第37話 夜の訪問者
「さてと、お前の名から教えて貰おうか」
転がっているショートソードを、腰に戻しながら聞くがだんまり。
集めた奴の一人にその男の名前を聞くが、男の顔色を窺っていて喋ろうとしない。
喋らない奴を見せしめの為、即座に胸にアイスアローを射ち込む。
躊躇いも無く殺された仲間を見て、呻き声がそこ此処から聞こえるが気にしない。
「お前はどうかな、喋らないのならじんわりと殺すよ。さっきの奴は一瞬だが、お前は手足を凍らせてゆっくり死ぬ事になる。彼奴の名前は?」
目をキョロキョロとさせ、男と胸にアイスアローを受けて死んだ仲間を見て震えているが、喋ろうとしない。
膝から下と肘から先を凍らせると、其奴の剣で凍った部分を叩き折る。
〈ウワーアァァァ、俺の手が、手がぁー〉
騒ぐ男の隣に行き、震える男に次はお前だと、にっこり笑ってやる。
〈喋る! 喋ります。その男はペルテン、ペルテン・ホラードだ騎士爵を持っている。ザルツ・シュタイア伯爵の配下だ〉
〈黙れ! 貴様覚悟は出来ているんだろうな〉
〈こんな死に方は嫌だ、偉そうに言うなら何とかしろ! 盗賊紛いの仕事で死ぬなんて、騎士の恥だ!〉
「さて、ホラードとやら喋って貰うぞ。ザルツ・シュタイア伯爵の配下か、お前に命じたのは伯爵か? 言っておくが、お前が喋らなければとことん甚振るからな」
返事をしないので、フレイムの火球を奴の顔の前に一つ、もう一つを腹の上に置く。
真っ赤な顔で耐えていたが、直ぐに悲鳴を上げ始めた。
〈止めろ! 熱い止めろ、貴様冒険者の分際で、ウアァァァギャー・・・やめ・・・〉
段々声が小さくなり泡を噴いて失神したが、ウォーターで水を桶一杯分ぶっ掛ける。
目覚めないので頭頂部にも火球を作り、ザビエル頭にすると飛び起きた。
しかし、手足をアイスアローで固定しているので逃げられず、ギャーギャー悲鳴を上げて又失神してしまった。
聞かれた事を素直に喋るまで許す気はない、奴の掌に手を合わせて魔力を探り、ゆっくりと魔力を送り込む。
〈まさか・・・〉
〈治癒魔法だって〉
〈それも高ランクの治癒魔法だぞ〉
〈氷結魔法だけじゃなかったのか?〉
〈さっきは、無詠唱で火魔法を使ってたぞ〉
騒ぎ出す奴等を一睨みして黙らせると、ホラードの容体を見ると完全に火傷は治っている。
然しアイスアローに射抜かれた手足はそのままだ、まあアイスアローが突き立ったままだから治らないのは当然か。
ザビエル頭になり火傷は治ったが、頭髪は復活していないので、ザビエルってより河童に近い雰囲気だ。
ホラードの頭上にウォーターの水を掛けるが、魔力を流して冷水にしているので冷たさにしっかり目が覚めた様だ。
冷たさに身震いするホラードに、火傷の具合はどうだと尋ねてみる。
はっとして自分の腹を見ているが、腹の部分がが焼け焦げた服から火傷のない腹筋が見えている。
「どうだ、痛みも無い筈だ」
〈どうして・・・〉
理由が判らない様なので、肘の上に再び火球を乗せてやる。
〈止めろ、止めて下さいお願いします。熱いあつい!〉
服も燃え腕も十分火傷をした所で魔力を抜き、火を消してやる。
黙ってホラードと手を合わせると、ゆっくり魔力を流し込み体内に張り巡らせる。
「自分の腕を見てみろ」
〈まさか・・・そんな〉
「お前が素直に喋り出すまで、火炙りにしては治してやるよ。喋らなければ気が狂うまで続けるぞ」
火傷の治った腕をマジマジと見ているがそんな暇はないぞ。
再び腹の上に火球を乗せると、半泣きで喋るから止めてくれと懇願してきた。
「誰に命じられて、俺のショートソードを取りに来た」
「ザルツ・シュタイア伯爵様にだ」
「理由は聞いたか?」
「お前が高価な香木をショートソードの柄に使っているので、買い取れと命じられたんだ。拒否すれば斬り捨ててでも手に入れろとな」
「其れにしては人数が多いのは何故だ」
「お前が、魔法比べで抜群の腕を見せた魔法使いだから、此れだけの兵を連れて行けと言われた」
「で、その伯爵の領地は何処だ」
「ここだ、オディング地方が領地で領都がブルゲンの街だ。知らなかったのか?」
「興味が無いんでな。どうりで堂々と襲って来るはずだな。伯爵は何処で俺の剣の柄が香木だと知ったんだ。ごく少数の者しか知らない事だぞ」
「多分、ブルーゼン宰相の従者からだと思う。シュタイア伯爵の遠縁の者が従者として宰相に仕えているからな」
ホテルに書状を届けてきた男か、俺が読んだ後は封が切られているので覗き見てもバレる事はないな。
そしてシュタイア伯爵にご注進に及んだ訳か。
面倒事って、何処に転がっているか判らないものだ。
伯爵様か・・・兵は拙速を尊ぶと言うので、早いほうが良いな。
ホラードの腰のお財布ポーチを取り上げて、使用者登録を外させて俺の収納にナイナイする。
