第35話 王家の依頼

 9日振りに王都に帰って来たハルトは冒険者ギルドに立より、獲物の査定を依頼する。

 此処でも買い取り査定の親爺が中々頑固で、危うく親爺の頭にビッグボアを乗せるところだった。

 解体場の親爺は俺がマジックポーチ持ちだと知ると、綺麗に並べろよと一言言ったきり黙って俺の出す物を見ていた。

 綺麗に並べ食堂で待っていると言って、さっさと解体場を後にする。


 買い取り査定の親爺が持って来た用紙には

 ビッグボア、32,000×3頭=96000ダーラ

 ホーンボア、14,500×2頭=29000ダーラ

 オーク、18,000×2頭=36000 ダーラ

 エルク、26,000×1頭=26000ダーラ

 グレイウルフ、7,000×7頭=49000ダーラ

 ホーンラビット、3,000×12頭 =36000ダーラ

 ヘッジホッグ、7,000×7頭=49000ダーラ

 合計321,000ダーラと在る。

 此れにゴブリンの魔石38個76,000ダーラとハイゴブリンの魔石22個の代金264,000ダーラを合わせると661,000ダーラだ。


 ゴブリンの心臓20個とハイゴブリンの心臓22個が手に入ったので、当分は大丈夫だろう。

 受付カウンターで冒険者カードと用紙を渡し、全て預けると告げる。

 前回オークションに掛かったブラックキャット6,200,000ダーラ、ゴールデンゴート3,700,000ダーラの入金があった。

 総額40,000,000ダーラを越えているが使い道が無い。

 欲しいのは最高ランク、ランク12と呼ばれるマジックポーチだけど金貨1,500枚150,000,000ダーラ要るからな。

 ギルドに預けている金額ではとても足りない。


 そんな事を考えているとカードを返してくれながら、コーエン侯爵様から伝言が御座いますとメモを渡された。

 また侯爵様が何か面倒事を言ってきたのかとメモを見ると、王家に渡した薬草の代金を預かっているので取りにきて欲しいとある。

 エールを飲みながら放置する訳にもいかないなと考えていると、ホランに声を掛けられた。


 「いやー、もう王都には居ないかと思ったぜ」


 「そっちこそ未だ王都に居たの」


 「お前さんを探していたんだよ。侯爵様が是非お越し下さいとさ」


 「正直面倒なんですよねー、薬草の代金なんかギルドに振り込んでおいてくれたら良いのに」


 「侯爵様が、ハルトの冒険者カードの事なんて知らないだろうから無理だな。それとドラゴンの事を熱心に聞いているぞ」


 「もう飽きるほど見たからどうでも良いですよ。明日注文しているショートソードを受け取たら伺いますって、伝えておいて下さいよ」


 「判ったよ。お前の伝言係でも、しっかり金を払ってくれるから助かるぜ」


 ・・・・・・


 フラウ鍛冶店へショートソードを受け取りに行くと、待っていた店主に握りの調整をするからと言われ、結構な時間を掛けて調整してくれた。

 濃いチョコレートブラウンの美しい柄と鞘で、満足のいく物になった。

 残金の金貨10枚を渡し、久し振りに腰に重みを感じながら貴族街に向かう。

 何度来ても貴族街の入り口で止められ、あれこれ聞かれて面倒な所である。

 くたびれた格好の冒険者スタイルだからだろう、代金を受け取ったら服でも新調するかと考えながら歩く。


 相変わらず横柄な門衛に来訪理由を告げ、執事のヒャルラーンへの取り次ぎを頼む。


 「侯爵様がお待ちです」


 執事のヒャルラーンの言葉に嫌な予感がする。

 薬草代金を支払うだけなら、執事を介して渡せば済む事で会う必要も無い。

 黙って執事の後を付いて行くが、金を貰ったらさっさとずらかろう。


 「ハルト殿お待たせした、薬草の代金です」


 そう言って執事に頷くと、ワゴンに革袋が三つ乗った物を執事が押して来る。


 「少し多い様な気がするんですが?」


 「ボストーク伯爵からの買い入れ額と同じだそうだ」


 なら遠慮する事も無いので、お財布ポーチに放り込む。


 「それと君に、依頼したい事が有るのだが」


 「ドラゴン討伐なら興味が有りませんのでお断りします」


 「何故かな、話を聞く限り、君ならドラゴン討伐が出来る筈だが。此れは王家からの正式な依頼でも在る」


 「王家からの依頼なら、余計に受けられませんね」


 「理由を聞かせて貰えないか」


 「私は冒険者です、依頼主を選ぶ権利が有ります。去年の魔法比べでの茶番劇と、今回王城での無礼極まりない態度。侯爵様達貴族からすれば、一介の冒険者など取るに足らない存在ですが、私は臣下でも領民でも在りません。私にとって、王家は薬草売買の取引相手に過ぎません。信頼の置けない無礼な相手との取引はお断りです」


 魔法比べの時も、国王の呼び出しに応じて参上したのにあの騒動だ、臣下の無礼極まりない行いに何一つ咎めもせず謝罪も無い。

 今回王家に薬草を売った時も、人の持ち物をいきなり詰問してきて謝罪無し。

 下手すりゃ無礼打ちで首が飛びかねない。


 「御用がそれだけなら帰らせて貰えますか」


 侯爵様が何も言わないので、執事のヒャルラーンを促すが躊躇っている。


 「案内して貰えないなら、勝手に屋敷内を歩かせて貰いますが、何が起ころうと責任は持てませんよ」


 そう告げると侯爵様が執事に頷き、漸く帰る事が出来た。

 面倒くせえ!


