第32話 露見
「父上、王家からの呼び出しですか」
「うむ、ドラゴン討伐の進捗状況の説明と、最上級ポーション用の薬草不足について協議したいと言ってきた」
「あれ程の数の、冒険者や魔法使いを投入して倒せないと為ると、ドラゴン討伐は無理ではありませんか」
「他国にはドラゴンスレイヤーが存在するんだ、倒せぬ筈はない。王家にはもっと腕の良い者を斡旋してくれと頼んでみる。それよりも、私が留守の間に不審な者が地の底に近づかない様に、良く見張っていろ」
「承知しております。しかし、冒険者共は口ほどにない連中が多いですね」
* * * * * * *
王都に到着したボストーク伯爵は王家に王都到着を報告をする。
翌日王城に報告に来る様にとの命を受けて、ブルーゼン宰相と面談した。
ブルーゼン宰相に集められた、冒険者や魔法使いをドラゴン討伐に投入したが被害甚大なることを報告して、陛下のご配慮に報いる事が叶わない事を謝罪した。
ボストーク伯爵の報告を聞き、暫し考えたブルーゼン宰相は陛下も聞きたい事があると言っていたと、別室に案内した。
簡素ながらも手の込んだ家具の置かれた部屋で待つ事暫し、〈国王陛下です〉の声に跪く。
「ボストーク良く来た。ドラゴン討伐の話を聞きたいのだが、その前に少し疑問に答えてくれ」
「どの様な事で御座いましょうか」
「ドラゴンだが、何時からゾルクの森と呼ばれる場所に住んでいる」
思わぬ質問に、ボストーク伯爵が言葉に詰まる。
「その方の領地から以前より薬草を仕入れていたのだが、何故今になってドラゴン討伐を言い出した?」
「それは、その・・・最近になってドラゴンの被害が酷く・・・」
「では、その地で薬草採取をしていた冒険者が、金塊を見つけたとの噂を知っているのか」
「はい。その冒険者の噂を確かめたところ、酒に酔っての不慮の事故で死んでいました。身元確認の為に警備の者が持ち物を改めましたところ、多数の金貨を所持していたとの報告を受けています。多分、金貨が金塊と、誤って伝わったものだと思われます」
「そうか、ではドラゴンの住まう、地の底を封鎖しているのは何故だ」
「恐れながら、その様な事実は御座いません」
国王がブルーゼン宰相に頷くと、ブルーゼン宰相が近衛騎士に頷く。
部屋に入って来たコーエン侯爵を見て、ボストーク伯爵の顔が強ばる。
「コーエン侯爵の差し向けた冒険者を知っているな、その者からコーエン侯爵宛てに書状が送られた。書状を届けた者は、森の隠者と申す冒険者五人組だ。彼からの書状には金鉱床が地の底、谷底の森と呼ばれる場所に有るとボストーク伯爵が確信しているとな。その為に、地の底に降りる者を抹殺する命令を、森の隠者に命じていると知らせてきた。そう命じられた生き証人に、書状を託してな」
冷や汗を流すボストーク伯爵の背後には、近衛騎士が静かに控えている。
「ボストーク伯爵、金鉱床か金塊か知らぬが、王国の法には、金鉱床や金が発見されたか、有ると疑われる場合は即座に王国に報告の義務が有るのは知っているな。ドラゴンを理由に最上級ポーション用の薬草を隠匿し、予を謀った罪は重いぞ」
国王が手を振ると、近衛騎士がボストーク伯爵を連行していく。
「コーエン、ハルトと申す男はドラゴンを討伐出来ると思うか?」
「魔法比べの標的射撃にて、的と共に背後の防壁を撃ち抜いた男で御座います。噂に聞くドラゴンスレイヤーは、皆高ランクの魔法使いです。彼がドラゴンスレイヤーたり得るかどうか、何とも申せません。しかし、森の隠者と名乗る冒険者達の話を聞きますに、彼は一人で地の底と呼ばれる場所を探索していたようです」
「ブルーゼン、ボストーク伯爵領を制圧、接収する準備をしろ」
* * * * * * *
久し振りにグリムの冒険者ギルドに現れたハルトは、買い取り査定の所に行きゴールデンベアの査定を頼む。
それこそ、頭の天辺から足先までジロジロ見られたので、マジックポーチを目の前で振って見せた。
それでも半信半疑な買い取り係に案内されて解体場に向かう。
「あーん、ゴールデンベアだって、お前がか?」
「何処に出せば良いのか言ってくれ」
「その辺に適当に出せ」
「他にも有るのだが、適当に出して後から文句を言うなよ」
「待て待て、他にも有るって・・・何を持ってきた」
「ゴールデンベアとビッグエルクにホワイトゴートとビッグホーンゴートだな」
「お前・・・谷底の森に行っていたのか」
「ああ、結構大物が居るな」
「薬草は持って無いよな」
「ああ、薬草は伯爵様に渡さなければならないと聞いたし、薬草の種類も知らないから採ってないぜ」
ゴールデンベア2頭、
ビッグエルク3頭、
ホワイトゴート1頭、
ビッグホーンゴート1頭、
並べ終わると、査定を頼み食堂に居るからと告げる。
食堂では、相変わらず人の事をジロジロ品定めしてくる。