もう用は無いので、全員にアイスアローを撃ち込みあの世に送ってから街に引き返した。
但し、ホラードは全身を凍らせてマジックポーチに入れ、別の場所でバラバラにして捨てた。
焦げた服や頭を見られたら、俺が火魔法と治癒魔法を使えると思われるので、隠すに限る。
街の衛兵は俺の事を聞かされていないのか、冒険者カードを見ただけで通してくれた。
日暮れまで冒険者ギルドで暇潰しをした後、伯爵邸に向かい暗がりで時間を潰す。
月は中天に掛かり、人皆眠りに就く頃に・・・なーんてナレーションを入れながら伯爵邸の通用門に向かう。
「夜分失礼します。ペルテン・ホランド様からの伝言をザルツ・シュタイン伯爵様に言付かって参りました。お取り次ぎを願いたい」
ここは素顔を晒してしまうが、後でさようならをさせて貰おう。
俺の言葉を受け、衛兵が夜間用の潜り戸を開けてくれる。
〈付いてこい〉との言葉に従って屋敷に向かい、使用人用の通路から屋敷内に入った。
〈執事殿を呼んで来るので、此処で待て〉と言って衛兵が消えたので、薬草袋を切り裂いた布で覆面をする。
以前の冒険者服を捨てずにいて良かった、此れが終わったら処分して新しい服を着ていれば大丈夫だろう、多分。
人が近づいて来る気配で、ドアの影に身を潜めると勢いよくドアが開いた。
室内に入って来た衛兵が〈あれっ〉と間抜けな声を上げた所で心臓を軽く冷やしてやる。
〈ウゥゥゥ〉胸を押さえて前のめりに崩れ落ちる衛兵に、フロックコートの男が駆け寄る。
その男の太股にアイスニードルを射ち込み、喉にも横からアイスニードルを射ち込んで声を出せない様にする。
用済みの衛兵の背中にアイスアローを数本射ち込み、俺じゃない偽装工作を施す。
「ペルテン・ホランドから話を聞き、ザルツ・シュタイン伯爵に会いに来たのは間違いないが、死にたくなければ静かにして俺の指示に従え」
そう言ってフロックコートの男の目の前に、テニスボール大の火球を浮かべる。
覆面姿の俺に驚いているが、喉を横に貫いたアイスニードルのせいで声が出せない。
太股と喉に射ち込んだアイスニードルの魔力を抜き、伯爵の居場所を聞き出し案内させる。
伯爵様は執務室にて、嫡男次男と共に密談中だとさ。好都合だね。
夜の伯爵邸、使用人も下がっていて通路に人影は無し。
さくさくと執務室の前に辿り着くと、ノックをせずに扉を開けさせて男を室内に蹴り込む。
素早く室内に入り、ソファーでグラスを傾けつつ密談中らしき伯爵達に、アイスニードルを射ち込み黙らせる。
用済みの執事にアイスアローを射ち込み、目を見開いて見つめる彼等に示しておく。
「さて、喉に突き刺さったアイスニードルを抜いてやるが、大声を出せばその男の後を追わせてやる。判ったら頷け」
三人ともギクシャクとした動きで頷く。
「俺が誰だか判るよな」
「まさか・・・ハルトか?」
「氷結魔法使いで、此処に来る用事が有るのは俺以外にいるのか? 俺のショートソードの柄の事を誰から聞いた」
〈冒険者風情のくせに、貴族に仇為せば此の国で生きてはいけないぞ〉
〈見逃して遣るから、即刻此処から立ち去れ!〉
「ご親切にどうも。此処から立ち去るのは目的を果たしてからにするので気にするな。ザルツ・シュタイア伯爵様、俺の質問に答え無ければ痛い目に合いますよ。ホラードだって、痛みに耐えかねてペラペラ喋りましたからね」
「あの男、目を掛けて遣ったのに簡単に喋りおって」
こいつ等を火炙りにしたら、後始末が面倒なのでもう一度喉にアイスニードルを射ち込む。
「喋りたくなったら頷け、言っておくが痛みは永遠に続くぞ」
そう言って伯爵の手足にアイスニードルを多数射ち込み、ハリネズミの様にしてやる。
喉のアイスニードルのせいで、悲鳴も小さくヒュウヒュウ言っているだけだ。
手足に突き立つアイスニードルの魔力を抜き、全てを溶かすと掌を合わせ魔力を流して傷を治す。
だが手足に突き立つアイスアローが有るので動けない。
「どうだ、傷の具合は」
驚愕の表情で自分の手足を見ている。
「ホラードの時は火炙りにしては何度も治してやったら、直ぐに喋りだしたぞ」
そう言って、三人の眼前にソフトボール大の火球を浮かべてやる。
火球を消して、三人の胸にアイスアローを射ち込むが心臓に影響しない様に気を付ける。
〈クハッ〉
〈ウゲッ〉
〈ヒュー〉
肺を傷付けられて口から血を吐くが、黙って三人を見ている。
若い一人が血を吐きながら泣きそうな顔で首を振るが、気にしない。
「パパに頼めよ、お前に聞いているんじゃない。死ぬも生きるもパパ次第だな」
そう言って伯爵の胸のアイスアローの魔力を抜き、掌を会わせて魔力を流して傷を治してやる。
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