第30話 ドラゴン

 森の隠者の五人を送り出した後は、下に降りて行った者が帰ってくるのを、ひたすら待ち続けた。

 8日目に帰って来たが、下に降りたのが18人だが帰って来たのは12人だった。

 皆疲れ切った顔で崖を登って安心したのか、其処此処で座り込んで話をしている。


 俺が歓談中の彼等の前に姿を現すと、訝しげに見ていた。

 一人が〈黒目黒髪ってハルトって奴じゃね〉と言ったので一気に緊張が高まる。

 敵意をむき出しに立ち上がる彼等を座らせる為に両足と両肩にアイスニードルを射ち込む。


 〈お前は死んだ筈じゃ・・・〉

 〈何をした〉

 〈糞ッ、こんな魔法使いだとは聞いて無いぞ〉

 〈此奴無詠唱で・・・〉


 「お疲れの所を申し訳ないが、谷底の森の案内人は誰だ」


 「お前何をした」


 〈俺達は敵じゃないぞ〉

 〈いきなり攻撃してくるなんて、酷いじゃないか〉


 「ドラゴンと出会えた様だな、6人足りないがどうしたんだ」


 「お前・・・俺達を見張っていたのか」


 〈王家の回し者か〉

 〈黙ってろ!〉


 「王家に知られると不味い事でも有るのかな」


 皆一様に黙り込んだ、分かり易い奴等だこと。


 「取り敢えず居なくなった6人の事から聞かせて貰おうか」


 そう言いながら両手足をアイスアローで地面に縫い付け、アイスニードルの魔力を抜く。

 地面を凍らせ、突き立つ矢の先端と繋いで抜けない様にしているが、誰も気づいていない。

 テニスボール大の火球を一人の腹に乗せ、此れから自分達がどんな目に合うのか見せてやる。


 〈止めろ! 熱い! やめてくれ・・・ お願いだやめて〉


 段々と声が小さくなっていき、やがて気を失った。

 皆黙って見ていたが、誰も何も言わない。


 「帰ってこなかった6人は、どうしたと聞いているのだが喋れば都合の悪い事でも有るのか?」


 流石は選ばれた高ランク冒険者だ、肝が据わっているが果たして何人が最後まで耐えられるかな。

 次の男にはバレーボール大の火球を腹に乗せてやった。


 〈ウオーォォォ 熱い止めてくれ! ウギャーァァァ〉


 気を失っても腹の上で火球が燃え続けるが、動かなくなったので多分死んだな。

 始めに尋問した奴の火球は消えたが、腹が大火傷で此れも虫の息って感じだ。

 三人目の前に立つ。


 「質問を変えようか。この中のリーダーば誰だ?」


 真っ青な顔で俺を見ていたが、問いかけに答える素振りを見せないので又テニスボール大の火球を腹に乗せると、喋るから消してくれと懇願してきた。

 フレイムの魔力を抜いて消してやるとほっとした顔になる。


 「で、リーダーは誰だ」


 「赤い髪の狼人族の男がリーダーだ」


 「序でに、帰って来なかった6人はどうした」


 「死んだよ・・・ドラゴンに食われてな」


 「勝てそうか」


 「ドラゴンにか? 馬鹿を言うな、あんな化け物にゴールドランクやプラチナランクでは歯が立たん。優秀な魔法使いでなけりゃ無理だ、噂のドラゴンスレイヤーは皆魔法使い達だ」


 「この中に魔法使いらしき者は居ないが」


 「だから皆死んだよ。俺達は奴等の護衛に雇われたが、蹴散らされた隙に喰われっちまったよ」


 谷底の森の案内に付いてる奴が三人居たが、ドラゴンの住む場所まで案内するのが仕事だと言った。

 ボストーク伯爵が雇い入れた冒険者や魔法使いを、案内するだけの仕事で一日銀貨3枚を貰って雇われているが、本来は薬草採取が専門だと言った。

 ボストーク伯爵が何故ドラゴン討伐を企んだか、その理由を知っているかと聞くが何も知らない様だった。


 まっ、こんな所に金塊を見つけた男を連れて来たら、雇った奴等に金を横取りされるのが目に見えているからドラゴン排除が先だな。

 未だ息の有る奴を含めて8人から6個のお財布ポーチを取り上げる。

 流石はゴールドプラチナランカーの集団だ皆さん、必要な物は手に入れているな。

 其れ其れ使用者登録を外させるが、渋る奴の腹に火球を乗せて炙ってやると素直に登録を解除してくれた。


 谷底の森を案内していた三人に、ドラゴンの所まで案内してくれるなら命は助けてやると交渉する。


 「こんな手足に穴を開けられてどうやって案内しろって言うんだよ」


 一人が切れ気味に言ってくる。


 使用者登録を外されたお財布ポーチを拾い上げ、ひっくり返すと中身がボロボロと落ちる。

 落ちてきたポーションの瓶を見せ、飲んで動ける様になったら下に降りるか此処で死ぬか決めさせた。


 「ポーションを飲んで動けるなら案内してやるよ。死んでも知らねえぞ」


 残り二人も頷くのでアイスアローの魔力を抜き、ポーションを投げてやる。

 ゲロマズのポーションを飲み、顔の歪む三人をベースキャンプに入れて休ませる。


 「言っておくが、お前達だけが伯爵の所に逃げ帰ったら死ぬ事になるぞ。森の隠者達はとっくに逃げ出したからな」


 「そう言えば、奴等が居ないと思ったがそういう訳か」


 「俺を殺せと命令しているのにお前達だけが帰ったら、伯爵はどう思うか考えてみろよ。お前達以外誰も帰らないとなれば、俺に返り討ちになったと思うさ。なのにお前達が生きていれば何かを漏らしたと思われて・・・」