馴染みの冒険者ギルドではないし、ソロのお財布ポーチ持ちだから注目度が高い。
「兄さん、何処から来たんだ」
「あー、ゾルクの森からだよ」
「羽振りが良さそうだから、一杯奢ってくれよ」
5人の男達が、俺を見下ろしてニヤニヤ笑っている。
見知らぬガキだと思っている様なので、ちと脅しておく事にした。
「あーこの間も俺にそんな事を言ってきた奴がいたな。模擬戦で纏めて叩き潰したが知らないのか。確か三月くらい前になるかな」
〈おい、モラン達がやられたあれじゃ〉
〈俺は抜けるぜ〉
〈彼奴ら借金奴隷になっちまったからな〉
〈兄さん済まねえ、忘れてくれ〉
そう言ってそそくさと食堂から出て行った。
「おう、ハルトだったな査定が終わったぞ」
渡された査定用紙には
ゴールデンベア2頭、金貨13枚と12枚=25枚
ビッグエルク3頭、金貨7枚×3=21枚
ホワイトゴート1頭、金貨9枚
ビッグホーンゴート1頭、金貨11枚
思ったより安い、買い叩かれている気がするが、マジックポーチに戻すのも面倒なので了解する。
合計金貨66枚、谷底の森の獲物は二度と此処には持って来ない事にする、また行く事があればだけど。
翌日市場へ食料の買い出しに行くと、様子がおかしい。
噂話に耳を澄ますと、早朝もの凄い数の軍人達がボストーク伯爵様の所に向かったと言っている。
こりゃー森で遊んでいる場合じゃない。
国王配下の軍が動いた様だし、ボストーク伯爵と嫡男を殺す手間が省けた様だ。
コーエン侯爵様が俺の書状と、森の隠者達の証言を信じ国王に注進したに違いない。
エリナの宿に部屋をとって暫く見物させて貰おう。
一日一度冒険者ギルドに出向き、のんびりと夕食を食べエールで暇潰しをしながら噂話を聞く。
昼は市場を彷徨き、宿でショートソードの柄の手直し。
余り使わないがどうもしっくりこないので、谷底の森で拾った木目の美しい木に付け替えているのだが、堅くて手間取っている。
噂では、ボストーク伯爵家に逗留していた、冒険者達多数が王都に送られた様だ。
勿論、ボストーク伯爵の嫡男や家族も同様らしいが、箝口令が敷かれているのか細切れの情報しか無い。
何時もの様に冒険者ギルドで夕食を取っていると、懐かしい顔が食堂に入ってくる。
新顔の6人組にそこ此処から値踏みする声が聞こえて来るが、周囲を見回す男に手を振る。
「ハルト会えて良かったぜ。ドラゴンは見たか?」
「ああ、結構でかいのな」
「マジかよー」
「討伐出来そうか」
「お前なら遣りかねんからなぁ」
「その時は俺達も呼んでくれよ」
「ドラゴン討伐見物って、一世一代の見物だからな」
周囲から失笑か漏れる。
〈兄さん達、随分話がでかいな〉
〈ドラゴン討伐だってよ〉
〈今度の新顔達は、法螺吹きパーティーらしいな〉
〈エールを飲む前に、法螺を吹く奴を初めて見たわ〉
〈まっ、ドラゴンなんて見た事の無い奴の戯言だな〉
〈どうせドラゴンを見たら、ママーって泣き出すさ〉
〈イヤイヤ、チビって腰を抜かすのが落ちさ〉
〈なんだぁー、遣ろうってのか〉
〈面白ぇ、ちぃーと馬車旅で身体が鈍ってるんだ〉
〈おまえ、偉そうにほざいているからには、遣るよな〉
ホランやサラン,ドンザ達が立ち上がり、揶揄ってきた男達に向かう。
俺は黙ってエールを飲みながら、そいつ等を睨み付ける。
周囲が静かになったので、ちょっと揶揄ってみる。
「背中を向けて揶揄う事は出来ても、正面切っての模擬戦は出来ないのか。お前達8人も居るのだろう。隣のテーブルの奴も調子に乗って揶揄っていたからな。総勢14人も居るんだが、それでも恐かったら黙って食堂から出て行け!」
「お前大丈夫か、俺達はお前達の倍いるんだぞ」
「模擬戦は、頭数じゃ無いって事を教えてやるよ。やる気が有るのならギルマスを呼べよ、何時でも相手をしてやるから」
「ハルト、偉くやる気になってるじゃねえか」
「団体での模擬戦って、やった事無いから楽しみだよ♪」
「お前なぁ」
「ハルトに掛かると、模擬戦も遊びと変わらんな」
「まっ、プラチナランカーをぶちのめすシルバーランクだからな」
「こっちにハルトが居れば、50人位は相手できるな」
「よし! ギルマスを呼ぶぞ。良いな!」
ホランがそう告げると、顔を見合わせばつが悪そうに下を向いて食堂から出て行った。
周囲で見ていた者達から、失笑と野次が飛ぶ。
改めて再会を祝して乾杯、近況報告と言う名の状況説明を受ける。
思った通り、森の隠者達は無事コーエン侯爵様に書状を届けてくれた様だ。 ホランが改まって、コーエン侯爵様からの預かり物だと小さな包みを渡された。
ギルドの食堂で包みを開ける訳にもいかず、ホラン達共々エリナの宿に向かう。
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