第20話 腕比べ

 「自分の実力を他人に知らせる気は在りませんので、そのお話は受けられません。但し現在まで他人に見せた程度の魔法で良ければ、受けても宜しいですが、手抜きと言わない事が条件です」


 「実力は知られたく無いが、受けても良いとはどういう事だ」


 ギルマスが不思議そうに聞いてくる。


 「他の冒険者や魔法使いの実力を知りたいだけです。自分以外では、侯爵様の火魔法使いしかまともな魔法を目にした事が無いですからね。様々な魔法を見てみたいと常々思っていましたから。後は条件次第ですね」


 「近々王都に出向く事になるので、その時に同道して欲しい。往復の日数と王都に滞在中は一日銀貨2枚の報酬を支払う。勿論ホテルや食事は全て私が負担する、腕比べの報酬は勝てば金貨100枚、負けても金貨10枚を約束しよう」


 「腕比べの報酬が高すぎませんか」


 「此れは各貴族が、自慢の魔法使いを集めた腕比べも同時に行われるのだよ。私の魔法部隊の者も出場するが、君はアーマーバッファローを一人で三頭討伐した実力を示して欲しい」


 「つまり各貴族の力の誇示・・・見栄張り大会でも在るのですね」


 侯爵様が爆笑している。


 「報酬に不満は在りませんが、一つだけ条件が有ります。私に命令出来るのは侯爵様一人に願います。それ以外の方の命令や立場を利用しての彼此は全て拒否します、もし強要するなら相応の反撃を許して下さい」


