適に笑っている侯爵と目が合った。

 侯爵の意図を察したフランがニヤリと笑い、ドラゴンの大きさを思い出しながら、陛下達の面前に〈ドン〉といった感じでドラゴンを取り出す。


 ドブルク国王やブルーゼン宰相と背後の貴族達は、想像を絶する巨大なドラゴが眼前に出現した為に完全に腰が引けている。

 と言うか、腰を抜かした者や思わず逃げ出した者と様々だが、流石に護衛騎士は逃げ出さなかったが腰の剣を抜いている者もいる。


 その狂態を横目にフランが〈あっと、尻尾が未だだった〉と言いながら斬り落とした尻尾を取り出し並べている。

 其れを見たサランもニヤリと笑い、出されたドラゴンの隣に〈ドン〉と放り投げる様にドラゴンを並べる。

 コーエン侯爵は其れを見ながらクスクスと笑っている。


 「陛下、ご要望のドラゴン二頭で御座います。ご検分の程を」


 侯爵に促されても反応できず、再び強く言われてギクシャクと動き出したが顔は引き攣り冷や汗がだらだらと流れている。

 ブルーゼン宰相も似た様なものだが、国王が曲がりなりにもドラゴンを検分しているので逃げ出せず、真っ青な顔で陛下の影を歩いている。

 背後に控えていた貴族達は、誰一人としてドラゴンに近づこうとしない。


 「貴殿達は宜しいのか?」


 揶揄い気味の侯爵の声に、誰も反発せずその場からドラゴンを見ているだけだった。

 まあ、立って見ているだけましで、何時でも逃げられる体勢の者や目をそらして俯く者多数と、無様を晒している者が多かった。

 肝心の侯爵も足下の方にいたから未だ良かったと胸を撫で下ろしていた。

 何しろ国王陛下や貴族達の目の前に、大口を開けたドラゴンが置かれたのだから、その迫力たるや身の毛がよだつのも無理はなかった。

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