第41話 綱引き
「それでは、金鉱脈を見つけても開発することが出来ないのだが、ボストーク伯爵が冒険者を尋問して金塊は谷底の森に有ると」
「王国は金鉱脈を見つけて開発が出来れば良いんでしょう。その為の方法は考えています」
その方法について説明をして、ドラゴン討伐後の事について侯爵様と話し合い、合意に至った。
そしてコーエン侯爵様とは秘密協定が出来たが、お互い口外禁止の紳士協定でもあり、急遽作られた商業ギルドの俺の口座に入金された。
コーエン侯爵様とドラゴン討伐の約束が成り、ブルーゼン宰相に連絡して準備が始まった。
俺は準備が出来たら同行して、ドラゴンを二頭狩るだけなので、それ迄はホテルで待機だ。
連絡を受けたブルーゼン宰相は急いで魔法師団長を呼び土魔法部隊の出動準備と市井の優秀な土魔法使いを集める様にと命じた。
同時に土魔法部隊を護衛する部隊を、王国軍から選抜する様に王国軍総司令官に命じる。
注文した服を受け取り、のんびりホテルでお茶を楽しんでいると、ブルーゼン宰相から準備が出来たと連絡が届いた。
以前訪れた者とは別の男が、明日関係者との顔合わせの為に王城にお越し願いたいとの、ブルーゼン宰相の言葉を伝えて来た。
この頃になると、俺が王家と深く繋がりがあると思った支配人以下使用人達の態度が、凄く丁寧になってこそばゆい。
迎えの馬車に乗って王城に出向き、広間で魔法師団長以下土魔法部隊と護衛の王国軍の指揮官や隊員達を紹介された。
但し、俺の呼び名は〔代行、又は派遣代行〕と決定、名を知ったとしても口外禁止をブルーゼン宰相から全員に命令された。
宰相立ち会いの下、王国発行の身分証に血を一滴落とし登録する。
冒険者カードと違うのは、表面が王国の紋章と太線三本に星が付いている、俺の物は星が五つでブルーゼン宰相と同じらしい。
裏面に点描の胸像画に名前と生年月日、出身地名と授かっている魔法名に魔力10が浮かび上がっている。
魔力は増えているのに魔力10って事は、表示されるのは創造神ラーラ様より授かった時のものの様だ。
しかし、此れでは現在の魔力量が判らない、アイスバレットやアイスランスの数でしか測れないのは面倒だ。
因みに王家の紋章は、〔茨の輪に吠えるブラックタイガー〕だが、何処かの世界の映画会社みたいだと思ったのは内緒。
コーエン侯爵家は、〔茨の輪に地に伏すウルフに突き立つ剣〕黒狼族なのにそれで良いのかと突っ込みそうになる。
茨の輪は貴族と王国を示すもので、他の者は使用が禁止されているそうだ。
各部隊の指揮官に身分証を提示して、以後任務終了まで俺の指揮下に入ることが告げられた。
翌日コーエン侯爵様配下の者が、グランツホテルに迎えに来てくれたが、何と金色の牙の面々だった。
聞けば俺の伝言を伝えた後、暫く王都見物と洒落込んでいたら侯爵様から声が掛かったと言って笑っていた。
ハルトと言いかけて、代行と言い直すあたりはご愛敬。
彼等と俺が王都の出入り口に向かい、王家から派遣される土魔法部隊の一部と護衛部隊の第一陣と合流して出発。
元ボストーク伯爵領グリムの街に向かった。
王都ドブルクからグリムの街まで10日の馬車旅。
馬車の中で一人は退屈なので、馬で護衛に付くホラン達に交代で馬車に乗って貰い話し相手になって貰った。
お前との仕事は楽して稼げるから良いが、どうも腕が鈍りそうだと笑っている。
グリムの街に到着すると、先ず元ボストーク邸に向かう。
ガーラル地方とグリムの街は、王家直轄領となるので、領主の代わりに代官が旧ボストーク邸を接収して使っている。
代官屋敷に到着すると挨拶もそこそこに、問題の冒険者に会わせて貰う。
拷問と地下牢暮らしのせいで体調を損ねて伏せっているが、彼に内密の話が有ると言って代官以下全ての者を下がらせる。
コルツと言う名の男に、少し苦しくなるが声を上げずに耐えろと伝えて、掌を合わせて魔力を流し込む。
血色が良くなり身体も楽になったので、目をパチクリさせて自分の腕や身体を見ている。
口外禁止を約束させると、此れまでの経緯を話して体力が戻り次第谷底の森に同行して貰う事を伝える。
「あんたさんは役人には見えないが、どうして代官達がヘコヘコしてるんだ」
「俺が王国から、ドラゴン討伐を依頼されているからだ」
「あんたのパーティーがかい?」
「俺一人だよ、あんたの体力が戻る頃にはドラゴン二頭を討伐して迎えに来る。エイフやカロカ達を知っているだろう」
「ああ、同じ谷底の森を歩く奴等だ」
「ボストーク伯爵は、あんたから聞き出した場所を彼等に伝え、ドラゴン討伐の為に集めた冒険者や魔法使いを送り込んでいたのさ。しかし、あんたは金塊を見つけた場所を微妙にずらして伯爵に教えただろう」
「どうしてそう思うんだ、てか、あんたも俺の金を狙っているのか」
