第33話 詰問
ホラン達がエリナの宿に移る手続きをしている間に、俺は自室でコーエン侯爵様が送ってきた包みを開く。
マジックポーチと書状が一通、書状には俺が送ったドラゴン討伐に対する推理に関する事と、其れを裏付ける証人の保護を伝えてきた。
森の隠者達の聞き取りから、王家に説明の必要が生じて王都に向かう事と、金色の牙達にマジックポーチを託した事。
出来ればドラゴンを討伐をして欲しい旨が書かれていた。
又、ドラゴン討伐は俺の自由裁量に任せるが、出来れば一度王都の屋敷に顔を出して欲しいとあった。
足はホラン達が乗ってきた馬車を使ってくれとなっていて、用意周到な侯爵様だが人使いが荒そうだ。
マジックポーチはランク12と呼ばれる最高ランクの物で、ドラゴン討伐の際に利用してくれと・・・やなこった。
確かにドラゴン討伐は出来る、脳凍結か心臓凍結でイチコロだが殺す必要を感じない。
金塊や金鉱床にも興味が無いので、王都見物がてらコーエン侯爵に会う事にした。
マジックポーチを返す序でに、ボストーク伯爵の顛末も聞きたい。
のうのうと生きているのなら、俺が心臓発作に見せかけてあの世に送って遣らねばならない。
* * * * * * *
王都に向かう馬車の中ではドラゴン見物の話に花が咲く、従者用の8人乗りの大型馬車だが、大男6人と俺で流石に少し窮屈。
ドラゴン見物は、ホラン達に拝み倒されてゾルクの森に向かったが、谷に降りる際に3人ほど高所恐怖症気味の者がいて大騒ぎ。
青い顔をしてまで必死に崖を降り、それでもドラゴンを見に行きたいのかと呆れるやら感心するやら。
以前ドラゴンに遭遇した辺りを探して、2日目にドラゴンと遭遇した。
俺達を餌と勘違いしているので、ビーチボール大の氷球をバンバン顔面に射ち当てると逃げ出した。
序でに50cm程の氷球を口の中に作ってやったのは秘密。
ドラゴンが口の中の氷に驚いて、目をパチクリさせていたのには少し笑った。
ホラン達はドラゴンを見て逃げ腰だったのに、俺がお仕置きの氷球をバンバン射ち出すのを見て呆れていた。
和気藹々と馬車は進み、王都ドブルクには予定通り10日で着いた。
そのまま馬車は貴族街に入るとコーエン侯爵邸に到着して、侯爵様と面談する事になった。
「ハルト殿、ボストーク伯爵の事を知らせてくれて感謝している。無理を言って済まないが、彼の地を案内出来る者達を知らないかな。出来れば君に護衛として付いて貰いたいのだが」
「それなら侯爵様の領都ヘイエルの街に、谷底の森で薬草採取していた三人を向かわせました。ボストーク領にいては命を狙われる恐れが在ったものですから、名前はエイフ・カロカ・ブルムです。森の隠者達をヘイエルに向かわせたと話すと、自分達も行くと言ってました。ヘイエルの冒険者ギルドに問い合わせれば、居るかどうか判りますよ。彼等はボストーク伯爵が集めたドラゴン討伐の冒険者や魔法使い達を、谷底の森で案内していたベテラン達です。ボストーク伯爵の裏の顔も、有る程度知っていると思いますよ」
「そっ、そうか。早速ヘイエルの冒険者ギルドに問い合わせて、居るのなら急ぎ王都に呼び寄せよう。君はには谷底の森に行く者達の、護衛を受けて貰えないだろうか。出来ればドラゴン討伐も」
「私程度の魔法でドラゴン討伐などとてもとても。ドラゴン討伐の栄誉は他の冒険者にお譲りします」
「ところで折角王都に居るのだ、今年の魔法比べにも出て貰えないかな。当日までの宿の手配と、依頼料として金貨100枚を出そう」
「依頼料が倍になっていますが、何か訳有りですか」
「陛下がもう一度君の魔法を見たいとな。魔法師団の者達に見せて、活を入れるつもりの様だ。それとボストーク伯爵の件で、戦力の強化が必要だとの認識だ」
「一つ条件が在ります。谷底の森で珍しい薬草を多数手に入れていますので、それを買い取って頂ける所を紹介して下されるのなら」
「それはボストーク伯爵が、隠匿していた薬草と同じ物なのか?」
「先程もうしました谷底の森を案内してくれた、3人の言葉に依ればそうなります。彼等はボストーク領を捨てれば買い取って貰える所が無いと、放置してましたので代わりに集めておきました」
「明日宰相閣下と話し合ってみる。ボストーク伯爵は失脚して領地は没収になっているので、彼等が戻ってくれるだろうか」
「それは新しい領主次第でしょうね。無体な事を言わずに公平な取引をすれば、冒険者は集まりますよ」
「今日はこの屋敷に泊まってくれ、明日魔法比べの日まで泊まるホテルを手配しよう」
* * * * * * *
翌日、言葉どうりコーエン侯爵は王城に行き、ブルーゼン宰相に面会を求めた。