王都に居れば面倒事の予感しかしないので、街を出る事を考えたが何処に行こうか悩む。

 此の国の事を碌に知らないから、行く当てが無いんだよな。

 取り敢えず服を新調する間に考える事にして宿に戻るが、誰かにつけられている気がする。

 振り返る様なヘマはしないが、後をつけられていると俺の勘が囁く。


 敵か味方か・・・味方の当ては無いので敵かな。

 恨まれる覚えは山ほど有るので、相手の見当がつかない。

 今のところ敵意は感じられ無いから放置だが、魔力を張り詰めておく事を忘れない様にする。


 放置してホテルで夕食をとっていると、受付で〈ハルト殿は居られるか〉と尊大に聞いている者が現れた。

 王城で見た侍従の様な刺繍が施されたフロックコート姿に尊大な態度は、以前コーエン侯爵様がお呼びだ即刻参れと喚いた奴を思い出した。


 宿の支配人が俺の所にやって来て〈お城よりお使者の方が見えられています〉と伝えてくる。

 好奇心丸出しのワクテカ顔に、吹き出しそうになる。


 人目を気にせず話せる部屋は有るかと問えば、商談室が御座いますとの返事に其処で待たせておけと言って食事を続ける。

 用件は判っている、コーエン侯爵を通じての依頼が断られたので、王国からの依頼に切り替えた様だ。

 然し判って無いね、一冒険者に王国が正式な依頼をするって事が、どれ程の耳目を集めるか。


 商談室に入るとイライラした感じの男が口を開く。


 「その方がハルトなる冒険者か」


 「そうですが、何か御用でしょうか」


 「アルス・ブルーゼン宰相閣下より書状を預かって参った。この場で読んで返事を貰いたい」


 受け取った書状には、王国としてドラゴン討伐を正式に依頼したいので、条件を提示して欲しいとのこと。

 追記として精霊木を是非王家で買い取りたいので、交渉に応じて貰いたいと書かれていた。


 書状を元に戻し使者の男に返す。


 「して返答は」


 「どちらもお断りする、と伝えてくれ」


 〈ヘッ〉って間抜けな声が聞こえた。


 「聞こえなかったのか、どちらもお断りする、だ。宰相閣下にそう伝えてくれ」


 それだけ告げて部屋に戻る。

 俺の後をつけていたのは、侯爵家か王家の者だったのだろう。


 翌朝朝一番、開門と共に王都から逃げ出した。

 行き先は一番近くて大きな街ブルゲン、王都よりヘイエルに向かって四つ目の街で、王都周辺で一番大きい街だと聞いた。

 王都より徒歩移動したので五日かかって到着したが、王都風な感じの街だっが何か見られている感じがする。


 取り敢えず知らない街に来たら、冒険者ギルドで情報を仕入れるのが手っ取り早い。

 道中捕獲したホーンラビットとヘッジホッグに、ゴブリンの魔石を買い取りに出す。

 ホーンラビット6羽×3,000=18,000ダーラ

 ヘッジホッグ2羽×7,000=14,000ダーラ

 ゴブリンの魔石9個×2,000=18,000 ダーラ

 合計50,000ダーラを貰って食道に行き、エールと摘まみの串焼き肉を皿に盛り空きテーブルに陣取る。


 見知らぬ冒険者は興味の対象だから、後から来た男がエールのジョッキを手に座っても良いかと尋ねてくる。

 続いて四人の男達が黙って座り飲み始めたが、誰も何も言わない。

 断って座った男がエールを飲み干すと、気まずそうにテーブルを離れた。

 お友達になれないのは、残念。


 「兄さん何処から来たんだ」


 「王都だよ」


 「一人のところを見ると、何か王都でヘマでもしでかしたのか」


 ヘラヘラ笑いながら、口の泡を袖で拭う。


 「そんな風に見えるのか」


 「なーにこの街に居座るなら、少しはこの街の作法を教えて遣ろうと思ってな」


 「そりゃーまた親切な事で、珍しい作法でも有るのか」


 「なに、大した事じゃ無いな、上がりの二割を俺達に納めれば良いんだけさ」


 「集りにしては堂々としたもんだな、よく今まで五体満足でいられたな」


 〈兄貴此奴は甚振りがいが有りそうですぜ〉

 〈お財布ポーチ持ちとは言い鴨が見つかったな〉

 〈五体満足なのが気に入らないのかな〉


 「二割の上がりが嫌なら模擬戦で方をつけようか、其れともお財布ポーチを差し出すか決めろ」


 「知らないよー、俺って結構強いよ」


 何処にでも居る馬鹿は叩きのめして、周囲の者に俺は危険だと教えておくのが一番てっとり早い。


 〈よーし受けたぞ。ギルマスを呼ぶわ〉

 〈今夜が楽しみだぜ〉

 〈兄貴、俺はショートソードが欲しいな〉

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