「簡単な推理だよ。エイフ達がドラゴン討伐の為に、伯爵から聞かされた場所に護衛達を連れていった。だけど、彼等は何も見つけていない、当然さ、肝心な事を教えられていないからな。其れとあんたは伯爵から拷問を受けて喋らされたが、金塊が見つかれば殺されると思えば教えられない。となればどうするか、克明に説明できるが見つけられない方法は一つ」
「そうさ、喋って金塊が見つかれば、殺されるのは馬鹿でも判る」
「言っただろう、俺は王国からドラゴン討伐の為に呼ばれたんだ。ボストークは失脚して、もう此の世に居ないと思うぞ。明日にでもエイフとカロカにブルムの三人に会わせてやるので、彼等から詳しい話を聞きな。此の地は王家直轄地になったので、例え金塊の発見者と謂えども一欠片も自分の物に出来ないぞ」
〈そんなぁ~〉と悲壮な声を出すので、余っているお財布ポーチと賊から取り上げ、収納の肥やしになっている革袋を7~8個ベッドに投げてやる。
「お財布ポーチの裏に血を落とす場所があるので、血を一滴落として使用者登録をしておけ。革袋は俺を襲ってきた奴等から取り上げた物で、持ち主はもういないので安心して使え」
其れとは別に金貨の入った袋を一つ投げてやり、金塊を見つけた所に案内してくれたら、もう一袋やると約束する。
* * * * * * *
エイフ達にはコルツに事情を説明して、一日おいて後を追って来る様に伝えてくれと頼む。
ホラン達と共に土魔法使い部隊と護衛部隊を引き連れ、ゾルクの森に向かう。
一日掛かってゾルクの森に到着すると、拠点となるペースキャンプを作らせる。
此処から地の底まで二日の距離なので、五つのキャンプ地を設置する事になる。
そうすれば以後半日の距離毎にキャンプ地が有り、安全率も上がり行き来が楽になる。
三日目にはエイフ達が追いついたので、ベースキャンプの設置場所はエイフ達に任せる。
連れてきた土魔法使いの能力では、谷底の森に作るベースキャンプ設営迄には、相当日数が掛かりそうだ。
その間に俺とホラン達で谷底の森へ急ぎ、以前エイフ達が使っていた通路を使いドラゴンの生息域を目指す事にした。
ホランの希望で大きい奴を一頭と、その後は適当な大きさの物を一頭狩る事に決めた。
* * * * * * *
「おいハルト・・・此奴で良いだろう」
「えー、あんまり大きくないだろう。一番大きい奴を狩るんじゃないのかよ」
「おまえなー、ゴブリンやハイゴブリンを狩るのと違うんだぞ」
ミューザとサランが飽きたのか、ちゃっちゃとドラゴンを狩って帰ろうと言っている。
リーダーのホランが折角だから話の種にも大きい奴は絶対だと引かない。
余りに煩いので、目の前のを一頭がそこそこ大きいので狩る事にした。
ドラゴンの方も俺達を餌と決めたらしく、口から舌をシュルシュル伸ばしながら近づいて来る。
鼻面に直径50cm程の氷球をぶち当てると〈グギャーァァァ〉と吠える。
大口を開けた所を狙い、口内に氷球を打ち込むと地団駄を踏んで怒り狂っているが、地団駄と言うよりはドスンドスンと四股踏んじゃったって感じだな。
横を向いた瞬間、頭にアイスジャベリンを撃ち込んで終わり。
戦車の装甲を撃ち抜く砲弾のイメージで撃ち出したので一発KOとなった。
「ハアー、此れじゃードラゴン討伐の自慢話にもならねえなぁ」
「まぁまぁリーダー、ハルトに取っちゃドラゴンもホーンラビットも一緒だからな」
「ドラゴンを間近で見て触れたって事で満足しなきゃ」
「それは判っているけど味気なさ過ぎるだろう。こう、もっと血湧き肉躍るとかさ」
「じゃー、もう一頭はホラン達に任せるよ。俺はサポートに回るからさ」
「冗談きついぞハルト」
「俺達だけじゃ、ゴールデンベアも無理だぜ」
「お前! 俺達を殺す気か!」
「遣らせたら、二度とお前と仕事をしないからな」
「二度とも何も、その時は死んでるぞ」
「所で此奴、マジックポーチに収まるのかな」
「あー・・・12m以上は確実に有るな」
「計って見ようぜ」
「10mのロープをだせよ」
「サラン、ちょっと口先に行け」
「おい、本当に死んでるんだろうな」
「ほっほー、サランビビってるね」
「んじゃー、代わってやるから口先にはお前が行けよ」
わいわい言いながらロープを使って計ると、おおよそ14mちょい。
ランク12のマジックポーチには収まらない、斜めにすれば入るんじゃないと言われて試したが無理だった。
七人でああだこうだと議論百出、結果直線で12mに収めればマジックポーチに入るだろうとなる。
尻尾の先にロープを括りつけてよく曲がる横方向に引っ張る事にしたが、まさかこんな所で綱引きをするとは思わなかった。
マジックポーチに何とか収まったが、倒すより仕舞うのに時間が掛かるとは思わなかった。
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