「如何為されました、コーエン殿」
「ブルーゼン殿、最上級ポーションの材料となる薬草を持っている者がいます。私に、それを処分出来る所を訪ねて来ました」
「なんと、真ですか?」
「はい、かのボストーク領に送ったハルト殿が、問題の森で薬草を多数採取していると申しました。それと見て貰いたいものが在るのです」
「ハルトとは、精霊の加護を授かっていると言う、彼ですか」
「ボストーク領に迎えの者を出していましたが、昨日王都に到着したと報告がありました」
「王家にも薬草の在庫が少なくて困っていたのです。ボストーク伯爵は集めた薬草を廃棄処分していた様です」
「どうしてですか、貴重な薬草なら何処ででも処分出来たでしょうに」
「噂になるのを恐れた様で、ドラゴンのせいで薬草が採れないと言っているのに、薬草の在庫があるとか余所に卸していると噂になれば、不味いですからな」
明日、ハルトを王城に連れて来ますと約束してコーエン侯爵が下がると、ブルーゼン宰相は直ぐに国王へ報告に向かった。
* * * * * * *
コーエン侯爵様手配のホテルに移動したが、夕方には王城で薬草が不足しているので買い取りたいので、明日の朝迎えに行くと連絡がきた。
王家指定の薬師に売るんじゃないのかと思ったが、頼んだのは此方だし了解する。
魔法比べまでのホテル代も侯爵様持ちだし、無碍には出来ない。
まさか、侯爵様の馬車に同乗して王城に行く事になるとはねぇ、それも正面から侯爵様のお供で入っちゃったよ。
侍従に導かれて、侯爵様は城内をどんどん奥に入って行くので、流石にちょっと不味い気がするが止まれとも言えない。
まー、場違い感が半端ない。
1人は侯爵様、俺は冒険者丸出しの田舎者がご立派な部屋に通された。
流石に侯爵様と並んで腰掛ける訳にもいかず、侯爵様の座るソファーの後ろで待機する。
従者を連れて入って来たのは、魔法比べの時に国王の近くに居た男の様だ。
「ブルーゼン宰相殿、彼がハルト殿です」
コーエン侯爵に紹介されて一礼するが、護衛の騎士の目が恐い。
直ぐに扉がノックされて、入って来たのは数名の下級官僚の様だが、大型のワゴンを押している。
コーエン侯爵様に促されて、マジックポーチに移し替えておいた薬草類を取り出して乗せて行く。
俺が薬草を種類別に並べる傍から鑑定しているが〈まさか・・・こんなに沢山〉とかブツブツと煩い。
最後にクリスタルフラワーを並べると、小さな響めきが起きた。
「クリスタルフラワーにグリーンベル、サラングラス、ホワイトエッジ・・・全て貴重な薬草ばかりです」
そう言って一礼すると、ワゴンの傍らに並んで待機する。
「ハルト殿、代価は後ほど私が預かって渡すがそれで良いかな」
侯爵様にそう言われて頷くと、宰相閣下が薬草を鑑定していた者達を下がらせる。
「ブルーゼン殿お気づきですか。私は実物を見た事が在りませんが間違いないかと」
ちょっと話が見えないが、宰相閣下は俺の腰をマジマジと見ている。
「間違いないと思うが、ハルトと申したな、腰の物を見せて貰えるか」
コーエン侯爵を見ると頷いているが、訳が判らない。
黙って腰からショートソードを外して、進み出た護衛の騎士に渡す。
騎士から俺の剣を受け取った宰相閣下が食い入る様に見ている。
珍しい形の剣だが、宰相閣下が見ているのは柄の部分だ。
「ハルトとやら、この柄は香木の様だが確認させて貰えるかな」
言っている言葉の意味がよく判らないので、侯爵様の顔を見ると頷き説明してくれた。
「非常に珍しい香木によく似ているのだよ。済まないが、僅かばかりだが削っても良いかな」
2人とも真剣な顔で俺の許可を待っているので頷くと、傍らの鈴を振る。
今度は華奢なワゴンを押した女性が現れ、宰相閣下から剣を受け取り柄を極僅か削り取り、その僅かな物を香炉に入れた。
暫くすると薄紫の煙と共に何とも言えない香りが漂ってくる。
香炉の傍らに控える女性がうっとりとした顔で香りを楽しんでいる。
谷底の森で彷徨っていた時に見つけた木が香木とはねぇ。
ショートソードの握りがしっくりこないので、木目の綺麗な木に付け替えたのだが、言葉の端々から高価な品の様だ。
「間違いない、精霊木だ。此れを何処で手に入れた」
詰問調に問われてほいほい話す訳無いだろう、とは言わず首を傾げて見せる。
「聞こえて無いのか! 何処で此れを手に入れたのか聞いている!」
「剣をお返し願いたい。その様に尋問されて答える義務は無い」
護衛の騎士達の気配が変わり殺気が膨らむ。
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