 顔色の変わった奴等に頷き、残りの奴等の始末に向かう。

 少し考えれば俺は死んだと思われているし、この現場の事は他に誰も知らないのに、俺の言葉を簡単に信じる。

 信じる者は騙されるって言葉を教えてやりたいよ。


 ぶち撒けた物の中から、ポーションと革袋だけを俺のお財布ポーチに入れ、残りを取り上げたお財布ポーチに戻す。

 お財布ポーチ6個を俺の空間収納に仕舞うと、魔力操作で試してみたい事が有るので虫の息の男でやってみる。

 アイスアローの魔力を抜き、男の上半身から衣服を剥ぎ取る。

 腹に大火傷両肩に矢傷、男と掌を合わせゆっくりと男の魔力を探る。

 僅かな魔力を探り当て其れに自分の魔力を同調させるが、中々上手く行かない。

 生活魔法程度の魔力に何とか合わせ、極少量の魔力をそろりそろりと流し込み身体全体に行き渡らせる。

 男が苦悶の表情になるが、此れは想定内だ。

 自分の魔力以上の物が流れ込んだときに、こうなるのはゴブリンの心臓で経験済み。

 身体全体に極少量だが魔力を張り巡らせると、男の矢傷が塞がっていく。

 そのままの状態を維持すると、腹の火傷も治り始めたので中止する。


 〈お前、治癒魔法も使えるのか?〉

 〈馬鹿な、俺の知る治癒魔法と全然違うぞ〉


 傷を治した男の脳を凍らせ、騒ぐ男達の脳も次々と凍らせ黙らせると、死体はマジックポーチに入れて保管する。

 谷底の森で適当に放置すれば証拠隠滅、余り意味はないが綺麗に片付くってものだ。


 後は谷底の森を案内させる三人の怪我が治るのを待って、谷底の森見物だ。

 一週間程で何とか普通に歩ける様になったので、谷底の森を案内させる事にした。

 其れに先立ち、取り上げたお財布ポーチ6個の中からポーションと革袋を抜いた物以外の5個を、彼等の前に投げる。


 「好きな物を取れ、今回の報酬だ。終わったら各自金貨5枚をやるから、其れを使ってグリムの街から逃げ出すんだな。森の隠者達には、此の地の事を王家に知らせる書状を持たせて送り出した。此の地に居れば殺されるか、とばっちりで犯罪奴隷になるかもな」


 「やっぱりあんたは王家の回し者か?」


 「そんなご大層な者ではないが、俺をボストーク伯爵に紹介した貴族から、王家に連絡が行くはずだ」


 彼等の案内で再び谷底の森に降りるが、今回は彼等が使う安全なルートを降りたのであっという間に下に着いた。

 エイフ、カロカ、ブルムと名乗った三人は、何時も来ていると言っただけあって迷いなく歩く。

 最もドラゴンの住まう場所までの道は、何度も多数の人間が歩いているので獣道が出来上がっていた。


 途中で殺した冒険者の死体を適当に捨てながら、丸一日歩いてドラゴンの徘徊する地帯に到着した。

 意外に殺風景な感じの所で巨木か低木に草叢だけの場所だ、聞けばドラゴンが木を齧ったりするので、中途半端な木は枯れるかへし折られるそうだ。

 草原の様な場所に草食動物が集まり其れを狙って肉食獣が集まるって、食物連鎖の縮図かよと突っ込みを入れたくなる話だ。

 頂点のドラゴンはさぞや腹が減っている事だろうと思ったが、結構獣が多く何度も大型の野獣や魔物に出会った。

 エイフ達は事前に接近を察知し、身を隠して遣り過ごす術を身につけていて感心する。

 俺ならアイスバレットで追い返すけど、他領の冒険者のやり方は勉強になる。

 野営は俺と同じ様に樹上に塒を造るが、ハンモックで吊り下げた周囲を茨の木で防御する簡易的な物だった。

 俺のヘッジホッグハウスはドラゴンに踏み潰されると不味いので、見習ってハンモックで寝る事にし、取り上げたお財布ポーチの中に有ったのを使用する。


 ・・・・・・


 「ハルト逃げないと」


 「大丈夫だよ、暫く隠れていなよ」


 〈そんな事言ったって、死ぬぞ〉

 〈彼奴らが束になっても勝てないのに〉


 まあ、一応心配してくれているがドラゴンだって生き物なんだよね。

 脳凍結か心臓凍結でイチコロよ、しないけどね。

 然しドラゴンねー、確かにドラゴンだがコモドドラゴンじゃーねえか(怒!)

 でかいだけのオオトカゲ、うん、この大きさで鎧の様な皮膚じゃ刀槍は役立たずだよな。

 此奴は意外に足が速く、然も舌が長くてシュルシュル伸びてきて気持ち悪い。


 ちょっと逃げて傾斜地で地面を凍らせると滑って転んでやんの。

 指差して笑っていたら、物陰に隠れていたブルムとカロカが覗いて呆れている。

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