 その条件が受け入れられたので、出発日が決まれば月夜の亭に連絡すると言われて侯爵邸を後にした。

 ギルマスの馬車に同乗して冒険者ギルドに行き、マジックポーチの獲物を処分する事にした。


 買取のおっちゃんと一悶着だ、獲物が多いので解体場に案内してくれと言ったが、信用せずに此処で出せとご機嫌斜め。

 俺がマジックポーチ持ちだと余り知られたく無いのに、無神経な言動で頭にきたので、買い取り査定の机の上にオークをドンと置いてやった。


 「なっなな、こんな大きな物は解体場に行け!」


 「だからさっきから言ってるだろうが、人の話も聞かず此処に出せと言ったのはお前だ! さっさと解体場に行かせろ!」


 「未だ有るのか?」


 「だからさっきから言ってるだろうが、何度言わせるんだ! 己の頭の上に積み上げれば満足か」


 此処まで言って漸く、解体場に行き係員を呼んだ。

 此処でもなかなか信用せずに揉めて、狭い場所に山積みにして置いたら怒りだしたので大喧嘩になった。


 「文句が有るなら人の話を信用しなかった己を恨め、屑野郎が。己が冒険者なら、即刻模擬戦に引きずり込んで叩きのめしてやるのに」


 山積みにした獲物を綺麗に並べろと喚いていたが、己の言いつけ通り出したのだから、後はてめえがやれと捨て置いた。

 これで査定額が下がったら、脳溢血ならぬ脳凍結であの世に送ってやる。

 仏頂面の買い取り係りが査定用紙を持って来た。


 オーク、18,000×3=54,000ダーラ

 ビッグフォックス、40,000×1=40,000ダーラ

 グレイウルフ、7,000×4=28,000ダーラ

 ブラックウルフ、7,500×3=22,500ダーラ

 プレイリーウルフ、5,000×6=30,000ダーラ

 エルク、30,000×1=30,000ダーラ

 ビッグホーンゴート、35,000×1=35,000ダーラ

 バッファロー、25,000×3=75,000ダーラ

 ホーンドッグ、5,000×9=45,000ダーラ

 ホーンボア、14,500×3=43,500ダーラ

 総額403,000ダーラ、まぁこんなもんかと全てギルドの口座に入れる様に頼みエールを飲みに行く。


 出発までに食料の仕入れと、貰ったマジックポーチとお財布ポーチの中を調べ、不要な物の処分とマジックポーチのランクを調べる必要がある。

 剣とナイフ多数・・・冒険者に不似合いな高価な物も結構有った。

 衣類、男女の衣類はサイズもバラバラで、全て被害者の物だと思うと気が重い。

 宝石や髪飾り等も同じでウンザリした。

 金もそれなりに有ったが革袋に纏めて入れ、自分のお財布ポーチにポイする。


 武器屋、古着屋、宝石商等を巡り全て処分したが、行く先々で不審がられ説明が大変だった。

 納得できなければコーエン侯爵様に訴えろと言い、此れはサラセン商会の被害者の物だと説明する。

 サラセン商会の違法奴隷売買と捕り物騒ぎは、街の一大ニュースになったからそれで納得してくれた。

 買い叩かれた様だが、元々タダで手に入れた物だし未練は無いので何でも良かった。


 最後にモーラ商会でマジックポーチのランクを調べてもらい、ランク4と判明した。

 お財布ポーチ一個を予備に残し、残り3個とマジックポーチは引き取って貰った。

 ランク4が金貨200枚、お財布ポーチは一つ金貨20枚と新品価格の1/3のお値段で引き取ってもらえた。


 合計金貨260枚が手に入ったので中古で買ったランク5のマジックポーチに金貨200枚を足し、ランク6のマジックポーチに買い換えた。

 モーラさんも簡単に買い換える俺に苦笑いしている。

 少しでも容量の大きい方が何かと便利だと思うので躊躇いは無い。

 それでも金貨60枚が手元に残り700万ダーラ以上が懐に有る計算になるし、賊の金も幾らか有るので当分は大丈夫だろう。


 落ち着いたらベースキャンプ用の頑丈な箱を作り持ち運びして安眠できる様にするつもり。

 2×2×3~4メートル程度の頑丈な木箱に、ハリネズミの如く棘を植えて野獣や魔物に襲われない物なら、何処にでもベースキャンプを持ち歩ける。

 まっ作ってみなけりゃ判らないから先の話だ。


 10月の末に王都に向けて出発と決まり、前日に侯爵邸に泊まり従者の馬車に同乗する事になった。

 王都ドブルクまで馬車で12日の距離、近いのか遠いのか知らぬが移動には不便な世界には違いない。


 前日の夕方侯爵邸に出向くと、執事のヘイルから同行する従者の一人を紹介された。

 同行する従者やメイドの責任者で、カークと名乗ったが自分の配下に対する物言いだったのでヘイルに確認した。


 「ヘイルさん、王都に同行する条件は全ての人に伝えていますよね。伝え忘れた為に、生死を問わず問題が起きても其方の責任ですよ」


 「勿論です。ハルト殿に対する言動はくれぐれも注意する様にと、厳しく言って在ります」


 カークに案内されて使用人部屋の一つを与えられ、食堂で夕食を食べた後はさっさと寝る事にした。

 ゴブリンの心臓を食い、魔力循環してから自己魔力共々一気に放出して眠りに就く。

 ゴブリンの心臓はたっぷり有るが、ハイゴブリンの心臓の補充が出来なかったのが心残りだ。


 翌朝カークに指示されたとエドと名乗る男に起こされ、朝食後従者達の馬車に同乗して出発した。

 エド曰く王都迄の間はエドが俺の世話係をする事になったと言う、カークは冒険者である俺の扱いを執事との遣り取りで嫌った様だった。

 王都迄の12日間従者達と生活を共にするが、冒険者の俺は彼等とは切り離された存在だ。

 冒険者10名騎士10名、侯爵様の馬車の後ろを従者とメイドの馬車が続き、その後ろを騎士10名冒険者10名が続く隊列で旅が始まった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 退屈な旅の果てに王都到着したが、侯爵邸の使用人部屋の一つを与えられて暇な日々が続く。

 王都屋敷の執事は老エルフ、ヒャルラーンって舌を噛みそうな名前で、此処でもエドが引き続き俺の世話係になった。

 まあ、貴族の屋敷内に冒険者が一人混じっているのは異質だし、俺に迂闊な態度を取れないから敬遠される。

 魔法の腕比べが終わるまで、自由行動が出来ないのは極めて不自由だが此れも仕事と諦める。


 朝食後何時もの剣と槍の練習を済ませると、侯爵邸内に有る訓練場で魔法の練習という名の暇潰しをするのが日課になっている。

 然し全力での訓練は出来ないし見せる気も無いので適当にやるが、侯爵様お抱えの魔法使いの腕を見ていると、此の世界の魔法使いは魔力の扱い方を知らないと判る。


 最も俺も大した事は無いが、以前矢を射ち込まれた傷が綺麗に治っている事に気づいて、魔力循環と魔力放出以外にも魔力の効能が有ると判った。

 考える時間はたっぷり有った、馬車の中では魔力循環に明け暮れ夜は考え疲れると魔力放出をして眠りに就いた。

 そしてある日天啓の様に悟った、魔力は万能だ! と。

 冒険者をしている限り、魔力操作ができる事は万能の力を手に入れたも同然だと理解した。


 12月の始めに王都防衛軍訓練場にて魔法の腕比べが始まった。

 各貴族お抱えの魔法使い部門と、貴族が領地内に住まう領民や冒険者の中から魔法の優れた者を帯同し、領地に住まう者の優秀さを誇示する茶番劇が。


 前夜侯爵様の執務室に呼ばれ、初めて侯爵邸で示した程度の魔法とアーマーバッファロー討伐の力だけは示してくれと、改めて頼まれた。

 理由は聞かなかったが、貴族同士の確執が有るのは間違いないだろう。

 俺には関係ない、貰うべき報酬分の働きと他の魔法使いの力を観察するだけだ。


 貴族お抱えの魔法部隊に依る標的射撃の展示から始まった。

 風水火土雷氷の中で、攻撃に向かない風魔法と水魔法を除いた魔法使いが夫々の技を披露する。

 貴族の名と授かった魔法名に魔力が紹介され、得意の魔法を披露していく。

 石積みの壁の前に立てられた標的に向かって、火魔法や土魔法に雷撃魔法と次々と的に当てたり射ち抜いたりと中々の腕前だが威力が小さい。

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